水中ドローンとは、どこでどのように活用できるのだろうか。まだまだ認知度の低い水中ドローンによる調査や点検の事例について、探っていきたい。今回は、水中ドローンの機体やパーツの販売、一部国内修理、水中ドローンを活用した調査や点検サービスの提供、スクール運営と人材育成まで総合的に手がけている、ジュンテクノサービスを訪問した。
同社の水中ドローンを活用した水中設置物の保安点検技術は、国土交通省 新技術情報提供システム「NETIS」に登録されており、2021年5月10日にサイト掲載も完了。登録を担当した同社取締役の佐々木桃子氏は、「海以外、陸側にある水中部の調査や点検にも、水中ドローンが活用できることを伝えたかった」と、NETIS登録の狙いを明かした。
本稿では、ジュンテクノサービスがNETISに登録した技術の特徴と、その背景にある同社の “海以外” での水中部調査や点検における水中ドローン活用事例、同社が販売やメンテナンスを行っているQYSEA(中国)製の機体「FIFISH(ファイフィッシュ)」のなかでも「FIFISH V6 PLUS」の拡張性について紹介する。
ジュンテクノサービス新技術の特徴
新技術情報提供システム「NETIS」は、水中の点検、調査、工事などに役立つさまざまな最新技術が登録されており、誰でもその詳細情報を閲覧できるようになっている。例えば、FullDepthの産業用水中ドローン「DiveUnit300」や、大林組の水中点検ロボット「ディアグ」の情報を確認できる。(おすすめの検索キーワードは、“水中”、“水中ドローン”、“ROV”。)
ジュンテクノサービスの新技術は、「水中自航型ロボットカメラ(水中ドローン)による水中設置物の保全点検技術」という名称で登録されている(NETIS登録番号:KTK-210002-A)。特徴の1つは、前述の技術とは異なり、機体を特定していないという点だ。水中ドローンと呼ばれる小型ROVの中でも、より小型で軽量な部類の機体を使って、水中の設置物や構造物の調査や点検が可能になった点を強く打ち出したという。
機体は特定していないが、3機種が使用例として掲載されている。同社が実際に現場で使用した、QYSEA製の「FIFISH V6」と、プロシリーズの「FIFISH V6 PLUS」「FIFISH W6」だ。3機体の仕様の詳細は、NETISにて確認できる。
水中ドローン活用のメリットと経済性
NETISでは、従来の手法と新技術が比較されている。活用の効果や価格と内訳、そして新技術を活用した施工方法が明記されているので、導入検討にあたって参考になる事業者が多いのではないだろうか。ここでは、水中ドローン活用のメリットと経済性について考察したい。
■品質、安全性、施工性の向上
まず、水中ドローン活用のメリットについて。同社の新技術では、「潜水士による目視調査」と比較したうえで、品質、安全性、施工性が向上することが示されている。
水中ドローンを使ったことがないという方のために簡単に構造と操作を説明すると、地上や船上から機体を水中に潜航させて、機体についたカメラで水中の映像をリアルタイムに見ながら映像データや画像データを記録できる。機体の操作をするコントローラーと機体は、有線ケーブルでつながっており、このケーブルを経由して操作信号や映像データを伝送する。映像は、コントローラーに接続したスマホで見ることができ、取得データはMicroSDカードなどに保存される仕組みだ。
このため、潜水士では対応が困難だった大水深部や、狭小部での調査・点検が可能になり、品質を向上できる。ちなみに、「FIFISH V6」「FIFISH V6 PLUS」の寸法は、383×331×143mmで、ケーブルの長さは、それぞれ100m、200mだ。
また、潜水士と水中ドローンの協業によって、潜水士の安全性を向上できる。「潜水士は必要な時だけ潜る」という業務体制を構築したい事業者には、不可欠の技術となるのではないだろうか。
施工性については、水中のリアルタイム映像を地上や船上から確認できることが挙げられている。HDMI経由で外部モニターに接続すれば、複数人で一緒に確認できるため、管理者や発注者と作業者がその場で会話しながら運用できる。
■経済性をどう見るか
それではコストはどうか。ざっくりいうと、「従来手法と比較してシステム使用料は高額となるが、調査や点検の品質、安全性、施工性は向上する」と、結論づけられている。同社の試算では、最も安価で軽量な「FIFISH V6」を利用した場合でも、料金は従来技術の約3.7倍になるというが、経済性をどう見るかは重要なポイントではないだろうか。
同社代表取締役の引野潤氏によると、濁った水中でもケーブルの絡まりに細心の注意を払いながら機体を潜航させ、クラックの有無や大きさなどを捉えて発見した場所と日時を報告するためには、現場3名以上の体制が必要だと考えているという。水中ドローンのオペレーター、ケーブル操作員、そして現場記録員だ。
「さまざまな建設業関連の現場で、お客様から求められるものに応えていくうち、現場3名以上の体制に落ち着いた。調査や点検では映像を渡してもそれがどこか分からないため、現場で記録した日時の映像箇所から画像データを切り取り、工事台帳や作業報告書に添付して報告書を納品している」(引野氏)
また、人間では深度によって、潜航時間が5~10分程度に限られるような場所でも、水中ドローンは電池が持つ限り何時間でも継続して潜航できる。衛生面で心配な場所、狭い管路などにも潜水士に代わって潜航できる。「FIFISH」プロシリーズであれば外部給電も可能で、300mなどの長い管路でも対応できるという。
確かに1日の労務費という観点では、従来技術より高額に見えるが、単純な金額比較ではなく、利用価値を見抜く “目利き力” も、事業者側に求められているということではないだろうか。
「今回、機体をあえて限定しないでNETIS登録したのは、水中ドローンは人間が潜ることなく安全に使える技術であるということを、全面的に伝えたかったから。海以外、陸側の水中設置物や構造物には、調査点検の急を要する施設がたくさんある。人命を危険に晒すことなく調査点検を進めることで、人々の暮らしを支えるインフラの老朽化という社会課題の解決に向け、お役に立てればと思っている」(佐々木氏)
「陸側」での水中点検事例
今回、同社がNETIS登録に踏み切った背景には、これまでの実績による裏付けがあるという。海以外の陸側での水中点検について、どんな現場でどういうことがあったか、ざっくり聞いてみた。
■流域下水道の管渠調査
道路や歩道から濁った水の湧き上がりを見つけ、内部の状況を確認するために水中ドローンを活用した。自走式水中ロボットが走行できない段差がある箇所も水中ドローンは通過可能で、191mの潜航調査を行うことができた。調査の結果、20cmの伸縮管のズレを確認。数千万円単位の水中ロボット導入費用に比べると、高いコストパフォーマンスを実現できる。
■ダムの取水口など危険性高エリアでの点検
堆積物が多くフィンでの巻き上げが起こりやすいダム水底部でも、水中ドローンを静かに潜航させることで取水口や鉄柵の様子をリアルタイム映像で確認し、濁った水の中でも接写することで現状を記録することができた。また、アームを活用して、点検したい箇所に付着した物体の除去や、取水口に引っかかっている長さ3mの枝の撤去を行った。
■浄水場の管内点検
タンクの投入口が狭い場合、ダイバーがボンベをつけて潜るために、別途大きな投入口を利用できる状態にするまでにコストがかかることがあるが、小型の水中ドローンなら小さな投入口から潜航できる。
「FIFISH V6 PLUS」の拡張性と今後の展開
このような水中部調査や点検におすすめの機体の1つとして、「FIFISH V6 PLUS」が挙げられる。寸法 383×331×143mm、重量 5.0kgという手軽さに加えて、機体の位置を検知できる水中GPSや、対象物の撮影以外に周辺環境を確認するための追加カメラをはじめとする、拡張性に優れている。
水中GPSは、音波を利用して水中の機体の位置を把握できる装置。FIFISH V6 PLUSは、Water Linked(ノルウェー)製の水中音響測位装置「U-QPS」と連携することができ、今後は操縦画面上に地図と機体の位置情報を表示させるために、アプリ連携を行う予定だという。
追加カメラは、QYSEA製「Q-Camera」をFIFISH V6 PLUSの専用オプションとして搭載できる。カメラには2100lmのLEDライトも搭載されている。横向きや後方など、いろいろな角度で設置することができる。
このため、例えば濁った水の中で一定方向に壁面点検をする際、進行方向にカメラを設置すれば、周辺環境を確認しながら作業を進めることができる。アームを使って落下物を回収する際には、アーム先端を映す専用カメラとして利用できる。また、水中の点群データを作成する際には、一度の潜航で複数台のカメラを活用できれば、作業効率が向上する。
このほかにも、濁った水中で障害物を回避しながら操縦するためにマルチビームソナーを使うなど、拡張性をうまく活用することで、調査や点検のスピードは格段に上がるという。
もちろん、人間が潜っても全く何も見えないほど濁度の高い場所や、下水道では処理段階が早く髪の毛などの浮遊物が多い管渠などは、水中ドローンでも調査や点検は不可能だ。
しかし、これまで見ることができなかったところを見ることができる、しかも安全のために人間に代わって調査点検をできるという点は、水中調査点検を手がけるすべての事業者が知っておくべき、水中ドローン活用の大きなメリットだ。
なお、6月14日~16日に開催予定のジャパン・ドローン展では、FIFISHシリーズの現行製品(FIFISH V6、FIFISH V6S、FIFISH V6 PLUS、FIFISH W6)を展示し、一部機種は水槽での操縦体験も行う予定とのこと。水中GPS「U-QPS」や追加カメラ「Q-Camara」のほか、イメージングソナー、ウォーターサンプラー、溶存酸素センサー、pHセンサーなど機能拡張を図れるツールや、外部給電システムの展示も予定しているそうだ。見応えのある展示内容に筆者もいまから楽しみだ。業務活用に関心のある事業者の皆さんも、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。
【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.1「水中ドローン」とは
-2021年版 水中ドローンの役割、効果、市場規模、課題と今後の展望まとめ-
【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.2 海洋ビジネスと水中ドローン
-海洋研究開発機構(JAMSTEC)吉田弘氏が語る「水中ドローンの課題と展望」-
【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.3 福島ロボットテストフィールドの活用
-一般社団法人日本水中ドローン協会、多様な機体で研修実施-
【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.4 水中ドローンニュースまとめ(2021年1月~3月)
水中ドローンビジネス調査報告書2021
執筆者:藤川理絵、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:172P
発行日:2020/12/23
https://research.impress.co.jp/rov2021