2021年6月10日、一般社団法人日本ROV協会が設立された。運営事務局は株式会社エアロエントリー、代表理事には同社取締役COOの川嶋絵梨氏が就任した。8月11日より協会員の募集を始め、9月10日には第1回目となる技能認定講習を実施。今後も、11月8日週の第2回講習実施や資格取得者向けの現場実習の拡充などを予定しており、いよいよ本格始動だ。今回は、川嶋氏へのインタビューと講習当日の取材を通じて、日本ROV協会の取り組み内容や今後の展望についてお伝えする。
一般社団法人日本ROV協会設立
一般社団法人日本ROV協会は、ROVのみならずAUVやASVも含めた水中ロボティクス全般の普及と海洋業界全体の活性化を図ることを目的に設立された。エアロエントリーが運営事務局をつとめることになった背景には、2つのポイントがある。(ここでの水中ドローン、ROV、AUV、ASVの定義は、連載第1回を参照されたい。)
1つめは、同社が2016年より空中ドローンの民間資格の運営事務局を行ってきた実績を持つことだ。2016年から2021年6月までに約7,900件の認定証を発行したという。
2つめは、同社が空中ドローンのみならず水中ドローンの保険を手がける事業者である点だ。保険というタッチポイントで水中業界に中立的な立場で介入していることから、水中の事業者から同社へ、協会運営を要望する声が上がったという。
代表理事の川嶋氏は、「最近は水中ドローンと呼ばれる小型で高性能な機種が次々と登場して注目が集まっているが、ROVはもともと、人間の手では運べないけれども深い水域まで潜れる、海洋土木のさまざまな作業を担える機種もある。幅広い水中事業におけるROVと水中ドローンの普及を目指して、安全運用のための啓蒙活動を行っていきたい」と話す。日本ROV協会では、さまざまなタイプのROVを網羅的に取り扱う予定だ。
具体的な事業の軸は、4つ。「人材育成・教育」「資格認定試験・講習制度」「点検・補修・安全規格」「事業創造活動」だ。「人材育成・教育」では、認定スクール制度や教育プログラムの運営管理、会員向けのセミナーや勉強会の実施、情報発信を行う。「資格認定試験・講習制度」では、講習会の実施や認定資格の発行などを行う。「点検・補修・安全規格」では、水中ドローンを活用した各種点検業務ごとの仕様や安全ガイドラインの策定や、資格取得者向けに水中ドローン保険の割引提供のほか、技能保持者の派遣なども見据える。そのうえで、「事業創造活動」として新たな海洋事業の創生や防災領域における社会貢献活動にも取り組むという。
多様なROVを明確に区分
ユニークなのは、「潜水可能深度」と「有する機能」の2軸で、多様なROV機体を分かりやすく分類した点だ。まず、潜水できる深度で3段階に分類。一般的に深海と呼ばれる200mより浅い水域で稼働できる機種、海洋調査の対象となるような600m以深で稼働できる機種と、その間の200m~600mに対応した機種の3種類だ。
次に、有する機能ごとに、4段階に分類。Class0は、カメラと2軸以上の移動性能を持つ最もシンプルなROV。Class1は、カメラ、ライト、3軸以上の移動性能を持つ機種。Class2は、Class1の性能をベースとして、ソナーをはじめとする各種計測機器を搭載できる機種。Class3は、Class2には属さないけれど、マニピュレーターなどを搭載でき、調査以外に作業ができる機種。
日本ROV協会では、「カメラだけの機種と、ソナーや計測システムを搭載した機種とでは、現場での運用方法も、現場で必要とされる人材も異なる」と考え、Class別に講習内容や技能認定制度を確立していきたいとしている。
また、潜水士の代替としてROVを使用したいという点検ニーズがあるにもかかわらず、適切な点検手法や、求められる知識や技能、安全管理基準などが曖昧なために、普及が進んでいないことにも着目。将来的には、点検箇所ごとにガイドラインを策定することを目指し、現在はニーズの調査を進めているという。
日本ROV協会、第1回目の講習を実施
このような中、日本ROV協会は、第1回目となる技能講習を9月10日に実施した。講習内容は、「Class1」を想定したもので、午前中に座学、お昼休みを挟んで筆記テスト、午後に操縦技能を訓練する実技講習と技能テストが行われた。実技の会場は、東京都練馬区にあるOKマリンプロ。プールの水深は一部、5mのところもあった。なお今回は、日本ROV協会が主催者だが、年内には認定スクールの要件を確定して、11月中に事業者向け説明会を実施、2022年より認定スクール主催の講習を増やしていく予定だ。
座学の特徴
座学は、約3時間。「ROVとは、Remotely Operated Vehicleの略で、近年では水中ドローンとも呼称されている」という説明から始まり、ROV以外の水中ロボットや、現行のROVなどさまざまな機種の紹介、ROVの仕様分類の解説が行われた。ラインナップはざっと下記の通り。
・ROVの基礎
・ROV 仕様と技能認定
・関連する法律やルール
・ROV 運用実態
・水中における物理学
・ROVの技術
・撮影技術
・調査計画の立案
座学講師は、高木圭太氏。2017年よりセキドにて本格的にROVや水中ドローン事業を統括、機体販売や販促セミナーを手がけながら、受託調査や検証などの現場経験も積み重ねてきた。座学では、その経験値が惜しみなく共有されたことが印象的だった。ROVや水中ドローンが、「どのようなフィールドで活用されているのか」のみならず、その点検対象物の詳細な説明もあった。
主なフィールドとして挙げられたのは、港湾施設などのインフラ設備点検を含む海洋調査、ダム、水槽や配管などの閉鎖空間、管内、船舶など。各フィールドごとに、現場の環境や点検対象物の形状、機種の選定や運用での注意点などが、現場映像もまじえながら具体的に示された。
たとえば、「港湾構造物の名称をきちんと理解しておくことで、離岸堤なら船が必須だとか、現場に入る前に準備するべき項目を適切に考えられる」ことや、「堤防や護岸、またダムの堤体なども、横移動して点検をするが、水中では自己位置を把握できないので、現場で目印になるものがあるかどうかを確認しておかなければ、損傷箇所を見つけても後でどこか分からない」ことなど。
また、関連する法律や、水中で機器を運用するにあたって知っておくべき「水圧」や「濁り」などの基礎知識、機体の構成やメンテナンス方法など、幅広くレクチャーがあった。座学の最後には、あるケーススタディにおいて、無事故で安全に水中ドローンを運用するための事前計画を立案するワークも行った。
実技の特徴
実技講習の操作訓練では主に、点検業務でよく使われるというBlue Robotics社のBlueROV2と、QYSEA社のFIFISH V6 PLUSが用いられた。まず最初に、機体のセッティング、機体を目視しながらの基本的な操作を体験した。すぐに、モニターに映る水中映像を頼りに操作する訓練、壁面との距離を保って水平移動するという調査操作訓練、水深5mのプールに高低差をつけて沈められたフラフープを潜るという複雑な操作の訓練が行われた。
当日の講師は、2名体制。BlueROV2を複数運用し、北陸を中心に調査事業を展開する株式会社sheeps order魚谷利仁氏と、東日本大震災を機に海洋調査の重要性を痛感し、水中ドローンの現場オペレーションから、マーケティング、販売と幅広く活動する日本海洋株式会社の佐藤友亮氏が、実技の講師をつとめた。
受講生は、途中で機種を交換しながら、代わる代わるより難易度の高い操作訓練に入っていった。水中に沈められた文字盤をカメラでとらえ、機体を静止させながら極小の文字を読み取る訓練や、それを水流装置から出る潮流があるなかで行う訓練などもあり、実際の点検業務のシミュレーションとしても役立ったようだ。個人的には、「潮流が激しいところでも、当て舵をしっかりするなどして、綺麗な映像を撮影することはとても重要。お金になるかならないかを左右する」という講師のコメントは、とてもリアルで印象に残った。
最後には、実技テストも実施。昼休みを挟んで行われた筆記テストの結果とともに、技能認定の可否が後日通知された。合格者のうち、希望者には講師らが業務として行う点検や調査などに随行して、現場実践研修を受講する機会も与えられるそうで、第1回技能認定講習の翌週にも、実際に海で調査業務を行う、現場実践研修が行われた。今後はこうした現場経験を積める機会も拡充していくという。
利用者と運用者のマッチングも図りたい
今後の展開についても聞いた。まずは今年度、Class1の講習を実施して、オペレーターの育成を強化しつつ、並行して認定スクールの要件定義を進める。運用事業者や教育事業者が人材育成を担えるよう、早期に体制を整えることを目指す。第2ステップとしてClass2を対象とした講習を実施できるよう、現場のニーズをヒアリングしながら講習内容を確定していく方針だ。
川嶋氏は、「ROVや水中ドローンを運用している事業者さんが、ネット検索でヒットしにくい」という現状も指摘して、「利用したい企業や団体と、技能や実績を持つ事業者が、うまくマッチングしていく仕組みを作ることで、水中ドローン市場全体を盛り上げていきたい」と意欲を示した。
なお、第2回技能認定講習は11月8日週に開催予定。
▼プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000078624.html
藤川理絵の水中ドローン最前線
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水中ドローンビジネス調査報告書2021
執筆者:藤川理絵、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:172P
発行日:2020/12/23
https://research.impress.co.jp/rov2021