航空・地上・トンネルと環境を問わず年間70件以上の計測・測量案件をこなす株式会社スカイ・ジョイント。元航空自衛官から退役後に現職につくという異色の経歴を持つ同社代表取締役の程内 琢磨 氏にお話をうかがった。

株式会社スカイ・ジョイント代表取締役社長 程内 琢磨 氏

アウトプットからの逆算で導入機材を選定。ドローンは必然の選択

 スカイ・ジョイントは、東京・渋谷に主拠点を置き計測・測量や調査を主事業とする企業。写真測量、レーザー測量、赤外線調査、クラック調査などから、3Dモデリングや地図作成(土量計算)などまでをワンストップで提供する。

 また航空に限らず、地上やトンネル内も事業範囲としており、目的に合わせてドローン、UGV、ロボティクスとさまざまなツールも使いこなす。「クライアントから求められる図面やデータから逆算し、ツールで何が必要なのかという逆算で考えてきた」という程内氏。測量用ドローンの初導入は2016年に発売直後のPhantom 4、それは必然の流れだったようだ。

 「ドローンの導入前の事業は地上レーザー測量と写真測量のみでした。ドローンを導入し、広範囲広域測量が可能になりました。また、SfMで三次元データを起こせることは、大きな進化です。計測した土地の縦断図を見たい…などクライアントのいろいろなニーズに応えることができるようになりました」(程内氏)

 その後、2017年の赤外線カメラ「ZENMUSE XT」の発売とともにInspire 1を導入。赤外線調査も空からできるようになった。当時からダムの三次元データを作成、抽出ソフトを介してコンマ数mmのクラックを見つける調査事業も行っていたという。

 成果物のアウトプットイメージから必要なものを明確に逆算し、新しいものでもツールとして使い取り入れていくのが程内氏の強みだ。しかも、数多くの現場をこなし、独自のノウハウを築き上げてきた。

大災害「西日本豪雨」から学んだもの 〜地域の非常事態対策、災害対策や防災活動に活用

 2018年におきた西日本豪雨(平成30年7月豪雨)は程内氏にとっても大きな転機となった。ドローンによる被災地の現況調査の必要性から逆算し、UAVレーザーを災害直後に購入した。
 「西日本豪雨の現況調査で当時のドローンによる測量の限界点までやったと思います」という程内氏。広島・岡山・愛媛の被災地延べ2400haを計測して回ったという。
 被災現場に自動車で入ることができないため初期調査はMatrice 210本体にバッテリー10セット、写真測量関連機材にD-RTK 2(高精度GNSSモバイルステーション)を一人で持ち歩くこともあった。ドローンによる迅速な現況調査が意味を成す。実際に、計測から1週間で速報データを自治体に提出、そのデータは当時の総理大臣に報告する資料として活用されたという。

 災害時における迅速な現況調査は、計測者自身が現地で二次被災者になりかねない危険を伴うため誰にでもできるわけではない。程内氏は幼少時より山と谷に囲まれた環境に育った。ドローンを事業に取り入れてからは、その環境下において地形図をもとに地形追従しながら自動航行するフライトプランを手作業で一カ所あたり400パターン以上作ったという。

 「被災地ではドローンの安全運用は当然として、計測者が安全確保できる離発着場所の選定、地図を読み解く力、そして安全にその現場に行く力が問われます。また、被災地では現地の方にご迷惑をかけないよう自己完結する体制や仕組みも必要。通信の確保やマップデータの事前ダウンロードなど業務フローも細かく作成しました。これらは自衛隊在籍時に学んだノウハウが大きいと感じています」(程内氏)

 人当たりよく緩やかな印象を与える程内氏だが、業務に関しては徹底したストイックな姿勢で挑む。加えて、自衛隊在籍時に学んだノウハウ、そしてそれらをもとにしたきめ細かい業務フローの構築やマニュアル化によって業務の質を高めている。西日本豪雨のエピソードは、そのことをよく表している。

最大8割減の効率化!ドローンの効果は効率化・コストダウン・正確性・安全性

 現在ではドローンを含めたさまざまなツールを使って計測・測量事業を展開するスカイ・ジョイントだが、選択肢が地上からの計測しかなかった頃と比較すると、ドローンを導入することによって「効率化」「コストダウン」「正確性」「安全性」の効果があったという。測量現場の事例をもとにより詳しく見ていく。

 「幅200m、面積3,000㎡の法面について計測した事例です。実質地上で人が歩いて計測するよりも8割の時間削減になると考えています。200mの法面を平行に歩いて計測する時間、川をまたいで反対側の法面に行く時間、そしてさらにその法面を歩いて計測すると片面だけでも最低20分はかかるでしょう。ドローンを使用して、地上解像度50mmで撮るとしてもZENMUSE P1とMatrice 300 RTKであれば、赤外線カメラで6ショットほどで終わります。時間にしたら片面3〜4分くらいです。ちなみにクラック等であれば1〜2.5mmで取得しています」(程内氏)

 ZENMUSE P1の4500万画素による撮影ならば法面の縦幅は1枚の撮影で問題ないという。横幅も1枚の写真で35m弱撮れている計算になるので、オーバーラップを考えても片面あたり7〜8枚の撮影で完了する。

 もちろん、これは高解像度カメラと安定した長時間飛行を実現するMatrice 300 RTKによる技術の進歩も効率化に大きく貢献している。解像度の低いカメラでは地上解像度(隣り合う2つのピクセルの中心間の地表面上で測定された距離)を確保するために被写体に近づく必要があり、撮影枚数も増えることになるためだ。そして、被写体に近づくということは、起伏の大きな場所では衝突のリスクも増すことを意味しているので、距離を離しても地上解像度を担保できるZENMUSE P1の意味は大きい。

広大な土地ではさらなる効率化に加え、安全性の担保も

1mピッチの等高線、25mピッチの横断図も表示することができる。

 画面は山間にある120haの採石場の三次元データだ。Matrice 600+LiDARによるレーザー測量データとMatrice 300 RTK+ZENMUSE P1による写真測量データを足したものとなっている(熱気等でレーザーではうまく計測できない箇所が出るため写真測量を併用している)。120haという広大な土地だが、ここでもMatrice 300 RTK+ZENMUSE P1のパッケージは3フライトというわずかなフライト時間で作業完了している。それでも地上解像度は20mmとなっており、1/500の地図作成に耐えられるレベルだ。

 「通常、120haの山の中を測量するとなれば平板測量で7〜8カ月の現場作業期間となる場合もあります。図面制作にはさらに半年ほどかかる場合があります。ドローンであれば、現場作業は約2日。図面作成も2〜3週間あれば完成します」(程内氏)

 効率化による時間的コストの削減は言うまでもないが、山間部の実測測量では人が山の中に入っていくことにより発生するリスクをドローンによって回避することができる点も重要だ。安全に、かつ効率的に、そしてその結果としてコスト削減にもつながる。

 また、何よりRTKによる誤差の少ない計測データは後処理の時間も削減してくれる。

 「費用が1/3〜2/3程度に抑えられながらも正確な図面ができ、しかもそれが2〜3週間で納品されればクライアントも喜びます。半年以上かかっていたプロジェクトが1カ月弱で完結し、残りの5カ月をほかのプロジェクトに使うことができます」(程内氏)

 ドローンにより正確なデジタルデータとして測量・記録することで、次回のデータ取得時には過去データとして比較活用することができるほか、横断図や縦断図などクライアントが希望する見方で地形を見せることもできる。

 スカイ・ジョイントが受ける計測・測量の案件はほとんどがリピートによるものだという。それは、このようにクライアントが求めるものから逆算したデータ作成を効率的かつ低コスト、そして正確性の高いデータを安全に作成することができるということがひとつの要因となっているのであろう。

 新しい技術がリリースされるタイミングでいち早く導入し、逆算の中から自社の業務フローに乗せて絶えずクライアントのニーズを満たしてきたスカイ・ジョイント。程内氏は今後目指していくものについて「ドローンによる測量で実機を超えるのが目標」という。

 セスナ等の実機を用いた広範囲の測量から、ドローンで同じ時間で、かつ高密度な測量が可能になり、ドローンによる航空測量の定義が変わってくる。測量という歴史がある産業で、新しいツールを論理的に取り入れながら事業の質を上げてきた程内氏ならではの目標だ。そして恐らく、近いうちに新しい技術を導入し、目標を実現していることだろう。検証と業務の日々はまだまだ続いていく。

ドローンによるボリュメトリックスキャンによる3Dモデル。