ドローンや電動垂直離着陸機など航空機の進化が進む中で、自治体の立場からエコシステムとしての次世代エアモビリティの検討に取り組む地域が増えています(航空機製造業としての産業育成・振興に限らない、まちづくりの観点を含む)。Vol.5で欧州の自治体ネットワーク「アーバンエアモビリティ イニシアティブ都市共同体(UIC2: UAM Initiative Cities Community)」と、連携した日本の取り組みUIC2-Japanを紹介しました。その後、UIC2-JapanのWebサイトが開設されています。本コラムでは、欧米の特定の地域での具体的な取り組みに焦点を当てて解説します。ぜひ、日本における活動の参考してください。

▼ Global Drone News Vol.5「欧州の自治体ネットワーク「UIC2」が取り組むUAMの社会実装」
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/series/column20230411-01/1185450.html

▼ UIC2-Japan
https://www.uic2-japan.org

アメリカ随一の未来対応都市になるフロリダ州オーランド

 米国フロリダ州オーランドは、革新的でグローバルな目的地であり続けることを保証するために、Advanced Air Mobility Transportation Plan(AAM輸送計画)を重要視しています。バディ・ダイヤー・オーランド市長は、アメリカ随一の未来対応都市を目指すというビジョンに沿って、2021年にAAM輸送計画を策定しました。AAM輸送計画では、2023年秋からのフェーズ1と2024年秋からのフェーズ2、そして2025年以降のフェーズ3と3期間に分けて、地域の交通と環境に関する課題、将来のAAM運航をサポートするために必要な政策枠組みの徹底的な見直し、地域の交通への統合の検討などを、市民と地域の意思決定者と共に行っていく予定です。

▼ City of Orland, Advance Air Mobility Transportation Plan(AAM輸送計画)
https://www.orlando.gov/Our-Government/Orlando-plans-for-a-future-ready-city/Advanced-Air-Mobility

 筆者が注目しているオーランドの取り組みは、2023年12月5日に行われた、バーティポートワークショップを主とした離着陸場設置に関わる課題解決の取り組みです。2024年4月現在、日本では兵庫県において、「離着陸場設置の準備事業」の公募が始まっています。また、すでに採択されている大阪府の事業にも、「空飛ぶクルマ専用離着陸場等拠点整備事業補助金」というものがあり、AAM実装の課題の1つとして、離着陸場設置が認識されていると言えます。

▼ 兵庫県―空飛ぶクルマの社会実装に向けた取組み
https://web.pref.hyogo.lg.jp/sr10/sorakuru.html

▼ 大阪府―空飛ぶクルマ専用離着陸場等拠点整備事業補助金
https://www.pref.osaka.lg.jp/energy/evtol/hojyokin-richakuriku.html

 オーランドは、2023年度にフロリダ州運輸省(FDOT)より発行された、インフラとゾーニングに関する推奨に基づいて、複雑な規制の枠組みの中で離着陸場の設置を進めるプロセスの検証を行いました。

 FDOT AAM作業部会の報告書のなかでは、コミュニティとの対話、インフラとゾーニング、交通システム統合計画と公平なアクセス、そして空域と安全の4分野についての推奨が提示されています。オーランドには、昨今のAAMの議論の前から、“Vertiport”の設置に関する法規則を有しており、それに伴って地域のゾーニングに呼応した条件等が設けられています。

 2023年12月5日のワークショップでは、連邦航空局(FAA)、フロリダ州運輸省(FDOT)、グレーターオーランド航空局(GOAA)、オーランド市の代表者を含むメンバー100名以上が集まり、以下について議論を交わしました。

緑地への民間のVertiport新設
開発地での新規民間Vertiport設置
空港敷地内の新しいVertiport設置
既存のヘリポートの活用

 以上、4つのシナリオについて以下の課題を検討。

各種申請の提出責任者の特定
担当レビュアー/承認者の特定
クリティカルパスとタイムラインの特定
同時進行可能なものは何か?効率性はあるか?

 以上の手順確認と、移動に関する考慮事項(敷地へのアクセス、接続性など)、環境に関する考慮事項(湿地、生物種、騒音など)、地域社会への配慮(経済発展、隣接区画、公平性など)について特定を試みたそうです。

 なお、FDOTの本分野の推奨には、このほか既存の環境騒音レベルのベンチマークの確立や廃棄物、危険物、汚染防止に関する要件の設定、必要に応じて、ゾーニング条例と土地利用計画の更新、そして何より、地域社会を第一とするAAM方針の確立が求められています。

▼ FDOT―Advanced Air Mobility Working Group Report and Recommendations
https://fdotwww.blob.core.windows.net/sitefinity/docs/default-source/aviation/pdfs/fdot-aamwg-final-report---august-10-2023.pdf

▼ Orland the AAM tabletop presentation
https://www.orlando.gov/files/sharedassets/public/v/1/initiatives/future-ready/aam-tabletop-presentation-final.pdf

空域統合をリードするスペインの都市マドリード

 訪れたことがある方はご存知だと思いますが、スペインの首都マドリードは空港からタクシーで約30分と好立地。そのうえ、公共交通機関も発達しており、観光しやすい街の1つとなっています。

 筆者が今回マドリードに注目したのは、空域管理に関係する国際会議「Airspace integration congress」のホストを務めたことに加え、ドローン交通の将来的な規制を研究する委員会である「Urban Air Mobility Commission」を市議会内に設置するといった、その空域管理に対する具体的なコミットの姿勢を見せていたからです。

 マドリードは、以前より積極的にドローンの活用に力を入れています。例えば、市警察では、ヘリコプターで行っていた作業を、ドローンに置き換えることで負担軽減を図る検討を進めました。結果として、日常の導入であるのか、試験的な運用に留まるのかは、これまでの調査では答えが出せなかったのですが、イベントや道路の監視などにおいて活用が始まっています。一方、電動垂直離着陸機による人の輸送については、それが誰のためなのか?と賛否両論あって大きな動きは見えていません。しかし、先に書いたように中心部から北東に位置する空港は比較的近く、対有人機との兼ね合いでドローンの活用に注意が必要なこと、また空港からの医療物資の配送や電動垂直離着陸機による旅客の輸送のユースケースを検討するには空域管理の視点が重要であることから、AAMの空域管理について高い関心を払っています。

 Airspace integration Congressには、空域統合に向けた製品やサービスを取り扱う出展企業や規制当局が集まります。これらの出展企業や規制当局から空域統合の課題を聞く会合として2023年9月25日~28日に開催されました。

 日程後半では、クアトロ・ビエントス空港での活発な飛行活動のほか、ドローンとAAMのデモンストレーションを見学できる機会が提供され、空域統合の具体的な事例を目にしながら議論が行われたようです。さらに、次回は2024年9月23日~26日に予定されています。マドリードはこれまでもWorld ATM Congressのホストを務めており、そのフォーカスする分野をATMだけでなく、航空機や宇宙機の進化に対応してUTM(U-spaceとともにドローン等低高度の交通管理)やSTM(宇宙交通管理)に広げています。世界からこの分野の民間・防衛の専門家が集まることは、地域としてもAAMの大きな課題である交通管理の知見を得るに非常に有益な機会だと言えます。

▼ Airspace Integration Week Madrid
https://airspaceintegrationweekmadrid.com/ai-week-2024/

 一方、2024年2月に設置されたUrban Air Mobility Commissionは、かねてから構想がありました。2022年の記事によれば、AAMを使用する主要都市を目指すという目標から、市と政府が協力し、他の地域も参照できるような枠組みを確立できる委員会の設立を検討してきたようです。

 実際には、2023年9月に自治体の持続可能なモビリティ条例下で委員会は設置されたようです。スペインのAAMの規制のフレームワークを有する初めての市を目指すこととなりました。ここでの活動は、Vol.5で紹介したU-space設置に関わるEUの枠組みに呼応するものでもあり、国、民間、市警察等と連携して最低6か月の周期で通常会議を開催していくとしています。治安、規制、安全な航路や駐機スペースといったインフラ、あるいはこの分野における規制の内容を市民が知る必要性といった問題を扱っていくとしており、今後の議論に注目が集まっています。

▼ HeliHub―Madrid City Council to oversee the development of VTOL infrastructure(26 Oct 2022)
https://www.helihub.com/2022/10/26/madrid-city-council-to-oversee-the-development-of-vtol-infrastructure/

▼ Unmanned Airspace―Madrid city to form a drone and UAM regulation commission (2 Feb, 2024)
https://www.unmannedairspace.info/latest-news-and-information/madrid-city-to-form-a-drone-and-uam-regulation-commission/

 AAMを議論する場合、近未来的で新たなモビリティとなる機体に注目しがちですが、関連インフラの設置や住環境維持に関わる制度が必須です。また、従来の交通管理のルールも共存していきます。AAMの導入や普及を検討する上では、新しいものの立ち上げという熱意だけではなく、統合、そしてより安全で目的にかなった姿になるよう更新をしていく活動が必要です。そのためには、既存の制度に関する知識が必要不可欠です。

 今回、紹介したオーランドもマドリードも、航空の知見を理解し、変わる技術や社会的要求にアップデートしていく活動が見られました。次回は、これまでそれを行政として取り扱ってなかった自治体において専門的な知見を取り込む体制づくりや、社会受容性の観点での地域的な活動をご紹介したいと思っております。

中村裕子

一般財団総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。