現在、私は当記事の執筆と並行して、6月26日から幕張メッセ(千葉県)で開催されるJapan Drone 2023の準備を行っています。同展示会には、海外ゲストとして、SESAR 3 JU(Single European Sky ATM Research 3 Joint Undertaking)のグループが参加します。このグループは、低高度空域の新しい航空交通管理の研究グループであり、すなわち、日本でいうUTM(UAS Traffic Management)の研究を欧州で束ねている組織です。今回は、その動向に興味を持ってもらうために、その概要を紹介します。

U-spaceの研究開発を担うSESARの設立

 SESAR 3 JUは、ベルギーの首都であるブリュッセルに拠点を置く、欧州(EU)の官民パートナーシップです。EUにおけるすべての航空交通管理(ATM)関連の研究を調整しており、欧州でATMシステムの近代化を進めるにあたり、その責任はSESAR 3 JUにあります。SESAR 3 JUのパートナーシップは、EU、Eurocontrol(欧州航空航法安全機構)、空港、ナビゲーションサービスプロバイダー、ドローンオペレーター、メーカー、研究所など50以上の組織で構成されているのです。

 現在の名称であるSESAR 3 JUには、“3”という数字が表記されていますが、当初はSESARと呼ばれ、2007年に設立されました。設立当時は、ドローンの要素はほとんど含まれておらず、有人航空機におけるATMの発展に注力していました。

 なお、正式には、2007年に設立されたパートナーシップ以前にも、2004年に研究プロジェクトをスタートしていましたが、それは2003年にICAOが提唱した“ATMに関する将来構想”を受けて始まったプロジェクトとなっています。これに対し、日本では、CARATS(Collaborative Actions for Renovation of Air Traffic Systems)という長期ビジョンが示され、国土交通省やENRI(電子航法研究所)、JAXA(宇宙航空研究開発機構)を中心に、さまざまな研究がなされています。

▼ENRI-航空局のCARATSと電子航法研究所の研究
https://www.enri.go.jp/report/hapichi/pdf2012/H24_00p.pdf

▼JAXA-次世代運航システム(DREAMS)プロジェクトについて
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjsass/64/5/64_135/_pdf/-char/ja

 さて、話が脱線してしまいましたので、SESARに話を戻します。2007年の設立後、EUが、ドローンやその交通に関わる安全な運用と管理の重要性を重視し始めたことを受け、2017年にSESARが、「U-Space」は「ドローンの交通管理のソリューションであり、デジタル化や新しい一連のサービスの提供」を目指すといったコンセプトを発表するなど、SESARの研究分野にドローン等が追加されました。

 SESAR 3 JUは、2021年に発足しました。EUの新しい研究・イノベーション枠組み計画(2021-2027)であるHorizon Europeの下の共同事業として位置付けられ、Horizon Europeでは総額1億9475万ユーロ(日本円で約300億円:6月時点換算)の研究費が計上されています。

 SESAR 3 JUの主な目的は、欧州の研究・技術革新能力を強化し、さらに統合することとされています。この分野のデジタル化を加速し、交通量の変動に対する弾力性と拡張性を高め、さらには、イノベーションを通じて、Single European空域を世界で最も効率的かつ環境に優しい空として確立することを目指しています。

各国で開発が進むU-spaceやUTMのコンセプト

 ドローンの運航管理といえば、NASA(アメリカ航空宇宙局)のUTM研究が代表的です。これに対し欧州のU-spaceは、米国に「遅れを取らずに追い越せ」という思いが込められており、UTMはツールであり、U-spaceはその実装のため規制の枠組みまで含めた概念などにおいて、差別化を図っています。そのため、私は欧州の方々と話す際には、U-spaceという用語を意識して使うようにしておりますが、基本はUTMもU-spaceも同じ意味合いとして扱える言葉です。

 EUでは、U-spaceについて「多数のドローンの安全で効率的かつセキュアな空域へのアクセスをサポートするために設計され、一連のサービスと手順で、高度なデジタル化と自動化技術を支えられるもの」としています。2016年には、そのイニシアティブを発足させることで、U-spaceを通して、ドローンが有人航空機と安全に空域を共有するための技術、ルール、手順の確立を支援し、ドローンの市場成長を目指しています。

 欧州でのU-spaceの実装は、U1からU4へと4段階のロードマップで計画されています。U1はドローン管理の基礎的なサービスの構築を示し、電子登録や電子認証、ジオフェンシングなどのサービスが挙げられます。次に、U2は運航管理の初期的なサービスであり、飛行計画や空域管理、U-spaceサービスプロバイダーとの通信に関するサービスを指し、一部はすでに実装されています。そして、U3は発展を目指し、衝突回避やドローンの遠隔識別、リアルタイム追跡などの実現を計画しています。最後に、U4はさらにその先のテクノロジーであり、高度に自動化されたドローンの運用に対応するものとされています。

 2023年には、SESAR 3 JUが進めるU-spaceの研究において、最大3500万ユーロ(日本円で約53億7050万円:6月時点換算)の予算が組まれました。これは、2027年まで継続して予算投入される予定です。一方、日本では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による機体開発も含めたReAMoプロジェクト(次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト)が進められており、2022年度予算は29億3000万円でした。

▼SESAR-ドローンサービス市場への道を開くSESARイノベーション
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SESAR 3 JUがJapan Drone 2023に来日、U-Spaceの取り組みを解説

 2022年11月にSESAR 3 JUが現在の予算で開始した大規模な実証実験(BURDI、EALU-AER、U-ELCOME)をはじめ、それ以前の予算で開始しているU-space関連の研究も複数あります。それは、統合型や分散型が検討されているU-spaceアーキテクチャの評価に伴うAMU-LEDというプロジェクトのほか、U3段階を意識した将来的なドローン同士の安全な分離のあり方を研究するBUBBLES、ドローンと有人航空機とで参照する高度の基準が異なる課題に対して取り組むICARUSなど、研究から実証までさまざまです。なお、SESAR 3 JUのU-spaceには、いわゆる空飛ぶクルマ(アーバンエアモビリティ)の管理も含まれています。

 UTMやU-spaceは、ドローンや空飛ぶクルマの安全な実装に必要なものではありますが、未だ、その安全を保証し、本格的なインフラ投資等やそれ以前に制度整備を進めるための科学的な知見は不足していると思われます。さらに、各国が個別に研究を進めている現状は、非合理的な市場である可能性があります。

 SESAR 3 JUは、ICAOをはじめ、NASAなど国際的なパートナーシップを積極的に築いています。昨年、ENRIの上層部の方がATMに関する国際ワークショップで来日した際に、日本のドローン展示会であるJapan DroneでU-spaceの研究を紹介いただけないか?と提案したところ、これを引き受け、今回のJapan Drone 2023での来日が決定したのです。日本の研究内容の国際化や日本の研究成果の国際展開、日本の国際課題への貢献のために、日本にとってもSESAR 3 JUをはじめとする海外の主要団体との連携は必須だと思われます。そのひとつの機会として、皆さんで今回の来日を歓迎いただければ幸いです。

中村裕子

一般財団総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。