第1回目のコラムでは、どこの国の航空局も、“ドローンという便利な技術の可能性を、硬直したルールによって潰してはいけない!”というプレッシャーと、“メーカーにとってもオペレーターにとっても世界での運用に向けて調和されたルールであるべきだ”という要求に晒されていると書きました。

 ドローン活用の拡大が期待される一方で、多機の同時運用は安全運用や有人航空機との統合に対する懸念があり、最善な運用のための工夫された規制を設けようとの各国の動きがあります。しかし、一貫性と安全性を確保するためのグローバルな枠組みも必要です。そこで登場するのが、国際民間航空機関(ICAO)なのです。

 ICAOは国際連合の専門機関で、国際民間航空において、安全で秩序ある発展を促進するために、1944年に採択されたシカゴ条約に基づき設置されました。現在193カ国が加盟しており、カナダのモントリオールに本部があります。ICAOの役割は、航空安全、セキュリティ、効率、持続可能性に関する取り決め・調整・協調を行うことです。ICAOで開発されるSARPsとは、すべての締結国に原則的に適用される「標準(Standards)」と、統一的に適用されることが望ましい「勧告方式(Recommended Practices)」を合わせて示す略称で、条約の附属書(Annex)としてICAOで採択され、各国の規制やガイドラインの基礎として利用されます。

▼外務省-国際民間航空機関(ICAO)とは
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000755.html

 ICAOが本来対象とするのは民間航空機の国際間運航です。2014年3月に第196回 航空委員会(Air Navigation Commission: ANC)によって承認を受けて設立されたRPAS Panelも、遠隔操縦で国際間を飛行する貨物航空機のようなオペレーションをイメージしながら議論を進め、その社会実装に必要な耐空証明や通信、衝突回避、ライセンスなどのSARPs作成を行っています。その進捗は、第1回目のコラムで紹介したRPASシンポジウムという会議体等で、私たちは定期的に触れることができます。

▼ICAO-RPAS Panel
https://www.icao.int/safety/UA/Pages/Remotely-Piloted-Aircraft-Systems-Panel-(RPASP).aspx

 一方で、比較的小型のドローンですが、本来であればICAOのテリトリーではありません。しかし、冒頭に挙げたようなドローン環境整備のニーズに迫られた加盟国からの要望がICAOに集まるようになり、2016年から具体的に、ICAOとして小型のドローンの環境整備において何ができるか?に着目し、ICAO組織内のリソースの問題や、ICAOの国際間運航を対象とする立ち位置などを考慮しながら、検討が始まりました。そして、世界のベストプラクティスとして、各国のルールなどをまとめたUAS Toolkitという情報ポータルを作成したり、世界中の関係者を集めてドローン規制に関する問題を議論する必要と価値に注目しDrone Enableという会議を開催することになったのです。

▼ICAO-UAS Toolkit
https://www.icao.int/safety/UA/UASToolkit/Pages/default.aspx

ドローンの幅広い情報が集まる世界的な会議「Drone Enable」

 Drone Enable会議は2017年に初めて開催され、その後、毎年開催されています。この会議では、航空交通管理、安全・セキュリティ、技術・イノベーション、社会的利益など、ドローンの規制に関連する幅広いテーマについて、基調講演、パネルディスカッション、技術発表が行われます。実は筆者は、モントリオールで開かれたDrone Enable 2017の「UTM-Registration, identification and tracking」というセッションと、成都で開かれたDrone Enable/2(2018)の「What is UTM and why is it separate from, but interoperable with, ATM?」というセッションのチェアを務める機会をいただいたこともあって、すっかりDrone Enable推しです。

▼ICAO-Drone Enable 2017
https://www.icao.int/meetings/UAS2017/Pages/default.aspx
▼ICAO-Drone Enable/2 2018
https://www.icao.int/Meetings/DRONEENABLE2/Pages/default.aspx

 私は、「皆、従来の航空機と同じスピード感でドローンを取り扱っちゃ困るぜ」と思いつつも、ICAOの会議というのはなんとなくジェダイ評議会のような場であり、非常に重要で、世界から情報が集結している見逃せないイベントだと思います。なお、次回は2023年12月5日~7日の期間に開催されます。

Drone Enalbe 2017の会場の様子。

UTMの枠組みや基礎情報をまとめた「UTMガイダンス」

 Drone Enableシンポジウム等で集まった情報を元に、ICAOはガイドラインの作成等を行っています。

 最後に、現在第4版が出ているICAO UTMガイダンスをご紹介します。ドローンの交通整理のシステムであるUTMの導入が既存の航空管制ATMシステムの安全性や効率に悪影響を及ぼしてはならないとして、UTMシステムの導入を検討している国に対して、「典型的な」UTMシステムの枠組みおよび中核機能を提供する文書です。

 UTMの原則から、実現につなげるステップ、UTMに期待されるサービス一覧と、現在と理想の間にあるギャップなどが述べられています。付録には、ICAOの2017年、2018年、2019年、2021年の情報提供要請(RFI)への提出物や、それぞれのDrone Enableシンポジウムで提供された資料に基づく情報を掲載しており、UTM界隈の方には必見の文章かと思われます。

▼ICAO-UTMガイダンス
https://www.icao.int/safety/UA/Pages/UTM-Guidance.aspx

中村裕子

一般財団総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM) 事務局次長:イノベーションマネジメント,ドローンリスク管理,低高度空域運航管理(UTM),国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA 参与,航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門: レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。