国産の空飛ぶクルマ「SKYDRIVE(SD-05)」の開発を行うSkyDrive。これまで機体開発やサービスの社会実装を進めるため国内外を問わずさまざまな企業と協力体制を築いてきた同社だが、新たに九州旅客鉄道(JR九州)と提携を結んだ。2024年7月4日、SkyDriveとJR九州は空飛ぶクルマの運航を目指し、九州地方での事業成立の可能性を探るべく、連携協定を締結した。

2025年の万博を見据えたSkyDriveの目標とJR九州の長期ビジョン

SkyDriveが開発している「SKYDRIVE(SD-05)」の模型。

 SkyDriveは2025年の大阪・関西万博を契機に事業拡大をねらい、空の移動を日常的なものにすると目標に掲げる。また、JR九州は「2030年長期ビジョン」で安全なモビリティを軸としてまちづくりを行い、九州の発展に貢献するとしている。今回の連携協定は空飛ぶクルマを普及させたいSkyDriveと、新しいモビリティを活用したいJR九州という両者の考えが合致した格好だ。

SkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩氏(左)と、JR九州代表取締役社長執行役員の古宮洋二氏(右)

 7月4日に行われた会見にはSkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩氏と、JR九州代表取締役社長執行役員の古宮洋二氏が出席。福澤氏は中学・高校時代を九州で過ごしたことを明かし「九州は観光資源が豊富なうえに交通機関が十分に発達していない。空飛ぶクルマを導入することで地域経済や交通手段がより豊かになればと考えている」と今後の導入に向けた意気込みを語った。古宮氏は「空飛ぶクルマの実用化により、観光客の誘致促進、地域活性化を推進したい。自社の駅などの施設を活用し、事業スキームや導入エリア、運航ルートを具体的にし、事業の可能性を検討したい」と取り組みの方針を説明した。また、すでに東日本旅客鉄道(JR東日本)や南海電鉄といった鉄道事業者が空飛ぶクルマの社会実装に向けた動きを見せるなかでの参入については「現状では各社と提携する考えはないが、参考にしながら九州の特性を活かした独自のものを作っていきたい」と述べた。

 これまでJR九州は「ななつ星in九州」をはじめとした特徴的な観光列車や、地域の魅力を打ち出した鉄道旅行ツアーの開発を行ってきた。SkyDrive側がJR九州に対して、「新しいモビリティである空飛ぶクルマによる遊覧飛行」という付加価値をつけた旅行ツアーの開発や、飛行ルートの開拓を期待している様子もうかがえた。

 SkyDriveは空飛ぶクルマの開発だけでなく、ドローン事業も営む。能登半島地震では自社開発の物流ドローン「SkyLift P300S」などを活用し、孤立集落の被害状況確認や物資輸送を行った。また、3月にはドローンショー事業への参入を表明。7月、石川県に拠点を置き国内で唯一専用機体を開発するドローンショー・ジャパンとの業務提携を果たした。これらを踏まえ、福澤氏に九州でのドローン事業の展開について伺うと「物流ドローンの運航データはSKYDRIVE(SD-05)の開発にフィードバックしている。また現状は、ドローンショーにおける複数機の制御を通して、将来の1対多運航への知見を蓄えている。九州ではドローンショーの開催実績がまだ少ないようなので、地域に喜ばれ、ビジネスモデルが確立できる形を目指したい」と語った。

スズキの製造技術を活かしたSKYDRIVE(SD-05)の開発進展

 SKYDRIVE(SD-05)については連携協定を結ぶ自動車メーカー・スズキの静岡県内の工場で開発・生産が進められている。大阪・関西万博まで1年を切り、いまだに機体が姿を見せない点を指摘すると、福澤氏は「数か月以内にはお披露目できるタイミングを迎える。今後の量産を見据え、通常の航空機と同様に機械による生産に取り組んでいる」と解説した。また、スズキの自動車製造に関するノウハウがSKYDRIVE(SD-05)の製造にも注がれており「コンパクトカーや小型モビリティを手掛ける同社の生産技術のおかげで、いい形に仕上がりつつある。他の空飛ぶクルマメーカーからSkyDriveに転職した社員のなかには『成熟度が高い』と話す人もいる」と出来栄えに自信を見せた。

 6月に発表した大阪・関西万博での商業運航断念、デモフライトへの切り替えについても質問が相次いだが「商業運航に必要な型式証明の取得は、安全面を考慮すると現時点では厳しい。だが、複数メーカーの空飛ぶクルマが空港ではない場所で飛行するのは万博が初で、世界に対してインパクトを与えられる。これまでも万博協会とは2点間を飛行させるためにどう計画を推進するかという点でやりとりしており、万博における目標に変化はない」と、前向きな姿勢を崩さなかった。