2025年は、大阪・関西万博で展示やデモ飛行が実施されるなど、空飛ぶクルマ(次世代エアモビリティ)に関連した動きが活発に行われてきた。
今回の記事では、「空飛ぶクルマビジネス調査報告書2026」の関連企画として、2025年の空飛ぶクルマビジネスの動向について国内を中心に振り返りを行う。
大阪・関西万博の開催/大阪での先行実装に向けた動き
2025年4月13日から10月13日にかけて、大阪・関西万博が開催された。日本では万博での空飛ぶクルマのフライトの実現が、重要な目標として位置付けられてきた。空の移動革命に向けたロードマップや大阪版ロードマップなどで、重要なマイルストーンとして設定されてきた。
万博会場内の「モビリティエクスペリエンス」では、オリックスがEXPO Vertiportの整備・運営を担当した。Expo Vertiportのエリアでは、機体の運航や展示が行われた。会場内の「空飛ぶクルマステーション」では、展示や体験などの企画が行われた。
【運航】
- 丸紅(使用機体:LIFT AIRCRAFT「HEXA」)
- SkyDrive(使用機体:SkyDrive「SD-05」)
- ANAホールディングス/Joby Aviation(使用機体:Joby Aviation「Joby S4」)
【機体展示】
- Soracle(日本航空・住友商事 共同出資会社)(展示機体:Archer Aviation「M001(Midnight)」)
大阪では、空飛ぶクルマの先行実装に向けた取り組みが行われている。Osaka Metroは大阪港バーティポートを竣工し、デモフライトなどの企画を行っている。Soracleは大阪での事業化推進に向けて、大阪府・大阪市と連携協定を締結した。
今後、大阪の湾岸エリアを中心に空飛ぶクルマの運航が始まり、大阪湾・瀬戸内海での運航ネットワークが形成されることが考えられる。大阪は観光都市として人気があり、万博の開催効果もある。瀬戸内海には豊かな自然環境が広がっている。
今後、事業者の拠点の誘致を進めることができれば、先行エリアとしてのメリットを活かした産業集積ができる可能性がある。
万博での展示・デモ飛行
大阪・関西万博:空飛ぶクルマ
https://www.expo2025.or.jp/future-index/smart-mobility/advanced-air-mobility/
【大阪・関西万博】空飛ぶクルマの今後の運航スケジュールは?見どころを解説(2025年5月9日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187286.html
Soracle、大阪・関西万博で空飛ぶクルマ「Midnight」実機サイズ・モデル機を展示(2025年6月18日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187408.html
丸紅、万博会場デモフライトでの空飛ぶクルマ機体損傷の原因を発表(2025年7月9日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187498.html
【関西万博2025】国産の“空飛ぶクルマ”がデモ飛行開始! アクセスや観覧の注意点を解説(2025年8月18日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187621.html
【万博後半】大阪・関西万博&市内で「空飛ぶクルマ」を楽しむ!体験スポット完全ガイド(2025年8月29日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1187655.html
ANAHDとJoby Aviation、大阪・関西万博での空飛ぶクルマ飛行デモの詳細発表(2025年9月10日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187706.html
先行実装に向けた動向
空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル
https://www.pref.osaka.lg.jp/o110020/energy/evtol/index.html
万博と会場外を結ぶ「大阪港バーティポート」を公開―搭乗体験などイベントも開催し商用運航を目指す(2025年4月3日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187157.html
2027年中の空飛ぶクルマ商用運航に向け、ソラクルと大阪府・市が連携協定(2025年9月19日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187719.html
大阪・関西万博「トんでる!オーサカ 空飛ぶクルマビジネストークセッション」レポート① ― 次世代の観光の在り方と空からの都市開発(2025年10月2日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187737.html
大阪・関西万博「トんでる!オーサカ 空飛ぶクルマビジネストークセッション」レポート② ― 空飛ぶクルマが身近な社会と都市部・災害時の物流革命(2025年10月2日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187746.html
中部地方におけるエコシステムの形成
中部地方では、製造業などを基盤に次世代空モビリティ産業の形成を目指す動きが活発になっている。自治体による官民連携プロジェクトや、事業者による取り組みなどが行われている。
愛知県には、ドローンや空飛ぶクルマの機体開発を行うスタートアップの本社・研究開発拠点が集まっている。愛知県は、次世代空モビリティの利活用や産業振興に向けたプロジェクトを推進している。名古屋商工会議所は次世代エアモビリティの実装と産業集積に向けた構想を提言している。ドローンサミットやAAMアジア 2025など、イベントの開催も積極的に行われている。
静岡県では、空飛ぶクルマの製造(スズキとSkyDriveの連携)や、実験的な都市空間(Woven City)、バーティポート(御殿場プレミアム・アウトレット バーティポート)、実証フィールドなど先端的な拠点の整備が進んでいる。
愛知県
あいちモビリティイノベーションプロジェクト「空と道がつながる愛知モデル2030」
https://a-idea.jp/soramichi/
第4回ドローンサミット
https://dronesummit.pref.aichi.jp/
名古屋商工会議所が提言「名駅 “スーパーモビリティハブ” 構想」公表(2025年4月3日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187163.html
アジアの次世代エアモビリティの未来を考える国際シンポジウム「AAM アジア 2025」愛知で開催(2025年7月15日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187511.html
静岡県
三菱地所、空飛ぶクルマの離着陸場「御殿場プレミアム・アウトレット バーティポート」竣工(2025年5月30日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187350.html
静岡県、次世代エアモビリティの実証フィールドを選定(2025年6月19日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187419.html
首都圏における可能性
首都圏では東京都が空の移動革命に向けた動きを行っている。2025年2月、空の移動革命実現に向けた東京都官民協議会の会合で、東京都空飛ぶクルマ実装プロジェクト(案)が示された。
東京都は、「東京ベイeSGプロジェクト」や「都内における空飛ぶクルマを活用したサービスの社会実装を目指すプロジェクト」などを通じて、実証実験や先行実装に向けた活動をサポートしてきた。2025年10月23日、東京都は「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」1期の実施事業者を発表した。日本航空を代表事業者とするコンソーシアムと野村不動産を代表事業者とするコンソーシアムが選定された。
民間の動向として、再開発エリアでのバーティポートの整備や、新しいモビリティサービスとしての空飛ぶクルマの実装を目指す動きがある。三井不動産は築地市場跡地の再開発エリアでバーティポートを整備する構想を発表している。
首都圏は人口・経済規模が大きく、グローバルな経済活動の拠点にもなっている。国際空港やターミナル駅、ビジネス街、観光地、公共施設などが、空飛ぶクルマの輸送ネットワークで結ばれた場合、グローバル都市の新しいモデルになる可能性がある。
空の移動革命実現に向けた東京都官民協議会
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/cross-efforts/soranoidoukakumei
空飛ぶクルマが東京都心に登場!無料で実機&VR体験ができるイベントを開催(2025年3月25日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1187127.html
三井不動産、築地や三重県・伊勢志摩地区で空のモビリティ用離着陸場を整備へ(2025年6月20日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187426.html
JAL・住友商事・Soracle、東京都「空飛ぶクルマプロジェクト」に参画(2025年11月10日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187895.html
野村不動産など7社、東京都「空飛ぶクルマ実装プロジェクト(Ⅰ期)」に採択(2025年11月17日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187917.html
事業連携活動の動向
国際的に、空飛ぶクルマの機体開発は、スタートアップや自動車製造事業者、航空製造事業者などが取り組みを進めている。機体の開発や量産化に向けて、製造業の知見は重要になる。日本の自動車産業は、スタートアップとの連携や、独自の開発などの動きを進めている。
国内では、空飛ぶクルマを活用した移動サービスの実現に向けて、スタートアップや各分野の事業者による動きが活発になっている。
グローバルな動向として、大都市圏を中心に商用運航実現に向けた動きが行われている。
SkyDrive、スズキ・JR東日本・JR九州などから総額83億円を調達(2025年7月8日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187493.html
ANAHDとJoby、エアタクシー事業合弁会社設立の検討開始(2025年8月12日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187606.html
制度設計の動向/空の移動革命に向けた官民協議会での議論
日本では、空の移動革命に向けた官民協議会での議論に基づき、経済産業省と国土交通省が中心となり、空飛ぶクルマの制度設計に向けた動きを進めている。
2025年8月に、空の移動革命に向けた官民協議会が開催され、前回からの検討状況や、大阪・関西万博後の社会実装の実現イメージ(案)、2025年度の取り組みの方向性の発表や、新規構成員による活動の紹介、全体的な意見交換などが行われた。今年度末に向けて、ロードマップやConOpsの改訂などを行う方針が示された。
総務省は、情報通信審議会 電波通信技術分科会 電波有効利用委員会に電波上空利用作業班を設置し、次世代空モビリティなど、航空分野における電波利用拡大を見据えた電波利用政策の在り方や政策課題について検討を進めている。作業班の検討の参考にするため、2025年10月10日から11月10日にかけて意見募集が行われた。
国際的な動向として、空飛ぶクルマの制度整備は、民間航空を管轄する政府機関が中心となって行っている。ICAO(国際民間航空機関)での議論・検討も行われている。
経済産業省:空の移動革命に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/index.html
国土交通省:空の移動革命に向けた官民協議会
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk2_000007.html
総務省:情報通信審議会 情報通信技術分科会 電波有効利用委員会 電波上空利用作業班
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denpa_yukoriyo/dempajokuriyo/index.html
国土交通省、空飛ぶクルマ離着陸場の機能・分類の中間とりまとめを発表(2025年8月1日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187572.html
国土交通省航空局、「航空法第87条第1項の許可について」等の新規制定・一部改正(案)について意見を公募(2025年9月16日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187712.html
総務省、空の利用拡大に伴う電波利用政策の在り方について意見を募集(2025年10月10日)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1187800.html
まとめ
今回の記事では、空飛ぶクルマの実装に向けた動きについて、2025年の国内の動向を中心に振り返りを行った。大阪・関西万博で機体の展示やデモ飛行を実現できたことは、空飛ぶクルマの事業化・産業化に向けて重要な成果だと言うことができる。日本では、2020年代後半に、空飛ぶクルマの商用運航が先行エリアで始まることが想定されている。万博での取り組みを検証した上で、社会実装や産業形成に向けた戦略を着実に実行することが重要になる。
空飛ぶクルマビジネス調査報告書2026
| 書名 | 空飛ぶクルマビジネス調査報告書2026 |
| 著 | 合同会社ポリシーデザイン |
| 編集 | インプレス総合研究所 |
| 発行所 | 株式会社インプレス |
| 発売日 | 2025年12月11日(木) |
| ページ数 | 168ページ |
| サイズ | A4判 |
| 定価 | CD(PDF)版・電子版 11万円(本体10万円+税10%) CD(PDF)+冊子版 12万1,000円(本体11万円+税10%) |
| ISBN | 978-4-295-02359-3 |
| URL | https://research.impress.co.jp/report/list/cishidaieamohirite-i/502359 |
高橋 伸太郎 (合同会社ポリシーデザイン 代表社員)
次世代空モビリティに関する分野では、産業戦略の提言や、スタートアップへの支援活動、教育・研究プログラムの推進などを行ってきた。現在は、合同会社ポリシーデザイン代表社員、DRONE FUND顧問などを務める。
