2021年は元日からシーバルーンが前澤ファンドの出資を受けて海中旅行事業を本格始動させるニュースが飛び込み、水中・海中ビジネスへの注目度が上がりつつあることを感じたが、1月末にはCHASING社の新機種登場、2月にはNTTドコモや東大らによる牡蠣養殖場での5Gと水中ドローンの活用、3月にはKDDIや三重大学らによる海洋DX推進に向けた6者連携協定など、さまざまな動きが続いている。今回は、2021年1月から3月の水中ドローンニュースを振り返ってご紹介する。

シーバルーン、「海中旅行」事業本格始動

 2016年より海中旅行事業の準備を開始してきたというシーバルーン。「海中へ誰もが行ける未来」を掲げて、人が乗り込める球体型潜水艇SEA BALLOONの開発を目指している。同社は2021年1月1日、前澤ファンドからの出資を受けて、SEA BALLOONの製造に着手し「海中旅行」事業の本格展開をスタートすると発表した。前澤ファンドの紹介によると、5人乗りで水深100mまで潜航可能とのこと。

 ちなみに4月27日に同社代表取締役で冒険家の米澤徹哉氏が、(一社)日本水中ドローン協会が開催する「第1回水中会議(ミズナカ会議)」に登壇する予定だ。水中・海中事業の可能性について、気になる方は視聴してみてはいかがだろうか。

テザーサイトのイメージ(プレスリリースより引用)

CHASINGの新機種「CHASING M2 PRO」が登場

 続いて1月末には、CHASINGの新機種「CHASING M2 PRO」の販売開始予定が発表された。CHASING M2と比べて、モーター出力50%向上、最大速度は3ノットから4ノットに、最大深度は100mから150mに性能がアップした。オプションの交換バッテリーは最大700Whで5時間稼働可能だという。

 スマホ・タブレットとコントローラーの有線接続、10cmの幅で照射されるレーザースケーラーも用意され実用性がアップしたが、本機体の最大の特徴は拡張性の高さではないかと思う。マルチビームソナーやUSBL水中ポジショニングといったアクセサリを最大5つまで接続できるマルチインターフェースドッキングステーションや、屋外でも見やすい高輝度モニター付きコントロールボックスなどが続々と入荷中のようだ。筆者も早くオプション製品群を取材して、本連載で詳細をお伝えしたい。

CHASING M2 PRO潜航の様子
マルチインターフェースドッキングステーション(スペースワン プレスリリースより引用)

ローカル5Gを活用し、牡蠣養殖場を遠隔監視

 2月には、広島県江田島市の牡蠣養殖場において、レイヤーズ・コンサルティング、NTTドコモ、NECネッツエスアイ、東京大学が、ローカル5Gと水中ドローンを活用し、「海中状況可視化システム構築」に向けた実験を行った。

 陸上から水中ドローンを遠隔操作して、牡蠣への付着生物や海底の堆積物などを陸からリアルタイムに確認し、水温、塩分濃度、溶存酸素などの環境データの可視化も目指す。これにより潜水士の労働環境改善や、養殖業の生産性向上を図る。今回は、BlueROV2とFIFISH V6 Plusが使用された。ちなみに江田島は、ICTブイを活用したスマート漁業も推進しており注目しているエリアだ。

記者発表会資料より引用
広島駅前には「ひろしまサンドボックス」のこんな看板も

KDDI、三重大学、鳥羽商船高専ら、海洋DX構築へ

 5Gを活用した地域産業振興は、他のエリアでも活発化しつつある。三重大学、鳥羽商船高専、三重県水産研究所、鳥羽市、KDDI、KDDI総合研究所は3月16日、三重県内の5GやIoTなどの先端技術を活用し、水産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する「海洋DX」を目指す連携協定を締結したと発表した。

 6者の産学官連携により、空中・水中ドローンで撮影した映像の解析や、スマートブイなどのIoTで取得した海況観測データの活用などを進める。海の磯焼けによる藻場の減少や生態変化を捉えるなどしてスマート水産業を促進し、漁業の生産の安定化と作業の効率化を図る。人材の育成や、加工から販売までのバリューチェーン構築など、幅広く連携して取り組むことで同エリアで海洋DXを構築するという。

KDDIのプレスリリースより引用

ロボテスEXPO 2021に日本海洋らが出展

 3月18日~19日、福島ロボットテストフィールドで初めて開催された「ロボテスEXPO 2021」では、日本海洋やスペースワンが屋内水槽で水中ドローンの実演を行った。毎回、多くの来場者が見学に訪れ、水中・海中におけるロボット活用への関心の高さが窺われた。

 日本海洋は汎用ROV(水中ドローン)と称して、CHASING(中国)のCHASING M2 PRO、QYSEA(中国)のFIFISH V6 PLUS、FullDepth(日本)のDiveUnit300、BlueRobotics(米国)のBlueROVと幅広い製品を取り扱っていることを伝え、多種類のエンドエフェクタを持つ多関節アームの体験も行った。

日本海洋の屋内水槽での実演
多関節アーム

 スペースワンは屋外にある水没市街地でも実演を披露。CHASING M2 PROを使って、水没した家屋の壁面や水中での捜索を行った。筆者も操縦体験してみたが、屋内のプールと比べて濁度が高く、水深数mで視程がかなり悪化するため、機体がどちらに向いているのかをすぐに把握することが難しく、操縦訓練の大切さを感じた。

スペースワンの水没市街地フィールドでの実演
屋内水槽での実演の様子

4月も気になるニュースが盛り沢山

 2021年1月から3月には、サンシャイン水族館や新江ノ島水族館で、水中ドローンを活用して深海調査を行った展示が催されるなど、エンタメ関連での利活用も目立った。またFullDepth CEOの伊藤昌平氏が、MITテクノロジーレビューによる国内初開催のグローバルアワード「Innovators Under 35 Japan 2020」を受賞する快挙を遂げた。

 そして、4月以降も気になるトピックスが目白押しである。昨年の「ジャパンドローン2020」でお披露目され、2021年に入ってからも話題を呼んでいた新機種FIFISH W6が、ついに4月6日に発売が開始された。4月16日と23日に東京都町田にて無料体験会が開催される予定だ。

「海における次世代モビリティに関する産学官協議会」のネクストアクションにも注目だ。昨年より4回にわたって、沿岸・離島地域におけるAUV、ROV、ASVの技術開発動向などが取りまとめられた。3月16日には同協議会のとりまとめが発表されて、今後は社会実装に向けた実証実験へと進むという。

 本連載では新機種、利活用事例の紹介やイベントレポートなど水中ドローンビジネスの最新動向をこれからもお届けしていく。今回のような水中ドローンニュースも、3か月に1回の頻度で更新予定。

▼サンシャイン水族館
https://www.crank-in.net/trend/trip/84289/1

▼新江ノ島水族館
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000024434.html

▼FIFISH W6 発売
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000405.000032645.html

▼「海における次世代モビリティに関する産学官協議会」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/ocean_policy/seamobi.html

【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.1「水中ドローン」とは
-2021年版 水中ドローンの役割、効果、市場規模、課題と今後の展望まとめ-
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1183422.html

【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.2 海洋ビジネスと水中ドローン
-海洋研究開発機構(JAMSTEC)吉田弘氏が語る「水中ドローンの課題と展望」-
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1183454.html

【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.3 福島ロボットテストフィールドの活用
-一般社団法人日本水中ドローン協会、多様な機体で研修実施-
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1183466.html

水中ドローンビジネス調査報告書2021
執筆者:藤川理絵、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:172P
発行日:2020/12/23
https://research.impress.co.jp/rov2021