本連載では、各国でドローンの環境整備を進める海外組織の動向について解説しています。今回は、航空輸送の安全・維持確保を目的としたアメリカの政府機関である連邦航空局(FAA)を中心に、法整備の仕組みを見ていきましょう。

 米国においてのドローンの環境整備は、振り返ればどこまででも遡れますが、本記事では2012年に発行された「FAA Modernization and Reform Act (PL 112-95, 126 Stat. 11)」から振り返ります。

日本の一歩先を行く米国におけるドローン運用の環境整備

「FAA Modernization and Reform Act (PL 112-95, 126 Stat. 11)」は、FAAに対し、2015年9月までに民生用ドローンを国家空域システムに安全に統合するための包括的な計画を策定・実施し、公共のドローン操縦者に対する新たな基準を実施するよう指示する法律です。これにより、商用ドローンの利用は小型機であっても厳しく制限されました。なお、研究目的でも商用と分類され、大学での研究に支障があったと記憶しております。

 2014年からはSection 333という、商業ドローンの飛行を合法的に行う枠組みが設けられました。また、2015年からはSection 333 exemption(免除)を得た者への一定高度以下の運用を許可するCOA (Certificate of Authorization) が自動的に付与されることとなりました。COAは2023年現時点でも有効な仕組みで、航空機運用・使用事業の許可ではなく、飛行・各機体ごとの申請が不要な包括的な飛行許可となります。これは、別途機体の高い耐空性を示す必要があるなど、今も昔も取得の難易度は大変高く設定されています。

▼FAA–COA (Certificate of Authorization)

 商用目的の小型ドローンの利用環境は、2015年12月に導入された0.55ポンド(250g)以上55ポンド(25kg)以下の小型UAS登録制度、さらには、2016年6月に制定された小型UASに関する取り決め「Part 107 “Small Unmanned Aircraft Systems”」により急速に整備され始めました。

▼FAA–Small Unmanned Aircraft Systems (UAS) Regulations (Part 107)

 なお、Part107とは、重量55ポンド未満の小型ドローンの商業利用に関する規則であり、リモートパイロットの認定要件、運用上の制限、安全ガイドラインが含まれています。余談ではありますが、筆者も2017年にPart 107のパイロット認定ライセンスの試験を受けて一時期ライセンスホルダーであったこともありました(2年ごとに更新が必要で、すでに失効済み)。

 制定された2016年当時のPart107では、目視外飛行や第三者上空飛行などには別途免除(waiver)の手続きが必要でした。誤解を恐れずに言えば、アメリカは多くの運航形態に対して、しばらくの期間は2015年に施行された航空法改正時の日本と同等あるいはより厳しい規制環境だったと言えます(飛行許可を得る点において)。日本がより良い環境を構築するために、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が牽引する形で各種研究開発や実証を進める一方で、FAAでも、将来のドローン規制の参考となるデータを収集するために、さまざまな活動を支援・リードしてきました。

 2013年の米国領空へのドローン統合のための6つのテストサイトの設置のほか、米国領空へのドローン統合に対応する研究アライアンス「ASSURE (the Alliance for System Safety of UAS)」を2015年に開始、第三者上空飛行や無人地帯での目視飛行の拡大(EVLOS: Extended Visual Line of Sight)、目視外飛行(BVLOS: Beyond Visual Line of Sight)等の運用に必要な環境を評価していく「Pathfinderプログラム」の開発、2017年には州政府、地方政府、部族政府、民間団体と協力し、目視外飛行(BVLOS)や荷物配達を含む高度なドローン運用を試験・評価するためのプログラム「IPP (Integration Pilot Program)」の立上げといった複数の環境整備がFAAによって行われました。また、目視外飛行などの高度なドローン運用の課題対処を目的に「BEYONDプログラム」を2020年に開始しています。これは、2017年に立ち上げたIPPから発展したプログラムです。これらの取り組みは、非常に意義深いアプローチや成果を出しているため、ドローンの研究開発に取り組むユーザーに対しても非常に有用な内容となっています。特に、ASSUREの報告書や、BEYONDプログラムの進捗は非常に参考になります。

▼ASSURE
▼FAA–BEYOND

 その後、直近では2021年に米国の小型ドローンの利用環境は、FAAによってさらに整備が進みました。そのひとつはドローンの遠隔識別(リモートID)です。日本でも2020年に交付された航空法改正で機体の登録制度が創設されました。これと同様に、米国でも飛行中のドローンに対して、ドローンの識別情報(ドローンの身元、位置、高度、操縦所または離陸場所など)を無線周波数放送で提供することが義務付けられています。本制度の制定前は、リモートIDをネットワーク型とするかブロードキャスト型(無線周波数放送)とするかといった議論が過熱し、それに関連したパブリックコメントには、5万件以上の意見が寄せられたと記憶しています。

 ふたつ目に、同年の2021年に夜間や第三者上空飛行に関するルールも制定されました。新たな枠組みとして第三者上空の飛行について、ドローンの4つのカテゴリーが新設されました。さらには、夜間や第三者上空、移動中の車両の上空での飛行について、特定の要件を満たす限り、これまで必要であった免除(waiver)あるいは個別手続きが不要になりました。ただし、合わせてリモートパイロットライセンスに関する要件も変更されています。

▼FAA–Part 107 Waiver

 上記のように、夜間飛行や第三者上空飛行の手続きの免除が設けられた一方で、目視外飛行(BVLOS)の運航許可は、日本の方が取得しやすい環境にあるかもしれません。FAAは、BVLOSの運航について見通しを立てるための航空規則委員会(ARC)を2021年に設置しました。委員会は2022年3月に最終報告書を提出しました。その内容は、許容リスクレベルの設定や、低高度における有人機とドローン、ドローン同士の衝突防止のルールの設定、リモートパイロットの要件などについてFAAに整備を進めるよう勧告するものです。これによって、2024年頃には、BVLOSの制度化について動きがあるかもしれません。現状では、立法案公告が公表される可能性があります。

▼DRONE FUND–航空規則制定委員会の最終レポートにより、UASの実装が本格化

 今回、米国の(小型)ドローンに関する環境整備の一部を紹介しました。記事内では、ASSUREやBEYONDプロジェクトに触れましたが、当連載ではさらにこれらを詳しく解説していきます。また、FAAの制度設計の中で、私は「Safety Continuum(安全の連続体)」という制度設計における考え方が印象的であり、型式認証とD&Rプロセスといった事柄についても紹介していきたいと考えています。

 2021年には、筆者がドローン物流に関して、運航事業者の資格に関する議論をまとめました。こちらでは、FAAによる航空運送事業認定を取り巻く動向を取りまとめています。参考にぜひ一読ください。

▼J-STAGE–米国初の航空運送事業認定に至る協議から我が国でのドローン宅配実現に向けての考察

中村裕子

一般財団総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。