まず初めに私の自己紹介を含め、これまでのドローンとの関わりを紹介しようと思います。

 ドローンに関する仕事をはじめたのは忘れもしない2015年、国際民間航空機関(以下ICAO)が開催したドローンを対象にしたイベント「RPAS 2015」への参加用命を職場で請け負ったことからはじまりました。

▼RPAS 2015
https://www.icao.int/meetings/RPAS/Pages/default.aspx

 RPASとは、パイロットが搭乗せず遠隔から操縦する航空システムのことを指し、大型のドローンといっても今は過言がないかもしれません。RPAS2015では、RPASの国際運航を可能にするために必要な環境整備、機体認証や操縦士のライセンスはもちろん、保険やセキュリティなど様々な要素についての議論が行われていて、RPASが直面する課題の多さ・複雑さに魅了されたことを覚えています。その年は、担当した学生がエアバス主催の「世界航空アイデアコンテストFly Your Ideas 2015」で小型ドローンを空港で活用する案を発表して入賞。さらには、「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」の発足に立ち会う機会を得るなど、ドローンとの縁にどんどん恵まれていく年となりました。

▼世界航空アイデアコンテストFly Your Ideas 2015
https://www.youtube.com/watch?v=LW3vBc4Sdqw

▼首相官邸-小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/index.html

 現在は、ドローンを社会実装させていくための環境整備の奥深さにどっぷりハマっています。なお、それ以前は国産民間航空機の開発の成功と日本の航空機産業の成長のための環境づくりに携わっており、特に世界の航空機産業の共通課題(産業としての地球温暖化効果ガス削減や、新しい技術を安全で効率的に取り入れていくための仕組み等)に対して、日本の貢献を高めるために大学の立場から関わっておりました。

ドローンの運航を取り巻く欧米の組織構造を解説!

 さて、今回の本題となりますが、欧米におけるドローンの社会実装に関わる環境整備について、私が興味を持っている範囲で(なので、どうしても断片的なものになってしまいますが)まとめてみます。

 図1はイギリスの議会が作成したドローンのルール作りに関わる組織図に民間の標準規格団体や自治体のネットワークを記載したものになります。これが当連載で今後解説していく欧米の全体像であり、太字の組織や発行物について、紹介していきます。

図1:本コラムで紹介する組織の関係図(parliament.ukの図(https://publications.parliament.uk/pa/ld201415/ldselect/ldeucom/122/12206.htm)を参考に著者作成)

 家電のように気軽に使えるのが売りだったはずのドローンですが、飛行物であることから基本的には航空の安全に関連するものとして、各国でルール作りが行われています。民間航空機の市場を反映してか、米国やカナダ、イギリス、フランス、ドイツの航空局が当初から、ドローンの規制のあり方について積極的に議論を行っている印象がありました。しかし、どこの国の航空局も、“ドローンという便利な技術の可能性を、硬直したルールで潰してはいけない!”というプレッシャーと、“メーカーにとってもオペレーターにとっても世界での運用が可能になるために調和されたルールであるべきだ”という要求に晒され、JARUSやICAOが用意する場などを利用して、グローバルハーモニゼーションをキーワードに互いに情報持ち寄って、他国に学び、良いものは取り入れながら制度整備を進めているところがあります(もちろん、国の間で競争もあります)。

 昨年12月に改正航空法を施行したばかりですが、今後もルールは発展していくと思いますし、改正航空法の背景や今後の行方の理解を深めるために、他国の新しい制度や情報収集の仕方に、この連載でいくつか触れていきたいと考えています。また、理想的な制度の一つに、“パフォーマンスベース”(規制局が求める性能に対して、その達成方法/コンプライアンスの方法に柔軟性を持たすことで、安全性の向上とコストの削減を両立できるなどイノベーション実装を促進できると考えられている制度のアプローチ。当連載の中で後日取り上げます!)なルール方式があり、そこには民間標準化活動がなくてはなりません。ユーザーが開発中のシステムやサービスの競争力補強のためにも、ASTM InternationalやSAE Internationalをはじめとする国際標準規格団体の活動の把握は、何かの役に立つはずだと思っていますので、このコラムでは標準規格団体にも焦点を当てていきます。

 また、航空当局が制度設計の中心となっていますが、ドローンの飛行が計画されているのは低高度の空域で、各自治体が担う行政の範囲の延長上とも言えます。“マルチレベルガバナンス”なんてキーワードも出ていますが、社会受容性の観点から自治体がどんな知識を必要とし、どのような権限も有するべきかといった事柄について、欧州の自治体ネットワークであるUIC2などが興味深い内容を発信しています。これを私なりに整理して皆さんに紹介していく予定です(実はUIC2にハマりすぎて、2021年に日本の自治体ネットワークを発足しました)。

 1回目は今後お伝えする情報について触れましたが、絵に描いた餅にならないように、情報をお届けしよう思います。

中村裕子

一般財団総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM) 事務局次長:イノベーションマネジメント,ドローンリスク管理,低高度空域運航管理(UTM),国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA 参与,航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門: レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。