ドローンと空飛ぶクルマ・UAM(Urban Air Mobility)を見比べると、よく似た外観が多く見受けられます。UAMが航空機に分類される一方で、ドローンは航空機に分類されず、法律面や技術面で非常に大きな違いがあります。一見すると、同じ分野と思われるかもしれませんが、今回はドローンとUAMの違いについて、“安全性”に注目して解説します。
また、UAMの呼称として「人乗りドローン」と表現されることがあります。UAMの自律飛行を描いた造語だと思われますが、UAMに適したイメージを与える造語ではありませんので、この点についても解説します。
ドローンの法規制の原点を辿る
航空機の安全性は国連傘下の国際民間航空機関・ICAO(International Civil Aviation Organization)が定めた安全基準が1944年シカゴ条約となり、日本を含む190か国以上が批准しています。
ICAOの規則では、航空機の通常飛行空域を地表・水面から500フィート(150m)以上としており、ドローンはこの空域以下で飛行するように40か国以上で独自の規則が整備されました。したがって、ドローンにおける世界共通ルールは定められていませんが、各国で調和(ハーモナイズ)を保った独自の規制が整備されているのです。
その例として、高度500フィート以下の目視内飛行を対象としていることや、リスクに応じた柔軟な規制を原則としていることなどが挙げられます。日本は2015年にドローンの法整備を行いましたが、2021年にこれを改正し、世界に先駆けて目視外飛行の法律を整備しました。これが本年12月から施行されるレベル4飛行に向けた航空法改正となるのです。
空飛ぶクルマに必要な耐空証明とドローンの安全性の考え方
ドローンとUAMの大きな違いは、UAMには“耐空証明”が必要ということです。耐空証明は機体の安全性をシカゴ条約に則って国が保証するものであり、耐空証明のない航空機は営業用に供することができません。
耐空証明を取得した航空機に第三者を乗せて操縦するには、国が認定した操縦技能を有するパイロットでなければなりません。ただし、但し書き飛行(試験飛行等)のために飛行させる場合は、その都度許可を得ることで耐空証明や操縦資格は不要となります(航空法第11条但し書きによる飛行)。そのほかの特殊な例では軍用機に耐空証明は必要なく、パイロットの操縦資格も不要です。
UAMの但し書き飛行に関しては、本年3月25日に国土交通省が公表した「空飛ぶクルマの試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドライン」により詳しい解説が記されています。
▼国土交通省「飛ぶクルマの試験飛行に係る航空法の適用関係のガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000072.html
実は日本では、但し書き飛行だけで運用している飛行機があります。それは超軽量級動力機(ウルトラライト、マイクロライト航空機)と呼ばれる2人乗り以下、重量225kg以下の単発飛行機です。但し書き飛行で運用できるものの制限が設けられており、2地点間の移動ができず、限られた空域内(半径9km)しか飛行できません。多くの機体が国交省に登録されており、各地に専用の飛行クラブや専用飛行場が設けられています。
多くの国はこのクラスの飛行機をLSA(Light Sport Aircraft)と称する航空機として扱い、耐空証明が発行されています。しかし、現在の日本においてはこの制度が導入されておらず、最近になって導入の検討が始まりました。
航空法11条によれば、日本で飛行機を扱うには、海外の原産国で耐空証明を得た機体であっても日本の耐空証明を取得しなければなりません。また、原産国で耐空証明を取得していない場合は、他国で耐空証明を取得できません。原産国で耐空証明を取得した飛行機が、他国で耐空証明をスムーズに取得できるようにするため、二国間協定の相互承認協定・BASA(Bilateral Aviation Safety Agreement)が整備されました。これは、BASAを締結して耐空証明の相互受け入れを約束し、重複検査を避け、認可の効率化を図った仕組みです。日本は米国・欧州・カナダ・ブラジルとBASA協定を結んでおり、これらの国で対空証明を取得したUAMは日本での耐空証明取得や販売がスムーズに行えます。日本がBASA協定を締結した理由は三菱スペースジェットの国産開始が大きいとされています。
欧州航空安全機関(EASA)は2018年に世界初となるUAM法の骨子案を発表しました。これに沿って、2021年12月にUAMの耐空証明案を公表し、意見聴取を開始しています。2024年から順次施行するとしており、すでに12個のプロジェクトが検討されています。
一方、米国では2023年に向けた9個のプロジェクトが耐空証明審査準備中といわれています。日本でも2025年の耐空証明取得を目指し、SkyDriveが受審を開始しています。2025年の大阪万博では、いよいよ国内外のUAMの飛行が始まり、サービス開始の道筋が見える状況になってきました。
航空機の耐空証明は「落ちないこと」を政府が確認し、保証することに尽きます。この落下確率ゼロというのは非現実的ですので、20人乗り以上の大型機は10億時間の飛行で1回、19人乗り以下の小型機は100万時間の飛行で1回の数値が目標として掲げられます。過去40年間の航空機事故統計を振り返ると、この目標値に到達していないことが判ります。設計、製造、試験段階で重大事故に結びつく可能性がある素材、部品、システムなどの信頼性や可動部分などの故障間隔、部品の故障確率データ等を確認し、実際に試作機を製造して確認します。さらに、この安全性が運用中も維持できることを保証するため、定期検査やオーバーホールなどの義務化・MRO(Maintenance Repair Overhaul)を条件に耐空証明の維持管理を義務付けたうえで耐空証明が発行されます。同時に設計図には型式証明が与えられます。耐空証明の有効期限は1年。UAMの場合、これらの前例を参考にしながら、より簡易化された審査が行われると予想されます。