前回は、2024年10月に国土交通省から登録講習機関に対して発せられた厳重注意で指摘された事項のうち、法令違反について取り上げました。
今回は、「登録講習機関の無人航空機講習事務として不適切な事項」(不適切事項)として指摘されたものについて扱います。
▼国土交通省-厳重注意について
https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku10_hh_000262.html
正しい講習運営のために不適切事項を正確に認識
本件の厳重注意では、対象の登録講習機関(以下、対象機関)について以下の4項目の法令違反と10項目の不適切事項が指摘されています。
法令違反 | (1)入学申請者に提出を求める申請書添付書類の不備及び不保存 (2)審査員研修を受講したのち審査員研修修了証明書の発行を受ける前の審査員による修了審査の実施 (3)実地講習における必修履修科目の未実施 (4)本来修了審査に合格していない者に対する修了証明書の発行 |
不適切事項 | (5)通達改正に伴う事務規程変更の未実施 (6)事務規程に規定されていない講習料金の徴収 (7)管理者による適切な定期確認の未実施 (8)模擬飛行計画を提示しない机上試験問題の使用 (9)修了審査の口述試験における審査員による点検項目の指示 (10)実地講習実施計画書に記載すべき事項の未記載 (11)帳簿に関する資料の別個での管理等 (12)講習記録簿における記載事項の未記載 (13)日常点検記録簿の記載方法の誤り (14)修了審査等における保護眼鏡の未着用 |
事務規程その他関係書類に関連する不適切事項((5)、(6)、(10)、(11)、(12)、(14))
不適切事項(5)
(5)通達改正に伴う事務規程変更の未実施 法第132条の74第2項においては、事務規程に無人航空機講習の実施方法、無人航空機講習に関する料金その他の省令で定める事項を定めておかなければならないこととされており、省令第8条においては、事務規程に記載すべき事項が定められている。さらに、登録講習機関の登録等に関する取扱要領(以下「取扱要領」という。)では事務規程に規定すべき事項の詳細を規定している。本年6月に取扱要領の改正が施行されたところであるが、貴社においては事務規程に記載すべき事項が記載されないまま講習事務が実施されていた。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(5)は、取扱要領の改正に応じた事務規程の改正がなされていなかったというものです。取扱要領などの通達類の改正に伴い事務規程の変更が必要になる場合がありますので、通達類の改正に随時対応できる体制を整えておくことが必要となります。
不適切事項(6)
(6)事務規程に規定されていない講習料金の徴収 法第132条の74及び省令第8条に基づき、事務規程に無人航空機講習の料金を定めることが求められているが、貴社においては事務規程に記載されていない割引価格にて料金を徴収していた。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(6)は、事務規程に記載されていない割引価格を適用していたというものです。講習料金は事務規程への記載事項とされていますので、恒常的な割引価格を設定する場合には事務規程に記載してください。
不適切事項(10)
(10)実地講習実施計画書に記載すべき事項の未記載 取扱要領においては、実地講習実施計画書に記載すべき項目が定められているが、貴社においては、実地講習実施計画書の様式に、講習の日程、講習会場等の記載欄がなかった。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(10)は、実地講習実施計画書に、取扱要領で定められた事項が記載されていなかったというものです。取扱要領では、実地講習実施計画書には、 講習の日程、講習会場、講習を受ける者の定員 及び 同時に講習を受ける者の人数 を記載するものとされていますので、これらが漏れなく記載されている必要があります。
不適切事項(11)
(11)帳簿に関する資料の別個での管理等 省令第12条においては、帳簿に記載すべき事項を定めているが、貴社においては、管理者が帳簿に記載すべき事項を把握しておらず、また、それらに関する資料が一括で管理されていなかった。さらには、事務規程で帳簿に記載する事項を規定しているが、省令の内容と整合していなかった。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(11)は、具体的な内容は明らかでありませんが、事務規程に定められた帳簿の記載事項が省令の内容と整合していなかったとするものです。もし、省令で必要とされる事項が帳簿に記載されていなかったのであれば、法令違反に該当するようにも思われますが、不適切事項とされている理由は明らかではありません。いずれにしても、無人航空機の登録講習機関及び登録更新講習機関に関する省令12条で定められた事項は帳簿に記載するようにしてください。
なお、不適切事項(11)で指摘されている、管理者が帳簿に記載すべき事項を把握しておらず、帳簿に関する資料が一括で管理されていなかったとの点は、一般論としては登録講習機関の事務遂行として適切さを欠くと言い得るものではあります。しかし、取扱要領等のどの規定に反するために不適切とされたのかが明確でなければ、登録講習機関にとっては予測可能性を欠くことになります。
今回の事例のように厳重注意が公表されると、登録講習機関にとっては実質的な制裁としての効果が生じ得ることから、厳重注意の対象はできる限り明確であることが望ましいと考えます。
不適切事項(12)
(12)講習記録簿における記載事項の未記載 貴社の事務規程において、講習記録簿(学科及び実地)の受講日や時間数等を記載する様式が定められているが、貴社においては学科、実地ともに講習後に時間数が記載されていなかった。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(12)は、講習記録簿に講習を行った時間数が記載されていなかったというものです。取扱要領では、記録簿に、 講習科目、講習日、講習時間、講習を行った講師名 について記載するものとされていますので、記載漏れがないよう注意してください。
不適切事項(14)
(14)修了審査等における保護眼鏡の未着用 貴社の事務規程においては、修了審査等については、別添「講習に必要な設備及び備品一覧表」に定める設備及び備品を使用して行うと定められているが、講習に必要な設備及び備品一覧表に記載されている保護眼鏡を着用せず修了審査等が実施されていた。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(14)では、保護眼鏡を着用せず修了審査等が実施されていたことが指摘されています。この指摘は、単に保護眼鏡を着用していなかったことを理由に不適切としているのではなく、対象機関の事務規程で保護眼鏡を着用して修了審査等を行うとされていたにも関わらず、規定どおりの安全対策がとられていなかったことが不適切とされたもの考えられます。
講習や修了審査においては適切な安全対策を講じる必要がありますが、保護眼鏡の着用は必須とはされていないことから、事務規程では、各講習機関が実施する安全対策に沿った内容の規定にする必要があります。
講習の運営に関する不適切事項((7)、(13))
不適切事項(7)
(7)管理者による適切な定期確認の未実施 法第132条の72及び省令第6条第6号に基づき、登録講習機関における無人航空機講習が適切に行われていることを定期的に確認することが求められているが、貴社においては管理者が確認事項を把握しておらず、記録等も確認できなかった。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(7)は、航空法・省令で求められている管理者による定期確認が適切に実施されていなかったというもので、管理者が定期確認における確認事項を把握していなかったことも指摘されています。登録講習機関としての登録申請手続において申請した内容を十分に把握しないまま講習事務を運営している講習機関も見受けられるのが実態のようですが、講習に携わる関係者が、登録講習機関として適切に講習を実施するために求められる知識を十分に修得できる体制を整えるようにしてください。
不適切事項(13)
(13)日常点検記録簿の記載方法の誤り 無人航空機の飛行日誌の取扱いに関するガイドラインにおいては、飛行記録の記載事項及び方法が定められているが、貴社においては複数の飛行記録を同一用紙に記載する等、不適切な方法で記載が行われていた。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(13)は、日常点検記録簿の記載が、無人航空機の飛行日誌の取扱いに関するガイドラインに定める方法によらない方法で行われていたというものです。日常点検記録簿の記載方法は、無人航空機の飛行日誌の取扱要領とガイドラインに記載されていますので、これらを参照して適切に記録することが求められます。
修了審査に関する不適切事項((8)、(9))
不適切事項(8)
(8)模擬飛行計画を提示しない机上試験問題の使用 法第132条の72及び省令第6条第9号に基づき、修了審査に合格した者に対してのみ修了証明書を発行することが求められており、実施基準等において修了審査の実施方法を規定している。実施基準等においては、修了審査の机上試験では模擬飛行計画を提示し、飛行計画の作成において留意が必要な事項について、受験者が理解しているかどうかを判定可能な質問を行うこととされているが、貴社においては模擬飛行計画を提示しない試験問題を使用して机上試験が実施されていた。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) |
不適切事項(8)は、机上試験において、模擬飛行計画を提示しない試験問題が使用されていたというものです。登録講習機関が実施する修了審査には、無人航空機操縦士実地試験実施基準が準用され、各種類及び等級の実施細則に則って実施されることになります。実施細則では、机上試験においては、実際の飛行計画を模擬して作成された飛行計画(模擬飛行計画)を提示して、飛行計画の作成において留意が必要な事項について受験者が理解しているかを判定することとされています。修了審査の実施にあたっては、机上試験・口述試験・実技試験のいずれについても、実施基準・実地細則に準拠した内容で試験を実施してください。
不適切事項(9)
(9)修了審査の口述試験における審査員による点検項目の指示 一等・二等無人航空機操縦士実地試験細則においては、口述試験(作動前点検、作動点検及び飛行後点検)では、日常点検記録の様式を受験者に提供し、試験員の指示に従って点検をさせることとしており、日常点検記録への記載漏れがあった際には減点を行うこととしているが、貴社においては点検箇所を個別に指示し受講生に確認させており、記載漏れがほぼ起こらない方法で口述試験が実施されていた。 厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号) ※一部原文の誤字を訂正しています。 |
不適切事項(9)は、修了審査における飛行前後の点検で、修了審査員が点検箇所を指示していたというものです。口述試験での点検では、どの箇所を点検するかの判断も受験者が行い、点検が必要な個所に漏れがあると大幅な減点の対象となります。審査員が点検箇所を指示すると、点検漏れによる減点は生じないことになり、実施基準等に則った方法で修了審査を受験した受講生との間で不公平が生じることは明らかです。
修了審査が適切に行われなかった場合には、受講生に再受験などの大きな負担を生じさせることになります。実施基準・実施細則を遵守して厳正に修了審査を実施することは、登録講習機関として最低限の責務といえます。
【ドローン事業に役立つ法規制解説】
Vol.5 国土交通省が登録講習機関に対して厳重注意-法令違反の内容を解説
Vol.4 ドローンの国家資格取得後に注意すべき事項
Vol.3 VTOLの技能証明についての課題と実務上の対応方法の検討
Vol.2【2024年】ドローン操縦者技能証明試験の概要と実務上の課題
Vol.1 ドローンの国家資格と民間資格の違いを解説、課題が残るVTOLの運用
岩元昭博 弁護士
2006年東京大学法学部卒業、2007年弁護士登録、2019年University of Washington School of Law(LL.M.)修了、2020年ニューヨーク州弁護士登録。
上場企業・中小企業に関する訴訟・紛争対応、人事・労務、コンプライアンス、組織再編等の企業法務、地方自治体に関する行政法務などを中心に業務を取り扱う。
東京都(法務担当課長)及び国土交通省航空局(無人航空機安全課専門官)での業務経験があり、航空局では2022年12月改正航空法施行によるドローンのレベル4飛行実施に向けた制度整備を担当。
2023年にリーガルウイング法律事務所を開設し、現在に至る。