一般的なドローンよりも4倍以上長く飛行するアミューズワンセルフ脅威の技術力

 一般的な産業ドローンの飛行時間は長くても30分程度といわれる。だが、大阪府大阪市に本社を置くアミューズワンセルフが開発する「GLOW.H」の飛行時間は、その8倍となる4時間というスペックを誇る。同社が開発するドローンレーザー測量用スキャンシステム「TDOT」シリーズを搭載した場合でも2時間の飛行が可能だ。

写真1 アミューズワンセルフのハイブリッドドローン「GLOW.H」

 脅威のロングタイム飛行を実現するカギはその構造にある。GLOW.Hはバッテリーだけでなく、レンジエクステンダー、つまりエンジンを搭載したハイブリッドドローンなのだ。エンジンの燃料には混合ガソリンを使用している。エンジンを駆動させて発電し、バッテリーを常に充電しながら飛行させられるため、長時間飛行が可能になるという仕組みだ。

 測量用途で使用されるドローンには計測機器を搭載し、長時間飛行する性能が求められる。そうすれば1度の飛行で多くの範囲を測定でき、効率的に作業をこなすことが可能になるのだ。GLOW.Hは測量という用途に合わせて最適化されるように開発された機体といえる。

 「汎用ドローンは各方向への衝突回避センサーを搭載するなど『全部盛り』のようなスペックを求めがちになりますが、ドローンの開発では用途に合わせて、安全を担保するために必要な機能を取捨選択することが重要になります」と、同社が手掛けるプロダクトの開発を一手に担う冨井隆春CTOは解説する。「災害対策用のドローンであれば風雨のなかで飛ばすことが想定されるので、耐風・耐水性の高いドローンがいるでしょう。測量であれば長い時間飛べる性能を持たせることで安全を担保しています」。同社はこうした考えに基づき、約10年間にわたって様々な機体を開発してきた。

株式会社アミューズワンセルフ 取締役CTO 測量士/土木施工管理技士 博士(工学) 冨井 隆春氏

御嶽山を飛んだドローンの開発秘話

 アミューズワンセルフは自動車や飛行機など移動する物体から、対象物を3次元的に測量する事業に携わってきた。2000年代前半には地震災害の調査のため国土交通省の依頼を受け、ヘリコプターで被災箇所の測量を行っていた。ただ、そのときの冨井CTOには「住宅の裏の崖が崩れるといった身近な場所で起きる災害も多いが、ヘリコプターを使った測量は高価で簡単には行えない。災害で困っているのは皆一緒なのだから、うまく測量する手はないだろうか」という思いが湧き上がった。そこで考えついたのが、ラジコン飛行機を自動制御してヘリコプター測量の代わりに使うことだった。

 2006年ごろから「飛行する測量機械」の研究に着手。マルチコプタータイプを目指したが、開発当初は「ロボット掃除機みたいに地面を這いつくばるばかりで離陸しなかった」ことも。飛ぶまでに1年程度かかったという。

 その後、飛行する測量機械=ドローンの開発に成功したアミューズワンセルフは、各地でドローンを使用した撮影などを開始。大きなトピックスとなったのは2014年に発生した、戦後最悪の火山災害ともいわれる御嶽山噴火に関する調査だ。発災後、公的機関の要請を受けて現場に赴いた同社は、当時開発・運用していた「αUAV」を使用して、火口付近を飛行しマグマ爆発か水蒸気爆発か、サーモカメラを使い調査。さらに噴煙をサンプリングして硫黄濃度の測定も行った。

写真2 御嶽山噴火に関する調査を行うアミューズワンセルフ

 特筆すべきは、αUAVが1時間近く飛行し調査を実施していたことだ。当時の他社製ドローンの飛行時間は長くても15分程度。ところが同機は標高2400mから離陸し、3600mまで上昇後、6.5km離れた火口まで往復する1時間程度のフライトを2日間で22回行っている。強風下の飛行となったが、無事故で完了した。冨井CTOは「αUAVはカーボンを使用して製作した3kgほどのドローンでした。搭載したサーモカメラやサンプラーはそれぞれ2.5kg程度の重さがありました」と語る。

写真3 調査に使用した「αUAV」

 このような経験を踏まえ、冨井CTOは「耐風性を高めつつ、飛行時間を30分以上確保する。測量用途なら1~2時間飛べることが望ましいです」と理想とするドローンのスペックを話す。さらに「飛行準備に時間がかからないこと」「ペイロードは簡単に着脱できること」といった要素が必要だと考え、これらを満たすドローンの開発を続けており、GLOW.Hではいずれも実現している。

ドローンは「落ちるもの」―リスクと効率性のバランスで選択

 安全性を担保しつつ、業務を効率的に行うための要件として上記のような理想のスペックを掲げるが、実はアミューズワンセルフでは「ドローンは落ちるもの」として考えている。「有人航空機は膨大な開発費をかけ、フライトごとに安全管理のため相当の時間と費用を費やし、『落ちない』ことを実現しています。でも、無人航空機であるドローンは『落ちる可能性を受け入れる』かわりに安価で製造して効率よく使う道具です」と冨井CTOは話す。

 もちろん同社のドローンが落ちやすい訳ではなく、このような考え方の違いを踏まえたうえで「火山の調査や河川の増水・越流監視など、有人ヘリや人力では危険だったり非効率的だったりして、落ちるリスクをとっても活用したい場面で利用するのが、ドローンの本来の立ち位置」と強調する。「落ちないドローン」「危なくないドローン」を求める風潮に一石を投じる考え方だが、「人ではしづらいことを代替する」ドローンの用途を踏まえれば理解できる。ドローンは、有人ヘリでは実現できないことを可能にするメリットがあり、一定の落下リスクというデメリットを抱えながらもドローンによって新たなことを可能にする、仕事効率の向上など、メリットがデメリットを上回る時に使うのがドローンなのだ。

他社製よりも詳細な測定が可能なドローン搭載可能なグリーンレーザー

 改めてとなるが、アミューズワンセルフは様々な「はかる」に関わる業務を行っている。その業務に欠かせないアイテムが、ドローンレーザー測量用スキャンシステム「TDOT」シリーズだ。同社では2013年に世界で初めて(同社調べ)となるドローンに搭載可能なレーザー測量機を開発している。ここでも同社の技術力の高さがうかがえる。

写真4 ドローン用レーザースキャナシステム「TDOT 7 GREEN」

 最新シリーズである「TDOT 7」には3種類がラインナップ。そのうち「TDOT 7 GREEN」( 写真1 )は水に吸収されづらいグリーンレーザーを使用することで、測深が難しかった浅い水域の測量を可能にした。

 冨井CTOは「水深が深い場所ではボートやラジコンを使用して測ります。浅いところは船などが入って行きづらく、人間が行って測らないといけません。人が測るところを代替できるのでレーザーで測ることはとてもメリットがあると思います。高い高度から一気に広い範囲を計測するので効率がいいですし、作業時間も短くなります」とグリーンレーザーを使用する良さを強調する。TDOT 7 GREENの測深能力は水質に左右されるが、もっとも澄んだ水の場合なら、高度50mから測定する場合で13.5m、高度15mの場合はで16.8mとなる。周囲に高い障害物がない水上であれば、ドローンに搭載したTDOT 7 GREENなら、いとも簡単に測深を実施できる( 図1 )。実際に、後述する沖縄県の西表島のケースでは20mの深さを測れた実績もあるという。

図1 山、河川、ボートが入れない浅海域まで測れるグリーンレーザーシステム

 また、グリーンレーザーは濡れた路面の測定も得意とする。従来使用されている近赤外線を使った測量の場合、光が水に吸収されてしまい計測が困難だった。水に吸収されにくいグリーンレーザーなら、水害等の被害を受けた道路の復旧のために測量するといった使い方ができる。

 これまでの使用例を紹介しよう。京都府の琴引浜では沖合にあるサンドバー(引き潮の際に現れる浅瀬)が、夏から冬にかけて移動するといわれていた。2021年にグリーンレーザーを使用して調査を実施。1度目の測量から2か月後に再び測量したところ、河口位置やステップ位置などの海底地形が大きく変化し、サンドバーが消失していることが判明した( 図2 )。

図2 グリーンレーザーで海底地形の変化を測量

 また、沖縄県竹富町西表島では全長2.6km、幅1kmの範囲を約4時間かけてグリーンレーザーで測定。平均で12cm間隔の密度で、高さの平均誤差±2cm以内という高精細なデータの取得に成功している( 図3 )。

図3 高さの平均誤差±2cm以内という高精細なデータの取得に成功

 アミューズワンセルフの技術担当である冨井天夢氏は、他社のグリーンレーザー機器との大きな違いとして、①重量の軽さ、②測定精度の高さ、③地上・水中の両方で使えることの3つをあげた。

 「最新機種であるTDOT 7 GREENはバッテリーを含め3.7kg、従来機であるTDOT 3 GREENは2.7kgと、他社の機器に比べて軽量です。そのため、小型の機種にも搭載できます。例えば、DJI社の『Matrice 300 RTK』、『Matrice 350 RTK』などに搭載できるグリーンレーザーは、今のところ世界を探しても弊社のものしか見たことがありません。軽量であることで飛行時間が伸びる利点もあります。弊社のグリーンレーザーは世界でトップクラスの軽量化を実現したグリーンレーザーです」と天夢氏は誇らしげに語る。

 また、測定精度の高さという利点もある。同製品のレーザー径は1.5mrad(ミリラジアン)であり、他社製品の約4分の1の細さを誇るという。レーザーが細いことで、対象物を測定する精度は大きく向上する。

 また本機は、前述した水中・海中の測深だけでなく、陸上の測深にも利用できる。「水中を測量する仕事だけをずっと取り続けられる会社はとても限られてしまうと思います。その点、弊社製品なら地上でも使用できますし、地上と水中を同時に計測することもできるなど、機器の投資に対する費用対効果が高いのです」と天夢氏は胸を張る。

株式会社アミューズワンセルフ 技術 冨井 天夢氏

 「TDOT 7」シリーズにはこのほかに2種類あり、「TDOT 7 NIR」は近赤外線レーザーシステム。1秒間に10万回レーザーを照射することで、詳細な地表面のデータを取得する。「TDOT 7 NIR-S」は1秒あたり400ラインをスキャンできるため、ドローンの航行速度を上げることが可能となる。

 ところで、国土交通省では公共工事等に民間が開発した優れた新技術を活用していく重要性を認識しており、新技術のデータベースとして「NETIS」(新技術提供システム)を公開している。NETISに登録された技術を使用すると公共工事入札時の技術評価点、完成後の工事成績評定点が加点されるという利点がある。TDOTシリーズはNETISが年間で1~2件しか採用しない推奨技術に登録されており、その性能の高さは国からも認められているということがわかる。実際、国土交通省の全国の地方整備局でグリーンレーザーシステム11台が導入されている。

 TDOTシリーズを使用した測量で得たデータはアミューズワンセルフが運用するクラウド上で処理し、分析結果を出力するまでの時間はわずか5分程度。専門の技術者が長時間かけて行っていた分析業務を大幅に簡略化することに成功した。いまやTDOTシリーズで測量した実績は、自社・ユーザーの合計で60,000回を超える(2024年末時点)。

高い技術力と国産へのこだわり

 高い技術力を持つアミューズワンセルフは、製品の回転スピードも速い。現在ラインナップされている製品のマイナーチェンジモデルを作るかたわら、モデルチェンジするべく全く新しいものを同時に開発するという離れ業を行っており、外から見ると突然シンギュラリティが起きたようにも見えてしまう。テストを重ねているからこそ実現できるスピード感だ。ドローンでは2014年のαUAVから2023年GLOW.Hまで短くて1年、長くても5年に1度モデルチェンジし、レーザースキャナでは2016年以来、ほぼ2年に一度のペースで新モデルが登場している。

 また同社はプロダクトを日本産とすることにもこだわりを持つ。「確かにモーターやバッテリーといったパーツは海外製ばかりです。国産品を採用したくても国内企業で作れない現状があるので仕方ありません。でも、機体に使用するカーボンの部品や材料は国産で固めようと思っています。職人肌の人たちと『一緒にやろうぜ』というノリでつくっていくほうが好きなんです。加工屋さんに出す図面も自分で書いて『100分の2ミリの隙間やったら、シュッと入るよ』とか、そんなやり取りをしながら作りたい」と冨井CTOは笑顔で、ものづくりするこだわりを話してくれた。

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