世界初となる360°カメラ搭載ドローン「Antigravity A1」のローンチイベントが、12月19日、東京都内で開催された。会場では機体の披露に加え、FPVパイロットによる飛行デモンストレーションや、参加者が操縦を体験できるプログラムも用意され、Antigravity A1が目指す新しいドローン体験を多角的に示す内容となった。

360°カメラとモーショングリップがもたらす“操縦に集中できる”空撮体験

 ベールを脱いだAntigravity A1。機体、ビジョンゴーグル、グリップモーションコントローラーに標準バッテリーが1個付く標準版の価格は20万9,000円(税込)。

写真:Antigravity A1
アームを展開した際の寸法は、長さ308.6×幅382.3×高さ89.2mm。機体上部に見える半球状のものが、上側を撮影する360°カメラ。

 Antigravity A1は、360°カメラ分野で世界シェア1位を誇るInsta360の支援のもと、複数のパートナー企業と共同開発された中国製のドローンだ。最大の特徴は、機体の上下に視野角180°の半球型カメラを搭載し、360°の全方向を余すことなく記録できる点にある。これによって撮影時に画角や構図を細かく意識する必要がなく、後工程の編集段階で自由にフレーミングできるため、撮り損ないが発生しにくく、操縦者は飛行そのものに集中できる。これは従来の空撮ドローンやFPVドローンとは異なる発想であり、撮影と操縦を分離するという新しいワークフローを提示している。

写真:グリップモーションコントローラー
グリップモーションコントローラー。大きさは長さ143×幅45×高さ72.5mm。連続駆動時間は4時間。

 操縦系統も独特だ。一般的な2スティック型の送信機ではなく、片手で扱うグリップモーションコントローラーを採用。親指が触れる部分には録画開始ボタンなどの操作系に加え、左右に回すホイール形状のダイヤルが配置され、機体のラダー操作(その場で旋回)を担う。ドローン操縦に不慣れなユーザーにとって、2スティック操作は心理的なハードルが高いという課題意識から、直感的な操作性を重視した結果だという。

写真:ビジョンゴーグル
ビジョンゴーグルの重さは340g。連続で使用した場合、2.5時間ほどバッテリーが継続する。30GBの内蔵ストレージを備える。
写真:ビジョンゴーグルの向かって右のレンズ部分に表示される映像
ビジョンゴーグルの左外側には操縦者が見ているものと同じ映像が投影される。

 ビジョンゴーグルもパッケージに含まれており、操縦者は機体周囲360°の映像に没入しながら飛行できる。ゴーグル外側の一部には操縦者が見ている映像と同じ映像が投影される仕組みがあり、外部モニターを接続せずとも、周囲の人が映像を共有できる点もユニークだ。さらに、撮影した360°映像をゴーグルで再生する機能も備え、操縦者以外の参加者も飛行を追体験できる設計となっている。

写真:展示されたAntigravity A1の左側面
Antigravity A1の左側面。下部の360°カメラを保護するため装備されたスキッド(脚部)は、離着陸時に自動で上げ下げする。飛行機のランディングギアのアップ・ダウンを彷彿とさせる。
写真:展示されたAntigravity A1の正面
機体前部の上下に障害物センサーを備え、LEDライトを挟み込む形に。

Insta360の思想を空へ拡張、FPV操縦者も評価した映像表現と注意点

写真:トナカイの角をつけ、マイクを持ち機体の脇で話をするKinki氏
機体を説明するInsta360 Japanのカントリーマネージャー・Kinki氏。

 ローンチイベントには、メディアやドローン事業者に加え、普段からInsta360製品を活用している動画編集者やインフルエンサーも多数来場した。イベント冒頭ではプロモーション映像が上映され、その後Insta360 Japanのカントリーマネージャー・Kinki氏が登壇。「AntigravityはInsta360と第三者パートナーによって誕生した新しいドローンブランドです。Insta360が培ってきた映像技術と、『人々の自然な生活を記録し共有する』というビジョンを、地上から空へ広げていきます」と語り、映像思想の延長線上にある製品であることを強調した。また「スペック競争ではなく、飛ぶこと自体の楽しさを伝えたい」とも述べ、自身がドローン初心者ながら「数分で操縦できるようになった」と操作性の高さをアピールした。

ユーザーの疑問に直接回答、今後の展開も示唆

 Antigravity A1に関する情報が初めて公開されたのは、2025年7月のことだ。それ以降、製品に関する問い合わせが数多く寄せられ、ユーザーの関心の高さがうかがえたという。ローンチイベントでは、そうした声の中からいくつかの質問に対して、開発側が直接回答する場面も設けられた。

「ビジョンゴーグルを同梱しないモデルは販売されるのか」という質問に対しては、「飛ぶ感覚を体験してもらううえで、ビジョンゴーグルは欠かせない存在です。今後もゴーグルを含めたセット販売を基本とします」と明言。一方、「一般的な2スティック型送信機の販売予定はあるのか」という問いには、「将来的な選択肢として検討を進めています。現在は国内のドローン熟練ユーザーから意見を集めている段階です」とし、ユーザーの声を反映した拡張を視野に入れていることを示した。

 後半には屋内での飛行デモンストレーションが行われた。Antigravityスタッフによる飛行に続き、FPVドローンのプロ操縦者が、自身のFPV機とAntigravity A1を比較する形でデモを実施。FPVドローンでは高度な操縦で被写体を捉え直す飛行を披露した一方、Antigravity A1では単純な通過飛行のみで、後編集によって同等の映像表現が可能であることを示し、「簡単な操縦でハイクオリティな映像が得られます」と解説した。

写真:飛行するAntigravity A1
屋内でGPSの電波が受信できない環境だったが、安定したホバリングを披露した。
写真:視界と共に各種テレメトリ情報が表示されたビジョンゴーグルの映像
ビジョンゴーグルに投影された映像は外部出力が可能。残りの飛行時間や飛行速度といった各種テレメトリ情報も表示される。着陸精度を上げる専用のランディングパッドも発売される。
写真:設定ボタンが表示されたビジョンゴーグルの映像
VRゴーグルのように、ポインタが表示されて各種設定ボタンを選択できるようになっている。

 Insta360と同様の専用アプリを使用した映像編集も披露された。スマートフォンの向きを変えて画角を切り出す方法や、タイムライン上にキーフレームを設定して構図を決める手法が紹介された。撮影後の編集自由度の高さが、Antigravity A1の価値を支えていることがよく分かる内容だった。

写真:映像編集画面でトラッキング設定を行う様子
映像編集画面。被写体を選択して自動的に追いかけるトラッキング機能もある。通常のドローンでは飛行させる際に被写体のトラッキングを設定するが、Antigravity A1の場合は撮影後にトラッキングする。

 Antigravity A1は12月18日に国内販売が開始され、家電量販店のドローン通販ランキングで1位を獲得するなど注目を集めている。一方で、運用にあたっては法規制への理解が欠かせない。機体重量は249gで航空法上の無人航空機に該当し、ビジョンゴーグルを用いた飛行は目視外飛行となるため、事前の承認取得が必須だ。加えて、飛行マニュアルに基づいた安全体制の構築、機体登録やリモートIDの対応も求められる。必要な手続きを行ったうえで新しい映像体験を存分に楽しんでほしい。