Vol.1では、私がドローンの環境整備「RPAS2015」に参加した際の話しを解説しました。そして、2025年は私がドローンの環境整備に関わってからちょうど10年となります。

▼Vol.1 ドローンを取り巻く海外の組織構造から見る環境整備
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/series/column20230411-01/1185029.html

世界各国が取り組むドローンの環境整備を振り返る

 これまでの世界の大きな動向を振り返ってみましょう。米国ではクリスマスプレゼントとしてドローンが大量に市場に出ることへの脅威から、2015年の末に“登録制度”が導入されました。また2016年には、Vol.6で解説したSmall UAS Rule(Part 107)の枠組みによって禁止されていたドローンの商業利用が可能になりました。

▼Vol.6 米国、連邦航空局(FAA)によるドローンの環境整備を振り返る
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/series/column20230411-01/1185551.html

 一方、EUの各加盟国では、150kg以下の航空システムが規制対象とされていましたが、2017年に向けて統一していくことが合意され、2019年にようやく域内共通のドローン規制(EU)2019/947が交付されました。この規制は、2024年1月1日から全面で適用され、域内では欧州航空安全機関(EASA)による包括的な規制が効力を持っています。他方、日本ではご存じの通り、2015年および2022年にドローンに関する航空法の改正があり、目視外での第三者上空飛行(レベル4飛行)が可能となりました。

 ドローンを身近な空域で商業用として広く活用していくためには、ハードウェアの信頼性や耐久性などの向上を図ることが必要です。ドローンにおける規制の枠組みの発展は、イノベーションと産業成長の基盤としての役割と安全性及びコンプライアンスの確保の両面が期待されており、今後も進化が止まらないことが想定されます。

ドローンに関する規制の環境変化:米国

 新年を迎えた2025年の欧米におけるドローンの規制環境について、どのような変化が待ち受けているのか、見ていきたいと思います。

 2025年のドローンに関する規制の環境変化で、私が最も注目しているのは、米国における目視外飛行(BVLOS)に関する規制(Part 108)の行方です。2022年3月に、航空規則制定委員会(ARC)からBVLOSに関する規制の枠組みのあり方に関する報告書が提出されました。これによる制度への反映に関しては、2024年9月の米国議会が設けた期限にもかかわらず、アメリカ連邦航空局(FAA)からは草案の公表は2025年1月前後になるだろうとされています。また、昨年世間を騒がせた政権交代の影響もあるかもしれません。

 BVLOS飛行は、Part 107にある一定のプロセスによる免除を受けて飛行させることが可能です。しかし、Part 107はあくまで目視内飛行を前提とした制度であり、効率の悪さが指摘されています。それを踏まえ、Part 108はBVLOSの飛行を前提とした制度となっており、システムの安全認証のほか、衝突回避の仕組みや事業者認定などが含まれ、BVLOS飛行の拡大に対応できる(迅速な審査と安全性の確保)制度になることが期待されています。当然、米国のBVLOS規制は世界のドローン市場に影響を与えることが想定され、草案の発表への注目は米国にとどまりません。

▼DRONE FUND - 航空規則制定委員会の最終レポートにより、UASの実装が本格化
https://dronefund.vc/feature/aviation-rulemaking-committees-final-report-brings-full-scale-uas-closer-to-lift-off/

 このほか、現在米国では「2025年度国防権限法(National Defense Authorization Act)案」(以下、NDAA 2025案)が議論されているところです。これは、日本国内における国産ドローンの世界市場に大きく関わる法案と思われます。

 最新のNDAA 2025案によれば、米国施設に対する潜在的なドローンの脅威に関する米軍の対応を改善するための条項が含まれています。一方で、初期に含まれていた、特定の外国製ドローンの開発に関わることや購入に対してのあからさまな制限は削除されています。しかしながら、「米国の国家安全保障または米国人の安全と安心に容認できないリスク」を課す可能性を排除できない「通信機器またはビデオ監視機器」及び関わるサービスを新たにリリースできなくなる可能性が指摘されています。

▼RULES COMMITTEE PRINT 118–52 TEXT OF THE HOUSE AMENDMENT TO THE SENATE AMENDMENT TO H.R. 5009
https://docs.house.gov/billsthisweek/20241209/RCP_HR5009_xml%5b89%5d.pdf

ドローンに関する規制の環境変化:欧州

 欧州において私が注目しているのは、ドローンの運航管理(UTM・欧州ではU-space)の規制の行方です。欧州では、2021年4月に、世界初とも言えるU-spaceの関連規則(委員会実施規則(EU)2021/664(U-space)、(EU)2021/665(Part-ATS)、(EU)2021/666(航空規則))が承認されました。合わせて2022年には、U-spaceの調和、安全、効率的な実装を支援するためのコンプライアンスおよびガイダンス資料(AMC/GM)のファーストパッケージが発行されています。これらの規制の枠組みの定期的な更新をタスクとする政策タスクフォースRMT.0748が2024に立ち上がり、2025年は、U-spaceの規則やAMC/GMの更新や関連するワークショップの開催が見られると思われます。

 具体的には、「飛行承認」について、運用データの構築や、SORAとの整合性確認、逸脱のしきい値の設定や、ASTM F3548の条項の反映などが予定されていると言われています。また、動的な変更、U-space空域への出入りに関して柔軟性を持たせたAMC/GMの設定も行うとされています。ASTM/Eurocae規格それぞれに基づくUSSP(U-spaceサービスプロバイダー)間の交換や、ARA(空域リスク評価)の合理化、そのほか、品質改善、技術的明確化なども具体的に議論されるようです。これらの議論は、日本でのUTMの動向を図るにも、貴重な情報と思われます。

▼EASA - Panorama of EASA drones activities
https://www.eurocontrol.int/sites/default/files/2024-10/2024-09-05-uspace-meeting-vilnius-vaubourg-oster-bauer-cunial-di-rubbo-chirea-scannapieco-algar_0.pdf

 欧州でUTMの規制整備が進む一方で、日本では2025年にUTMの認定制度の導入が予定されています。欧州では、上記のU-spaceの規制が2023年1月から効力を持ち、サービスプロバイダーに対しての認定プロセスも効力をその時から持っていますが、最初の認定は2025年になる予定と発表されています。USSP認証には、EASA経由と個別の航空局経由の2つの主な方法があり、認証を受ける事業体の事業者がEU加盟国内にあれば、個別の航空局に認証を依頼することもできます。USSP認証の要件では、安全管理システム(SMS)やサイバーアシュアランスなどの主要な航空原則が重視されています。なお、その要件も進化していくことから、2023年に認証プロセスが設定されて以降、各企業が長い期間をかけて認証プロセスに挑んでいるようです。

▼UNMANNED AIRSPACE - Navigating U-space and USSP certification: a new era in drone airspace management
https://www.unmannedairspace.info/commentary/navigating-u-space-and-ussp-certification-a-new-era-in-drone-airspace-management/

 日本には2022年の航空法改正以降、3つのカテゴリーと2種類の機体認証が創設されましたが、分類法は異なるものの、欧州も同様にOpen/Specific/Certifiedの3つのカテゴリーがあります。日本ではカテゴリーIIとカテゴリーIIIに対して型式認証制度があるように、欧州では、2つ目のカテゴリーである「Specific」の中でも高いリスクの運用に対して、ドローンの初期耐空性要件、および継続的な耐空性に関する適用可能な規制枠組み((EU)2024/1107、(EU)2024/1108、(EU)2024/1109、(EU)2024/1110)が2024年に制定され、これらに対する具体的な手段であるAMC/GMの制定の提案が現在なされています。2025年に決定予定で、これにより該当するリスククラスの耐空性要件が明確になる予定です。

▼EASA - NPA 2024-06
https://www.easa.europa.eu/en/document-library/notices-of-proposed-amendment/npa-2024-06

 冒頭で述べたように、ドローンの制度は今後も進化していくものと思われます。また、機体に関する要件や、UTM/U-Space関連サービス提供に関わる要件については、国際的なハーモニゼーションが図られると予想されます。従って、世界の動向を引き続き注視し、当連載にて解説していきますので、今後もご期待ください。

中村裕子

一般財団法人総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、日本無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、次世代エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。