2022年9月14日~16日に東京ビッグサイトにおいて、SUBSEA TECH JAPAN 2022(第4回海洋産業技術展)が開催された。測深や点検を目的とした最新の水上ドローンや、さまざまなサイズや形状の水中ドローンが数多く展示されており、本稿では東陽テクニカ、JOHNAN・東京久栄・ミカサ商事(3社共同出展)、マツイ、スペースワン各社展示ブースの許可を得て取材した内容をレポートする。また、FullDepthとコスモス商事はセミナー「海洋ロボットとその応用(浅海応用)」に登壇した。

東陽テクニカは「マルチビーム搭載小型無人ボート」が注目

 東陽テクニカの展示で特に注目を集めていたのは、マルチビーム搭載小型無人ボート「TriDrone2020」だ。アメリカのSeafloor Systems社と東陽テクニカが共同開発し、2022年春にデビューした新機体だという。

 陸上のPCから無線通信でオペレーションできる水上ドローンで、慣性GNSSジャイロとマルチビーム測深機を搭載しており、自動航行で高精度な測量データを取得できる。

「TriDrone2020」

 従来の手法は、船にソナーなどの計測機器を搭載して行うため、船をチャーターするコストが高い、操船スキルに依存する、浅い場所には不向きなどの課題があったという。TriDrone2020は、手軽に使えて運用コストを低減できるうえ、最大波高50cmまで対応、測深点数最大1024点、周波数700kHzの超高分解能という高品質で、解体して運べるため可搬性も高い。速やかに測量することが求められる港湾工事や、河川やダムの水底調査に、特におすすめだという。

「TriDrone2020」前方から撮影

 同社展示ブースで次に人目を引いていたのは、カナダのSEAMOR社製「Chinook(チヌーク)」のカスタマイズ機だ。Chinookは中型ROVに区分されており、空中重量は33kg、大人数名が手持ちで運ぶことも可能だという。展示のカスタマイズ機は、中段に7軸のアーム、下段にサンプラーが搭載されていた。

「Chinook」のカスタマイズ機
「Chinook」のカスタマイズ機を前方より撮影

 また、アメリカのOCEANROBOTICS社製「SRV-8」や、スロバキアのGNOM社製の超小型ROV「GNOM」も、東洋テクニカが取り扱っているカスタマイズ可能な水中ドローンとして展示されていた。

 日本国内ではまだあまり目立たないSRV-8だが、物体を把持する力が強いのが特徴で、海外では、水難救助で要救助者を発見したら掴んだまま水中にとどまり、潜水士が水中ドローンのケーブルを辿って救助に駆けつけるという、人間と水中ドローンの協業が実現しているという。

「SRV-8」

 超小型ROV「GNOM」は、空中重量3kg程度で、海外ではオイルパイル内部の劣化状況確認など、人間が潜れないところでよく使われている用途特化型水中ドローン。流れが強い場所では運用できないため、用途を明確にしてカスタマイズして購入する事業者が多いという。

超小型ROV「GNOM」

 東陽テクニカは、バリエーション豊富な機体展示のほかにも、2022年から取り扱いを開始したというイスラエルのSeaErraVision社製「SeaErra ソフトウェア」も紹介していた。コントラストレベルなどの調整により画像を鮮明化するツールで、リアルタイムと後処理に対応している。

JOHNAN、東京久栄、ミカサ商事は3社共同出展

 JOHNAN、東京久栄、ミカサ商事の3社は、共同で出展していた。中国のDEEPINFAR OCEAN TECHNOLOGY社製「MOGOOL」(モグール)シリーズの人気の2機種と、東京久栄が製造してミカサ商事が販売する新製品の点検用水上スライダー「Hy-CaT(ハイキャット)」をお披露目した。なお、ミカサ商事はMOGOOLも取り扱っているという。

 いや正確にいうと、水中ドローンの展示数は“3点”だった。1つめは、アームや前方検知用のソナーなどを2kgまで搭載でき、産業用エントリーモデルとして人気の「MOGOOL-PRO P1600-C」。機体の空中重量は約20kgながら、マグロの養殖場でも使えるほど頑強だという。

「MOGOOL-PRO P1600-C」

 2つめも産業用エントリーモデルで、空中重量は約36kg、MOGOOL-PRO P1600-Cよりもパワーのある「MOGOOL-PRO P3000-A」。最大の特徴は、金属製の「パワースラスター」で、前進推力は18kgf。ちなみに以前、東京久栄が保有する機体を取材させていただいたが、空中重要約50kgで耐用水深200mの広和製「Marine VEGA」は前進推力17.6kgfとのことだった。比較すると、いかにパワフルであるかがうかがえる。

「MOGOOL-PRO P3000-A」

 そのパワースラスターも展示されていた。両手で持ち上げると、ずっしりとした重さがあった。回転させてみようと軸を指で掴むも、3本の指でしっかりとつまんで意図して回さなければ、自然に軽々しくは回らないほどだった。このため、潮流が強い場所でもパワフルに動けるそうで、排泥装置を搭載して小規模な浚渫工事を行うなどの水中作業も見込めるという。オプションの自由度も、MOGOOL-PRO P1600-Cより格段に高い。

パワースラスター

 そして“3つめ”は、まさかのラッピング展示。来年発売予定の新機種らしきものが、告知としてお披露目されていた。詳細情報はまだ非公表だが、大きさはMOGOOL-PRO P1600-Cより少しコンパクトになるようで、小型へのニーズに対応した機種だろう。

新機種のラッピング展示

 新製品の水上スライダー「Hy-CaT(ハイキャット)」は、水中ドローンでは点検しにくい桟橋の下や暗渠、カルバートなどでの調査や点検を目的として開発された。2基のスクリューと2本のエアチューブフロートに折り畳み式の船体というシンプルな構成で、水中カメラやサイドスキャンソナーなどを搭載しやすいプラットフォーム型機体だ。無線制御と有線制御を換装可能。

水上スライダー「Hy-CaT」

 昨年、初めて一般公開されたときにも、向かい風による波に加えてうねりがある悪条件にも負けず、支障なく航行できたとのことで、安定性が示されているほか、エアチューブフロートの素材には強度が高く折り畳める消防ホースが活用されており、収納性と可搬性が高いため宅急便配送できるところもユニークだ。

エアチューブフロートの素材

マツイは「DeepTrekker DTG3」の操作実演も

 マツイは、カナダのDeep Trekker社製「PIVOT」と「DTG3」を展示した。特に多くの人が足を止めていたのは、水槽で行われたDTG3の操作実演だ。

 DTG3には、スラスター2基しか搭載されておらず、運動性能は前進後退と前後左右のチルトとやや限定的だ。前方を下に傾けて前進することで潜航する。大きな特徴は2つ。1つは、前方にあるカメラが、270°もチルトすることだ。LEDライトは、カメラの上下に2つ、機体前方に2つ装備されている。

カメラが動く様子

 もう1つの特徴は、対応しているオプションが豊富であることだ。マニピュレーターだけでも8種類あり、厚み測定器、補助カメラ、GPSナビシステム、小型ネットリペアラーなどさまざま。河川工事や土木工事で用いる水中ドローンの初号機としての購入が多いという。

「DTG3」前方から撮影
「DTG3」上方から撮影
専用のコントローラー

スペースワンはCHASINGとblueyeを展示

 スペースワンは、中国のCHASING INNOVATION社製「CHASING M2」「CHASING M2 PRO」「CHASING M2 PRO MAX」の3機種と、日本国内で取り扱いを開始したばかりの、ノルウェーのblueye社製「blueye X3」を展示していた。

 水槽ではCHASING M2を使った操作実演も実施した。展示会経験豊富なスペースワンの担当者に聞くと、「SUBSEA TECHの来場者は、『水中ドローンがどんなものかは知っていたけど、実機を見たり触ったりするのは初めてだ』という方が多い印象だ」という。

「CHASING M2」の操作実演

 CHAISNG M2シリーズは、スラスター8基搭載で安定性が高く、機体の形状も水を通しやすいため、波のある環境でも機動的に動けるところが特徴。また、アタッチメントを独自開発して機体に装着しやすいところも面白い。展示では、死魚回収などを目的にスペースワンが開発したアタッチメントが披露されていた。

「CHASING M2 PRO」(オレンジ色)と「CHASING M2」(黄色)

 CHASING M2 PROは、オプションパーツを接続するためのマルチインターフェースドッキングステーションを搭載できる機体で、初号機として人気の秘訣は「一度に何個もオプション製品を付けられる拡張性」だそう。追加LEDライトや、補助カメラ、アーム、マルチビームソナー、DVLなど、組み合わせの自由度が高く、それでいて手を出しやすい価格設定は魅力のようだ。

「CHASING M2 PRO」に追加でLEDライトを搭載した姿
マルチインターフェースドッキングステーション
補助カメラ
アーム

 こうして並べて比較すると、CHASING M2 PRO MAXは “玄人好み”の印象だった。ドッキングステーションの機能が内蔵された機体で、よリスマートかつパワフルになっている。

「CHASING M2 PRO MAX」

 そして、やはり目を引いていたのが、スペースワンが国内総代理店となったばかりで話題の機体、ノルウェーのblueye社製「blueye X3」だ。各種ログを出力できる、SDKが解放されておりソフトウェア開発を手がけられる、豊富なオプションパーツ群とのアプリ連携が優れているなど、ポテンシャルの高さがうかがえる。今後、詳しく取材する予定だ。

 ちなみに、海外の海洋ごみの調査と改修を行う企業がblueye X3を導入した事例では、漁網などのごみを回収するための作業用としては引き続き大型のROVを使用しつつも、ごみの調査では360°周囲を計測できるソナーを搭載したblueye X3が活躍しているそうだ。

「blueye X3」

FullDepthとコスモス商事はセミナーに登壇

 FullDepthとコスモス商事は、セミナー「海洋ロボットとその応用(浅海応用)」に登壇した。

 FullDepthは、代表取締役の吉賀智司氏が「水中ドローンを活用したセンシング・作業」と題して講演し、令和3年度の神戸市「海の課題解決に向けた実証事業実施業務(海プロジェクト)」で評価検証を行った実証実験の成果を報告した。

 FullDepth社製「DiveUnit300」に高圧洗浄機と肉厚測定器を搭載して、鋼管杭のケレン作業と肉厚測定を行い、同時に潜水士が測定した結果と数値を比較して、水中ドローンの有用性や業務効率化を検証したという。

 その結果、当初は水中ドローンと潜水士の間で、測定数値に若干の差異があったが、潜水士が水中ドローンに搭載していたのと同じ機器を使用して再度計測したところ、ほぼ同じ数値になったとのことだ。機器による差異が、社会実装のハードルになるのかなど、非常に興味深く思った。

 コスモス商事は、海洋開発チームの正木裕香氏が「海洋開発チームの取組 ~浅海から深海、海底下まで~」と題して講演し、主に同社が取り扱う製品を幅広く紹介した。また、コスモス商事は展示ブースも構えてニュージーランドのBoxfish Research社製「Boxfish Alpha」などを紹介していた。

「Boxfish Alpha」
「Boxfish Alpha」コントローラー

藤川理絵の水中ドローン最前線

vol.1「水中ドローン」とは
-2021年版 水中ドローンの役割、効果、市場規模、課題と今後の展望まとめ-

vol.2 海洋ビジネスと水中ドローン
-海洋研究開発機構(JAMSTEC)吉田弘氏が語る「水中ドローンの課題と展望」-

vol.3 福島ロボットテストフィールドの活用
-一般社団法人日本水中ドローン協会、多様な機体で研修実施-

vol.4 水中ドローンニュースまとめ(2021年1月~3月)
-海中旅行、CHASING新機種、ロボテスEXPO、牡蠣養殖場での実証や海洋DXの取り組み-

vol.5 「陸側」での水中点検事例
-管渠、ダム、浄水場など、ジュンテクノサービスNETIS登録の狙い-

vol.6 東京久栄の事例
-水中ドローン活用30年、管路・水路・ダム・漁礁での使い分けとは-

vol.7 スクール潜入レポート
-水中ドローン安全潜航操縦士講習とは? 座学・実技から使用機体まで解説-

vol.8 海の次世代モビリティ
-国交省「海における次世代モビリティに関する産学官協議会」とりまとめを発表-

vol.9 養殖業での事例
-網の汚損点検、アンカーの捜索、死魚回収まで、活用法の模索が進む-

vol.10 日本ROV協会が本格始動
-一般社団法人日本ROV協会の事業概要、技能認定講習、今後の展開とは-

vol.11 DiveUnit300の新機能
-フルデプス、ホバリングなどのオプションと各種アタッチメントを発表-

vol.12 広和ROVやBoxfishの操縦体験も
-「海のアバターの社会実装を進める会」福島RTFで2日間開催-

vol.13 NTTドコモの事例
- ICTブイ、5Gやクラウドとの連携を見据えた、「養殖DX」におけるROVの活用-

vol.14 - 1 海のモビリティを“誰でも使える”ものに
-(前編)国交省「海の次世代モビリティの利活用に関する実証実験」最終成果報告会-

vol.14 – 2 技術とニーズ「マッチング」の行方
-(後編)国交省「海の次世代モビリティの利活用に関する実証実験」最終成果報告会-

vol.15 FIFISHシリーズ徹底比較
-AI画像認識で水中ホバリングする新機能「Vision Lock」と各機種の比較をレポート-

水中ドローンビジネス調査報告書2022

執筆者:藤川理絵、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:292P
発行日:2022/7/7
https://research.impress.co.jp/rov2022