2025年9月、大阪・関西万博で注目されている次世代モビリティ“空飛ぶクルマ”の可能性を探るイベント「トんでる!オーサカ 空飛ぶクルマビジネストークセッション」が、大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオン リボーンステージ」にて開催された。

 元TBSアナウンサーにして株式会社フォックスユニオン 代表取締役の国山ハセン氏と株式会社インプレス ドローンジャーナル編集長の河野大助氏をゲストに迎え、行政、商社、運航事業者、建築設計者など多彩なパネリストが登壇し、意見を交わした。当記事では全4セッションの内、3部・4部の内容をレポートする。
▼【1部・2部のレポートはこちら】大阪・関西万博「トんでる!オーサカ 空飛ぶクルマビジネストークセッション」レポート① ― 次世代の観光の在り方と空からの都市開発
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/event/1187737.html

大阪が描く“空の交通”ロードマップ

 冒頭で司会者は、大阪府が全国に先駆けて空飛ぶクルマの社会実装に取り組み、大阪版ロードマップを策定し、92社が参画するラウンドテーブルで協議を重ねてきたことを紹介。大阪府が「空を利用した近未来の移動手段」における先導地となっていることを強調した。

写真:話をする河野氏
株式会社インプレス ドローンジャーナル編集長 河野大助氏。

 その流れを受けて河野氏は、「大阪府は大阪・関西万博で空飛ぶクルマのデモ飛行を成功させました。今後は2027年からいよいよ商用運航を開始、さらに2030年には空飛ぶクルマの本格的な普及を目指すとビジョンを掲げており、今回大阪・関西万博で空飛ぶクルマが注目されているのは、事業者にとって非常に大きな動きである」とコメントした。

モビリティの未来を描く──大阪メトロとSkyDriveの挑戦

 第3部のテーマ「空飛ぶクルマで叶える、新しい飛行体験と交通モデル」では、大阪市高速電気軌道株式会社 執行役員 空飛ぶクルマ推進室長の山﨑康二氏と、株式会社SkyDrive CBO 村井宏行氏がパネリストとして登壇し、両者が取り組む事業展開について幅広く語った。

写真:話をする山﨑氏
大阪市高速電気軌道株式会社 執行役員 空飛ぶクルマ推進室長 山﨑康二氏。

 山﨑氏は、大阪メトロが1903年の創業以来、約120年にわたり大阪市民の交通を支えてきた歴史をひもとき、自社が「生活者の交通インフラを提供する企業」としての責任を持つ立場から、空飛ぶクルマを都市型MaaS構想の一翼と位置づける考えを示した。

 山﨑氏は、2035年に目指す街のビジョンを明らかにし、「2035年には空飛ぶクルマが自由に行き交い、地上では自動運転モビリティが24時間稼働する」と目指すべき未来都市の姿を発表した。

写真:話をする山﨑氏、スクリーンに表示された「大阪メトロが2035年に目指す姿」
2035年の未来都市を図化した資料の中には、空飛ぶクルマも描かれている。

 その中で空飛ぶクルマも新たなモビリティの選択肢として、今後のモビリティミックスの実現のために欠かせない交通手段になるという。この未来都市の実現には、「新たなモビリティの整備」「住民理解」「安全性の体験提供」が重要なステップだと語った。万博での西ゲート近くのバーティポートでのデモフライトや、大阪港バーティポートでの公開予定など、実証実験を通じて実際に見て感じる機会を創出していることにも触れた。

写真:話をする村井氏
株式会社SkyDrive CBO 村井宏行氏。

 続いて、村井宏幸氏はSkyDriveのミッションを「100年に一度のモビリティ革命を牽引すること」と述べ、「空を走ろう」というビジョンを掲げる。また、愛知県豊田市の山間部に設けられた開発拠点をはじめ、名古屋・小牧空港に設けられた設計スタジオなど、国内外のエンジニアが集う環境づくりを紹介した。現在は約3~4割が海外の従業員だという。

 空飛ぶクルマについては、自動車ではないのに何故“クルマ”と呼ぶのか?と多く尋ねられるという。これには、「我々としては、自動車のように日常的に気軽に使用できるモビリティの開発を目指していることからクルマという呼び方をしている」と説明した。

 次に、機体タイプの違いを解説。タイプには、より長距離向けの固定翼型と、SkyDriveの「SkyDrive式SD-05型」のような街中のラストワンマイルを担うマルチコプター型の2種類があり、マルチコプター型は固定翼機に対して飛行距離は短いが、コンパクトな設計なため、街中でも離着陸がしやすいという特徴があるという。

写真:話をする村井氏、スクリーンに表示された「空飛ぶクルマとは:自動車のように、日常的に気軽に使える空のモビリティ」
新たな空のモビリティとして、有人航空機や自動車との役割の違いを解説した。

 また村井氏は、米国の金融機関であるモルガン・スタンレーによる空飛ぶクルマの世界的な市場規模について、「2040年には1兆ドルの規模になると算出しており、期待されている」と説明した。

写真:展示された空飛ぶクルマに乗り込む来場者と、その姿を撮影するスタッフ
大阪・関西万博の「空飛ぶクルマステーション」では、「SkyDrive式SD-05型」が一般公開された。

 村井氏は、大阪での具体的な取り組みについても言及した。「9月からは大阪港のバーティポートにて、空飛ぶクルマの機体展示を行っており、デモフライトも予定している。また、星野リゾートが展開するホテル『OMO7大阪』でも機体の展示を行っており、どなたでも観覧できる」と、すでに実機を一般公開する機会が複数提供されていることを紹介した。さらに、万博会場の西側に位置する「EXPO Vertiport」では、8月中およそ1か月間にわたって連日公開のデモフライトを実施していたことにも触れた。「現在も、大屋根リングの先にある“空飛ぶクルマステーション”にて機体の展示を続けている。こちらは搭乗には予約が必要だが、機体の見学は予約不要で入場可能。ぜひ実機をご覧いただきたい」と、体験機会を強くアピールした。

 また、国際競争についても触れ、「アメリカや中国などのプレイヤーが先行している中で、我々は創業時期こそやや遅れたが、現在では開発スピードで十分に追いついており、“世界のトッププレイヤーの一社”として認識されている」と胸を張った。

 続いて量産体制についても、「機体の開発だけでなく、その先の製造体制も重要。我々は現在、大手自動車メーカーと共同で新たに工場を設立しており、量産に向けた準備は万端」と述べた。 村井氏によれば、現在「2028年の商用運航を目指しながら、すでに8か国から400以上のオーダーを得ている」こと、また「大手自動車会社のスズキ株式会社と共同で量産体制(年間200機規模)を整備中」であることも明かされた。

“夢の乗り物”から“生活の一部”へ──空飛ぶクルマの行方

写真:壇上の司会者、村井氏、山﨑氏
4者によるクロストークでは、「空飛ぶクルマで叶える、新しい飛行体験と交通モデル」をテーマに意見が交わされた。
写真:河野氏、話をする国山氏
株式会社フォックスユニオン 代表取締役 国山ハセン氏(右)。

 河野氏は、交通モデルとしての空飛ぶクルマについて「空飛ぶクルマは、観光や富裕層向けの印象を持たれがちだが、山﨑氏と村井氏の話を聞いて、“日常の普段使いの移動手段”としての可能性があると感じた」と話す。国山氏も「これは日本が本気で賭けるべき産業。自動車では世界をリードした日本だが、今こそ空のモビリティでその力を再び発揮するとき」と語り、会場の共感を呼んだ。

 話題は国際的な信頼性にも及ぶ。村井氏は「海外での営業でも『日本の会社だから信頼できる』という声を多く頂く」と述べ、製造業の蓄積が空飛ぶクルマ分野にも強みとして生きていることを示した。また、「スズキ株式会社と連携し、年間200機の量産体制が整ったことで価格低下も現実的になってきた」と語り、普及フェーズへの移行も視野に入れていることがわかった。

 大阪メトロとSkyDriveの連携については、「社風の違いが相乗効果を生んでいる」と山﨑氏は話す。慎重な大阪メトロと、スピード感あるスタートアップがタッグを組むことで、新しい挑戦が可能になっているという。

 聴衆からの質疑では、「国交省等による定義の未整備が民間企業の足を引っ張っているのではないか」「人を乗せての商用運航認可は2028年までに実現できるのか」という声が上がった。これに対し村井氏は、「官民協議会で規制づくりを国とともに進めており、認可の段階では現在6段階中3段階を終了済み。折り返し地点にある」とし、「2028年に商用運航を開始するという目標は計画通り進めていけるのではないか」と答えた。空飛ぶクルマは、単なる未来の乗り物ではない。都市の交通インフラとつながることで、日常の中に“空”が入り込む。その第一歩が、いま大阪で着実に進んでいる。