2024年5月17日、日本の国土交通省と韓国政府航空当局との間で「航空の安全に関する相互承認取決め」が締結されました。これは、日韓でドローンおよびUAM(Urban Air Mobility)の安全認証や耐空証明に関する相互協力を行うという内容です。
韓国、ドローン技術の最前線を走る
まず、韓国におけるドローンの技術開発では、2016年に韓国政府が「ドローン産業発展基本計画(2017~2026年)」を策定し、国を挙げてドローンの技術開発を推進することが決定しました。すでに2017年時点には、VTOL機やタービンエンジンを搭載した大型機などを開発しており、約40機種もの最先端を行くドローンが完成していました。さらに、2018年から2022年までの5年間にわたっては、約1兆2000億ウォン(約1200億円)を投入することが決定され、さらなる技術開発と社会実装を推進することとなりました。その後、2021年には釜山で最初のドローン宅配が始まり、2022年からは都市部における目視外飛行での物流事業を開始しています。ドローンの社会実装で最も難しいとされる物流配送においては、中国に次いで米国と並ぶトップランナーに位置付けられます。このように、韓国のドローン活用は2016年頃から国が力を入れはじめ、今では牽引する中国や米国と肩を並べています。
「K-UAM Grand Challenge」韓国のエアタクシー事業への挑戦
一方、UAMでは、エアタクシー事業の開始を目標とする韓国政府による大規模プロジェクト「K-UAM Grand Challenge (K-UAM GC)」を2021年に開始しています。これは、2025年にエアタクシー事業の社会実装を目指す大規模な実証プロジェクトで、国内外の企業とも協力体制を築いて進められました。
第1フェイズは、島嶼で韓国航空安全技術研究所(KIAST)が実施し、第2フェイズでは韓国国土交通省(MOLIT)が引き続き実施するとされています。KIASTは、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)を設立する1年前となる2013年に設立されました。MOLITの付属機関として設立され、ドローン及びUAMなどの航空機の安全認証が主たる業務となっています。
K-UAM GCには、米国でのUAMの機体開発で先行しているJoby Aviation、ARCHER、ブラジルのEVE、ドイツのVoloCopterが国内企業と連携して参加しています。例えば、2026年からエアタクシー事業のサービス化を目指し、タクシー配車事業で急成長を遂げているKakao Mobility社という企業があります。こちらは、ARCHERのUAMを50機購入することを決定して参加しています。
韓国国内企業のUAMへの積極的参入
韓国の国内企業では、自動車最大手の現代自動車がUAM事業に参入するため、2011年に米国にSupernal社を設立しました。2024年1月に米国で開催されたCES 2024(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で5座席の電池駆動でチルトローター型VTOL機のコンセプトモデルを発表し、2028年の市場出荷を実現する計画を表明しています。
2021年には韓国企業のPLANA社がソウル市近郊の京畿道に設立されました。このPLANA社は、6座席のレイアウトで約500kmの飛行が可能なハイブリッドエンジン駆動のチルトローターVTOL機の開発を始めました。ハイブリッドエンジンの駆動はバイオ燃料(SAF)の使用とあるので既存の小型タービンエンジンを搭載している可能性が高いです。
2023年には、ソウル市近郊の城南市にAIRBILITY社が創設されました。創設メンバーには、前述で紹介したPLANA社の創設メンバーが含まれています。2025年にペイロード10kg、飛行距離約200kmのチルトローター式のVTOL型ドローンの市場投入を計画しており、10月に東京ビッグサイトで開催される「2024国際航空宇宙展」でプロトタイプが展示される予定です。さらに、AIRBILITY社では、2028年にはペイロード200kg、飛行距離約400kmの大型貨物ドローンのほか、小型航空機などへの展開を計画していると言われています。この企業の技術の特徴はダクテッドファンとハイブリッドエンジンを採用している点です。
日本と韓国のドローン・UAM協力関係の深化
6月にJUIDAが主催した日本最大のドローン展となる「Japan Drone 2024」及び「次世代エアモビリティEXPO 2024」には、KIASTの幹部が多数来訪し、ドローン及びUAMに関する相互協力関係の構築が提案されました。JUIDAは現在28カ国39団体とMOUを締結しています。これには、ドローンに関連する韓国の2団体も含まれていますが、JUIDAでは初めて政府機関と協力関係を結びました。ドローンに加え、UAMの発展にも貢献していく構えです。
【千田泰弘のエアモビリティ新市場のすべて】
Vol.1 新たなモビリティ「空飛ぶクルマ」の定義と将来像
Vol.2 耐空証明の仕組みから紐解く、ドローンと空飛ぶクルマの違い
Vol.3 Japan Drone 2022から見るエアモビリティの駆動源開発と世界の機体
Vol.4 新産業誕生なるか、エアモビリティのサプライチェーン
Vol.5 エアモビリティ開発に勝機を見出せるか
Vol.6 世界のエアモビリティ開発企業から考察する数年後の動向
Vol.7 CONOPSから見る、空飛ぶクルマの社会実装に向けた各国の現状と課題
Vol.8 米国のデータから紐解くエアタクシー市場、日本での社会実装条件を考察
Vol.9 空飛ぶクルマの開発状況と耐空証明事情
千田 泰弘
一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長
一般社団法人 JAC新鋭の匠 理事
1964年東京大学工学部電気工学科を卒業、同年国際電信電話株式会社(KDD)に入社。国際電話交換システム、データ交換システム等の研究開発に携わった後、ロンドン事務所長、テレハウスヨーロッパ社長、取締役を歴任、1996年株式会社オーネット代表取締役に就任。その後、2000年にNASDA(現JAXA)宇宙用部品技術委員会委員、2012年一般社団法人国家ビジョン研究会理事、2013年一般社団法人JAC新鋭の匠理事、2014年一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)副理事長に就任、現在に至る。