2022年8月23日、KDDI総合研究所とKDDI、三重県鳥羽市は、2022年6月8日と2022年6月9日に、水上ドローンを活用しブルーカーボン算定に必要な藻場調査の実証実験を実施したことを発表した。

 海草や海藻の分布面積調査を水上ドローンで効率的に行うことを目的としたもので、鳥羽市の菅島および答志島沿岸にて実施。水上ドローンはスマートフォンで設定した航路を自律航行し、搭載した水中カメラで対象の藻場を撮影した。撮影映像の分析により、海草や海藻が占める面積の割合である被度の把握が可能なことを確認した。

水上ドローンの外観
実証実験の様子

 海草や海藻の分布面積調査を実施する場合、鳥羽市ではダイバーによる潜水目視を行ってきたが、水上ドローンの活用により、専門家の意見や判断を取り入れた遠隔での航行や、正確な位置を常時把握した定点観測が可能となる。ダイバーによる調査の事故発生リスクが低減され、遠隔でのモニタリングや制御が可能なため、大幅な業務DXを期待できるという。

 ブルーカーボンとは、海草や海藻、植物プランクトンなど、海洋生物の作用によって海中に取り込まれる炭素のことで、現在、二酸化炭素吸収源の新たな選択肢として、藻場を対象としたカーボン・オフセット(※1)制度が推進されている。
 一方、ブルーカーボンの定量的な測定には、対象生態系の種類や分布面積を把握するための調査が不可欠なものの、進んでいないのが現状である。鳥羽市では藻場の調査・研究に取り組んできたが、ダイバーによる潜水目視では人的負荷が高く安全性にも課題があり、広範囲を定量的・定期的に調査を行うことが困難であった。

※1 努力しても削減が困難な二酸化炭素の排出量を他の部分で埋め合わせる考え方。

鳥羽市菅島および答志島

 水上ドローンを用いた水中撮影による藻場調査は、2022年6月8日、9日、三重県鳥羽市菅島および答志島周辺において実施した。調査範囲は、菅島沿岸の150m×1kmの区間、答志島沿岸の200m×700mの区間における計10地点となる。

 今回の実証にあたりKDDI総合研究所は、スマートフォンで遠隔制御が可能な水上ドローンに、新たに水中カメラと、そのカメラを水中に下ろしたり引き揚げたりする昇降装置を設置した。GPSを搭載しているため、自律航行が可能。藻場がある地点に着くと定点を保持しながら、スマートフォンで昇降装置を遠隔制御してカメラを指定の水深だけ水中に下ろす。水中の映像はモバイル回線を経由してスマートフォンに伝送されるため、操作者はリアルタイムで水中の様子を確認することができる。

 空中ドローンなどで上空から撮影する調査は、藻場の境界を判断することは可能だが、藻場の種類や被度など水中の様子を把握することが困難である。また、水中ドローンの場合はGPSが使えないため、水中ドローン単体では高精度な位置情報を取得することができない。そこで、同実証では水上ドローンを活用した。

 実証実験で撮影した水中映像から、画像処理技術を用いて海草・海藻の色(緑、青や赤など)の濃淡を判別し、海草・海藻と認められる領域のみを抽出した。これにより、藻場において海草・海藻が占める割合(被度)の算出が可能であることを確認した(図2、図3)。

図1:水上ドローン外観
図2:被度の算出例(答志島沿岸の藻場)
図3:被度の算出例(菅島沿岸の藻場)

 ブルーカーボンを定量化して取引可能なクレジットにする「Jブルークレジット」の審査認証・制度設計を推進するジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)は、ブルーカーボン量は「対象生態系の分布面積」と「吸収係数」の積から算定するものとしており、「対象生態系の分布面積」に関しては現地調査を求めている。

 複数ある現地調査の方法の中でも、海面または海中の調査は最も有効とされている。水上ドローンは、空撮による広域調査と潜水による水中の詳細調査が行えるため、広域を効率よく調査できるという。

図4:ブルーカーボンの算定方法(「Jブルークレジット(試行)認証申請の手引き」から抜粋)
図5:調査手法の比較(「Jブルークレジット(試行)認証申請の手引き」から抜粋)

 今後、KDDI総合研究所とKDDIは、画像処理を高度化し、機械学習により藻場の種類を自動識別することで効率化を図るほか、カメラにセンサーを搭載して水温など水中環境に関わる情報の取得に取り組むとしている。鳥羽市における実証実験の継続に加え、他の地域の協力を募り、多様な土地特性や算定時期におけるデータを蓄積する計画である。