突然ですが、2023年2月7日に国土交通省が公表したカテゴリーIIIの飛行に関する許可・承認の審査要領をご存知でしょうか?

▼国土交通省-無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーIII飛行)
https://www.mlit.go.jp/common/001586101.pdf

 そこでは、申請方法などが記載されています。ご存知の通り、カテゴリーIIIの飛行となるので第一種機体認証を受けている無人航空機を使用することや、一等無人航空機操縦士のライセンスを取得していることが求められ、国が公表した文中では、有効な第一種機体認証書番号や技能証明書番号を記載することが記されています。

ドローンの学習や国の要件を理解するのに役立つ「リスク評価ガイドライン」

 今回注目していただきたいのは、4項の許可等に関わる基本的な基準の中にあります。4−3−2項において、“その運航の管理が適切に行われている”ことの説明にあたっては、飛行マニュアルの作成と提出が求められています。

 この飛行マニュアルには、リスク評価の結果に基づくリスク軽減策の内容を記載する必要があり、そのリスク評価は福島ロボットテストフィールド(以下、福島RTF)から発行されている安全確保措置検討のための無人航空機の運航リスク評価ガイドライン(以下、リスク評価ガイドライン)を活用することが推奨されています。

 このリスク評価ガイドライン(Edition 1.1)は、2022年12月2日に発行されました。

▼福島ロボットテストフィールド-安全確保措置検討のための無人航空機の運航リスク評価ガイドライン
https://www.fipo.or.jp/robot/wp-content/uploads/2022/12/RTF-GL-0006_安全確保措置検討のための無人航空機の運航のリスク評価ガイドライン-Ed_1.1.pdf

 これは、特にカテゴリーIIIに限らず、ドローンの運航に対してどのようにリスクを考え、どのように安全確保措置を計画すれば“適切”であろうかを指南してくれる内容となっています。これまで(実質的にカテゴリーIIにあたる飛行に対して)、国土交通省から航空局標準マニュアルが公開され、適宜更新されてきましたが、その文章の前段には「運航者は、本マニュアルの遵守に加え、(中略)飛行のリスクを事前に検証した上で、追加的な安全上の措置を講じるなど、無人航空機の飛行の安全に万全を期さなければならない」と記載されており、リスク評価ガイドラインは、その検証や安全上の措置検討の参考になると思います。

▼国土交通省-無人航空機飛行マニュアル
https://www.mlit.go.jp/common/001218180.pdf

 また、無人航空機の飛行及び学科試験において求められる最低限の知識要件について、国土交通省から「無人航空機の飛行の安全に関する教則」が公開されています。リスク評価ガイドラインはこの教則とも整合性があり、教則を学習している方の理解をさらに深めることにつながります。

▼国土交通省-無人航空機の飛行の安全に関する教則
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001520517.pdf

 さて、このリスク評価ガイドラインは、JARUS(Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned Systems)が発行しているリスク評価手法であるSORA(Specific Operations Risk Assessment)がベースとなっており、日本の制度との整合を図ってまとめたものになっています。

 SORAの利用イメージについては、筆者が以前発表した、離島物流についての資料がありますので参考にしてみてください。

▼日本UAS産業振興協議会- Technical Journal of Advanced Mobility(無人航空機運航リスクアセスメント手法SORAの国内実証実験への適用)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjam/2/4/2_42/_pdf

 2007年に設立されたJARUSは、各国・各地域の民間航空当局や無人航空機に関わる専門家たちがボランタリーに集まる組織体で、大型小型に関わらず無人航空機の安全な活用・空域統合のための技術面・安全面・運用面の要件を推奨して行くことを目的としています。欧州や米国、日本の航空局も参加しています。特に欧州はJARUSの活動に注力していて、実質、JARUSは欧州航空安全機関(EASA)のルールメイキングを行うチームの1員であるとの認識もあるようです。

▼UK Parliament- Civilian Use of Drones in the EU
https://publications.parliament.uk/pa/ld201415/ldselect/ldeucom/122/12206.htm

 例えば、EASAはその運航リスクに応じて、Open・Specific・Certifiedの3つカテゴリーに分けて制度設計をしてきましたが、Specificカテゴリーについては、JARUSのSORAと深く関わりがあります。

 JARUSは任意団体であるため、間接的に関わる人の中には、資金面や信頼面で心配を吐露する人もおり、一時期Webサイトのサーバーがダウンしていたこともありますが、これは資金的な面での障害だったと聞いたことがあります。このWebサイトには将来の制度の動向を見守るうえで、有益で貴重な発行物が多く掲載されています。

▼JARUS- Publications
http://jarus-rpas.org/publications

 SORAは、ドローンの安全運航を実現するために、JARUSに集まった専門家の知を集結したものといえます。過去の事故の経験を受けとめて、より空の安全な文化を目標に進化してきた航空行政ですが、扱う技術も利用者も規模も異なるドローンへの適用には工夫が必要と認識し、その航空の安全システムをドローン向けに再構築しようとしているのが見受けられます。国際的に知名度が高く、欧州における一部のリスクカテゴリーでは運航許可を得るに必要なツールとなっているほか、アメリカでも飛行試験の許可を取得する際の情報整理に利用されています。そして今回、Japanese SORA(=福島RTFのリスク評価ガイドライン)が公表されたということは、海外の制度との共通言語が一つ追加されたということになります。

 SORAもリスク評価ガイドラインも、利用するユーザーや現場と足並みを揃えて進化していくものなので、疑問点や現場との乖離点などを意見することで、日本や世界のドローンの環境整備が進んでいく仕組みになっています。リスク評価ガイドラインはドローンを利用する事業を展開する前に一読しても損のない資料だと思いますので、ぜひ一度読んでみてください。

中村裕子

一般財団総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM) 事務局次長:イノベーションマネジメント,ドローンリスク管理,低高度空域運航管理(UTM),国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA 参与,航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門: レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。