今回は、空の移動革命に向けた官民協議会から公表されている「空飛ぶクルマの運用概念(ConOps)」に注目し、次世代エアモビリティと交通管理に焦点を当てます。現在、次世代エアモビリティの実現には社会の受容性が不可欠です。そのため、航空交通管理の観点から、自由な空の移動が現実のものとなるまでの進捗を見極め、その話題を注視していくことが重要です。私自身、この分野に未熟な点もありますが、次世代エアモビリティの交通管理について基礎的な情報をまとめました。

▼経済産業省-空の移動革命に向けた官民協議会「空飛ぶクルマの運用概念(ConOps)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/009_04_00.pdf

次世代エアモビリティへの期待

 世界各国では、急速な都市化に伴う道路の混雑や環境への懸念から、より速く効率的な移動を実現する次世代エアモビリティ(AAMあるいは都市専用のUAM)への関心が高まっています。

 日本でも、「空飛ぶクルマ」のコンセプトに基づき、インフラの改善、災害対応の迅速化、そして商業地や観光地における地域の魅力向上が期待されています。さらに、深刻な人手不足からモビリティの自律化に対する関心も高まっています。

 2025年日本国際博覧会「大阪・関西万博」の開催まで1年を切り、Joby AviationやSkyDriveあるいはVolocopterなどの具体的な機体メーカーを耳にすることが増えてきました。しかし、これらの新しいモビリティによる移動手段を実現するには、航空交通管理の課題に早急に取り組む必要があります。特に都市上空での実現を考える場合には、さまざまな課題が複雑に関係してきます。

従来の交通管理

 従来の飛行ルールは、主に管制空域で飛行する従来の有人航空機のために設計されてきました。安全な飛行には、他の航空機との間隔維持、障害物回避、気象の管理が必要です。民間航空の場合、これらの航空交通管理の責任の所在は機長に課せられていました。しかし、航空機の交通量が増加し、技術が進歩することで、責任の所在や役割は機長と管制官で分担するように変化しています。

 現在は、計器飛行方式(IFR)と有視界飛行方式(VFR)の2つの方式があります。IFRは特定の空域内を常に管制官の指示に従って飛行する方式で、主に管制官の指示によって空中衝突が防止されます。管制官は周囲の交通量を常時監視し、衝突防止の判断を行う責任がありますが、機長は空中衝突回避システムのサポートを受けながら最終的な衝突回避の責任を負う仕組みになっています。一方、VFRはIFR以外の飛行方式で、基本的には管制官の指示を受けないで(必要に応じて、航空管制のサービスを受けることもあります)機長が目視で周囲を確認し、空中衝突を防止します。何十年もかけて確立されたこれらの規則のもとで、有人航空機の安全は保たれています。

 他方、次世代エアモビリティでは、従来のルールにはなかった低空飛行や頻繁な運航、遠隔操縦、高度な自動化などを考慮する必要があります。

▼IATA(国際航空運送協会)-Hight Level Concept paper on Changing Environment for Flight Rules
https://www.iata.org/contentassets/8c2566421a524258896e89aceb739333/high-level-concept-paper-on-a-changing-environment-for-flight-rules_webpage.pdf

新しい飛行ルールの必要性

 航空交通の管理には、戦略的管理と戦術的管理の概念があります。戦略的管理では飛行ルートの承認や、スケジューリングなど、飛行前に可能な限りリスクを抑えることを考えます。一方、戦術的管理では、事後対応を中心としたプロセスで飛行中に判断していきます。これは、気象等をはじめとする周囲環境の影響によって予定通りの飛行が困難な場合、戦術的管理によって遅延を最小化したり、空中衝突を回避するものです。これらは20年以上も前に確立されており、現在もこの仕組みに基づいて管理されています。次世代エアモビリティのように、最先端技術によって人による管理が減少していく中で、将来的には航空交通管理とのやりとりもデジタル化されていくことが期待されます。

 また、特に都市上空の空域では、密で柔軟な運航が求められます。例えば、定期的なシャトル便だけでなく、オンデマンドで移動可能なエアタクシーの構想が拡大しており、狭いエリアで複数機によるサービス展開が考えられます。また、サービス化となれば、陸路を含むさまざまな移動手段との価格競争に発展する可能性があります。

 従来の航空交通管理が、需要に対する知識を前提として中央集権的な考えで最適に運用されてきたのに対し、次世代エアモビリティは、人工知能、機械学習、リアルタイム・データ解析などの先進技術を活用し、空域と交通の流れを動的に管理する交通流管理が必要と考えられます。

 経済産業省が公表している「空飛ぶクルマの運用概念(ConOps)」では、次世代エアモビリティは段階的に普及し、初期段階ではパイロットによるVFRで管理されるとしています。これに対し、どのような対応をしていくべきなのか、どの段階で移行すべきか具体的な道筋を議論していく必要があると感じています。その際には、FAAのConOps等が参考になると思います。また、JAXAの研究開発の進展にも注目したいです。

▼FAA-Urban Air Mobility Concept of Operations
https://www.faa.gov/sites/faa.gov/files/Urban Air Mobility %28UAM%29 Concept of Operations 2.0_0.pdf

▼JAXA-次世代空モビリティの協調的運航管理技術の研究開発(CONCERTO)
https://www.aero.jaxa.jp/news/event/pdf/sympo231013/sympo04.pdf

バーティポートとその管理

 バーティポートは、従来の航空機の空港に類似した施設であり、次世代エアモビリティの運航のハブとして機能するものです。バーティポートに関する議論は比較的早くから国内でも議論されており、2023年12月には国交省より整備指針が出されました。ただし、パイロットが搭乗し、VFRで運用されることを前提としています。

 次世代エアモビリティの利用が拡大した場合、目的地には機体が離着陸できる場所が当然必要となってきます。従って、バーティポートの効率的な(容量を含む)管理は、UAMサービスの円滑な運航を確保するために不可欠です(これには、インフラの最適化、発着のスケジューリング、地上業務の管理、電気航空機用の充電設備など必要なサービスの提供なども含まれます)。また、既存の交通網にバーティポートをシームレスに統合していくことも極めて重要です。整備指針が発表され、用地の確保や地元の理解が進む一方、容量の増加や中長期を見込んだ運航便数の管理、既存交通網における位置づけなどを早い段階で想定していくことが必要と考えられます。なお、初期設備の設置にも課題はあり、Vol.8ではオーランドの取り組みを紹介しました。

▼国土交通省-バーティポート整備指針
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001711020.pdf

コリドーと都市部の空の移動

 次世代エアモビリティの中でも、特に都市上空を対象としたUAM運航については、専用のコリドー(空港やバーティポート等の間を結ぶ専用の空域)が必要です。設置することで、他の空域利用者との衝突を最小限に抑え、飛行の効率的なルーティングを確保することに役立てられると期待されています。しかし、これには特定のルートの定義のほか、人口密集地、重要インフラ、制限空域などの影響を受けやすい地域を回避しなければならず、環境について人々の理解が必要です。さらに、コリドー自体が機能するように、空域利用の公平性を担保した上で、空域の監視・管理のための規則と手順そして性能について、機体側の要件も設定していく必要があります。

 次世代エアモビリティの実現には、以上のように、航空交通管理における中長期を見据えた計画と管制側および機体側での技術的な革新が必要で、そのために広いステークホルダー間での協力も必須と考えられます。具体的な機体や具体的なデマンドがないと、このような計画や協力を進めていくことは難しいのですが、技術の発展には長いリードタイムが必要で、そのために今各地で将来の絵姿がConOpsという名で発表され、関係者の理解が進むことが期待されています。ぜひ、経産省による「空飛ぶクルマの運用概念」に目を通してみてください。

中村裕子

一般財団総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。