本誌では2023年、国土交通省が公表したカテゴリーIII飛行の審査要領と、その基盤の一つとなった福島ロボットテストフィールドの「無人航空機の運航リスク評価ガイドライン」、いわゆる「Japanese SORA」について紹介した。それから3年余り、ドローンの運航リスク評価手法「SORA(Specific Operations Risk Assessment)」をめぐる国際的な動きは大きく進んでいる。
▼Global Drone News Vol.2 ドローンの運用前に一読しておきたい「運航リスク評価ガイドライン」のポイントとSORAとの関係性
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/series/column20230411-01/1185030.html
2026年5月には、SORAの策定を担うJARUS(Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned Systems)のWG-SRM(Safety Risk Management Working Group)の会合が東京・日本橋のX-NIHONBASHIで開催された。筆者は今回の東京会合から、産業界やステークホルダーを代表してJARUSの活動に参加するISB(Industry & Stakeholder Body)のメンバーとしてWG-SRMに加わった。現在、JARUSではSORA 2.5に続く「SORA 3.0」の策定が進んでいる。その大きな焦点となっているのが、有人航空機との衝突リスクを評価する「エアリスク」の見直しだ。
本稿では東京会合での議論も踏まえ、JARUSとSORAの現在地、SORA 3.0で何が変わろうとしているのか、そして各国で進むSORA導入の動きを紹介する。
JARUSとは何か、70を超える航空当局・機関が参加
JARUSは、無人航空機システム(UAS)を既存の航空システムへ安全に統合するため、技術、安全、運航などに関する共通の考え方やガイダンスを策定する国際的な枠組みだ。2007年に発足し、各国・地域の航空当局に加え、EASA(欧州航空安全機関)やEUROCONTROL(欧州航空航法安全機構)などが参加している。
JARUS自体が各国を拘束する国際規則を制定するわけではなく、それぞれの航空当局が国内制度を整備する際に利用できる共通の方法論やガイダンスを作成し、制度の調和を図ることを目的としている。
実務を担うのはワーキンググループ(WG)と、その下に置かれるタスクフォース(TF)だ。2026年現在、安全リスク管理を扱うWG-SRM、機体の耐空性を扱うWG-AW(Airworthiness)、運航・組織・要員を扱うWG-OOP(Operations, Organisation and Personnel)などが活動している。
会合には各産業の専門家が参加し、以下は主となる参加者である。
- JARUS議長:Falk Gotten氏(ドイツ連邦航空局)
- 副議長:Roberto Honorato氏(ブラジル民間航空局)
- ISB議長:John Scull Walker氏(The Padina Group)
- ISB副議長:Julie Garland氏(Avtrain)
- Secretary General:Michael Shedden氏(イギリス民間航空局)
- WG-SRM Leader:Joerg Dittrich氏(ドイツDLR)
- WG-AW Leader:Ami Weisz氏(イスラエル民間航空局)
- WG-OOP Leader:Edwin Purnell氏(イギリス民間航空局)
SORAを担当するWG-SRMには各国の航空当局だけでなく、研究機関やドローン関連企業などから専門家が参加しており、産業界や関係機関の専門家はISBを通じて作業に加わる。筆者も以前からWG-SRMへの参加を希望していたが、当局側とISB側の構成比を考慮しながらメンバーが選定されるため、参加には時間を要した。今回、東京で開催された会合を機に正式にWG-SRMへ参加することになった。
JARUSは近年、ICAO(国際民間航空機関)のRPAS PanelやAAM Study Groupとの協調に加え、ACI World(国際空港評議会)やTIACA(国際航空貨物協会)など航空関連組織との連携も広げている。ドローンだけでなく、AAM(Advanced Air Mobility)を含む次世代航空モビリティの制度設計において、各国・機関の共通認識を形成する役割は以前より大きくなっている。
SORA 2.5で地上リスク評価や要求事項を整理
現在、各国で導入が進んでいるのが、JARUSが2024年に公開した「SORA 2.5」だ。SORAは、ドローンの運航内容や運航環境から地上と空中のリスクを評価し、そのリスクに応じて運航者や機体などに必要となる安全対策を導き出す方法論である。SORA 2.5はSORA 2.0を全面的に作り直したものではなく、主に手順や地上リスク評価、運航安全目標(OSO:Operational Safety Objective)などを整理し、運航者と航空当局の双方が利用しやすい形へ改訂したものだ。SORA2.0から何が変更されたのか?については以下のように整理できる。
- 構造の明確化:SORA 2.0でオーバーラップしていた附属書を整理し「Requirements」と「Guidance」を明確に分離(なお、SORAはメイン文章だけでなく附属書と合わせて読むことを強く推奨します。)
- ステップ数:11ステップから10ステップへ簡素化、Containmentの評価順序を前倒し(SORA 2.0のステップを覚えている方はご注意ください。)
- CONOPSの呼称変更:「Detailed Operational Information」へ(CONOPSやAnnex Aの取り扱いの説明に苦労していたので、この変更はスッキリしました。)
- 地上リスク(GRC)の定量化:人口密度・速度・Critical Areaに基づく定量モデル導入(EASAは「Critical Area Assessment Tool: CAAT」を別途提供)(使いやすくなったと思います。)
- 小型機の優遇:250g以下かつ25m/s以下のドローンは自動的にGRC 1へ
- グランドリスク緩和策の精緻化:M1がM1A(Sheltering)・M1B(運用制限)・M1C(地上での監視)に細分化
- 緊急時対応計画(ERP)のOSO化:従来の「M3緩和策」から、必須のOSO(Operational Safety Objective)へ昇格
- 運航安全目標(OSO)数の整理:24個から17個へ統合・整理、「Optional」を「Not Required (NR)」に置換、責任主体(運航者・製造者・訓練機関)を明示
- 安全の一貫性の強化(CSP(Comprehensive Safety Portfolio)の強化):USSPなど外部サービス提供者の安全への貢献(役割)をSLA(Service-Level Agreement、サービス提供者との公的な契約資料)で明示
▼PwCコンサルティング合同会社 - 次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト調査項目①海外制度・国際標準化動向調査
https://reamo.nedo.go.jp/library/2024/11/FY2024_ReAMo_SORA2.5.pdf
文書構造では、SORA 2.0で複数の附属書にまたがっていた要求事項やガイダンスを整理し、「Requirements」と「Guidance」の役割を明確にした。リスク評価の手順も11ステップから10ステップへ変更され、Containment(飛行範囲から逸脱するリスクへの対策)の評価位置が前倒しされたほか、従来「CONOPS(Concept of Operations)」として整理されていた運航情報も「Detailed Operational Information」として再整理されている。
地上リスクについても見直しが行われ、人口密度や機体速度、事故時に影響を及ぼす面積(Critical Area)などを使った定量的な評価方法が導入された。250g以下かつ速度25m/s以下の小型機については、一定の条件で最も低いGRC(Ground Risk Class)1として扱う仕組みも盛り込まれている。また、地上リスクを低減するM1緩和策は、Sheltering(建物などによる保護)、運用制限、地上監視などに細分化された。緊急時対応計画(ERP:Emergency Response Plan)は従来のM3緩和策からOSOへ移され、OSO自体も24項目から17項目へ整理されるなど、要求事項と責任主体の明確化も進められた。
EASAは2025年9月29日に「ED Decision 2025/018/R」を発行し、JARUS SORA 2.5をEUの「Specific」カテゴリーにおけるAMC(Acceptable Means of Compliance:適合性を示す手段)の一つとして正式に取り入れた。一方で、SORA 2.5では有人航空機との衝突リスクを扱うエアリスクについて大きな変更は行われていない。この部分の本格的な見直しが、次のSORA 3.0に持ち越された。
SORA 3.0の焦点は「エアリスク」の再構築
2025年5月にブリュッセルで開催されたJARUS総会では、SORA 3.0に向けた作業が本格化した。WG-SRMでは現在、SORA 2.5で残された課題への対応を進めており、その中心となるのがエアリスク評価の見直しである。現行のSORAでは、運航する空域における有人航空機との衝突リスクをARC(Air Risk Class)のa~dで分類し、必要に応じて戦略的、戦術的なリスク低減策を設定する。
SORA 3.0では、このエアリスクについて、空域の特性や有人航空機との遭遇・衝突確率などを踏まえた、より定量的な評価方法を導入する方向で検討が進んでいる。WG-SRMリーダーのJoerg Dittrich氏は、SORA 3.0に向けた課題として「エアリスクの抜本的な見直し(necessary overhaul of air risk)が必要となる。Annex C『Strategic Air Risk Mitigations』とAnnex D『Tactical Air Risk Mitigations』に加え、未公表のAnnex Gがその対象だ」と述べている。エアリスクの評価方法が変われば、その結果に応じて求められるDAA(Detect and Avoid:探知・回避)などの対策にも影響するため、現在のARC分類だけでは捉えにくい空域ごとの実態を評価へ反映し、運航リスクに応じた対策を設定しやすくすることが狙いとなる。
▼UNMANNED AIRSPACE - JARUS plenary session discusses SORA 3.0 and regulation harmonisation
https://www.unmannedairspace.info/uncategorized/jarus-plenary-session-discusses-sora-3-0-and-regulation-harmonisation/
また、SORA 3.0の検討対象はエアリスクだけではない。複数の無人航空機を1人の遠隔操縦者が運航するケースなど、新しい運航形態への対応や、適合性を示すための標準類の更新なども検討されている。SORA 3.0は単にエアリスクの評価式を変更する改訂ではなく、現在のドローン運航や技術の進展に合わせて、リスク評価の仕組み全体を更新する作業といえる。
東京会合では複数のタスクフォースが並行して議論
2026年5月に東京で開催されたWG-SRM会合でも、SORA 3.0の策定に向けて複数のタスクフォースが並行して作業を進めていた。会場ではエアリスクに加え、各国航空当局向けのガイダンス、SORAを支援する外部サービス、特殊な運航形態やMain Body、適合手段(Means of Compliance)、安全水準(Level of Safety)など、それぞれのテーマについて議論が行われた。
筆者が参加しているのは、気象、通信、航法など、SORAによる運航を支える外部サービスの要件を検討するタスクフォースだ。高度なドローン運航では、機体と操縦者だけで安全を成立させるとは限らない。通信サービスや気象情報、航法情報など、外部から提供されるサービスが運航の安全性を支えるケースが増えており、こうした第三者サービスがどの程度の性能や信頼性を備え、どのように安全へ貢献するのかを整理する必要がある。
このほか、各国規制当局によるSORA導入を支援する「Guidance to Aviation Authorities」の策定も進められている。これはSORAを単に運航者向けのリスク評価手順として示すだけでなく、航空当局がSORAをどのように制度へ組み込み、審査に利用するかという背景や考え方を整理するものだ。こうした議論まで含めて見ると、SORA 3.0は「エアリスクのアップデート」にとどまらず、ドローンの複雑な運航をリスクベースで審査するための制度パッケージ全体を再整理する取り組みと捉えた方が実態に近い。
各国でSORA 2.5の導入が進む
SORAはJARUSが作成するガイドラインであり、それ自体が各国を拘束する国際規則ではない。それでも現在、各国・地域の航空当局が、自国の制度にSORAを取り入れる動きが広がっている。
英国民間航空局(UK CAA)は2025年4月23日から「UK SORA」の運用を開始した。JARUS SORA 2.5をベースに英国の制度へ適合させたもので、Specificカテゴリーの運航承認を申請する際のリスク評価方法として従来のOSC(Operating Safety Case)に代わって使用されている。オーストラリア民間航空安全局(CASA)もJARUS SORA 2.5を国内制度に合わせた「AusSORA」を策定し、2026年5月からBVLOS(目視外飛行)をはじめとする複雑なドローン運航の申請に利用している。EUでは前述の通りEASAがSORA 2.5をAMCとして採用している。
こうした共通の方法論が各国に広がることは、運航者やメーカーにとっても意味がある。国ごとに制度そのものは異なるため、ある国で取得した運航承認や安全性の証明を、そのまま別の国で使用できるわけではない。しかし、安全性を評価する考え方や提出するエビデンスの構造が共通化されれば、海外で新たな運航承認を取得する際にも、既に構築した安全評価や技術資料を活用しやすくなる。その意味でSORAは、世界各国の航空当局とドローン事業者が複雑な運航の安全性を議論する際の「共通言語」になりつつある。
日本では、福島ロボットテストフィールドがJARUS SORA 2.0をベースに「無人航空機の運航リスク評価ガイドライン」を策定し、カテゴリーIII飛行の制度設計にもその考え方が取り入れられてきた。SORAが2.5、そして3.0へと更新されるなか、日本のリスク評価手法を今後どのように更新し、国際的な枠組みと整合させていくのかも重要な論点となる。
SORA 3.0では、エアリスクをはじめ、複数機運航や外部サービス、各国当局による制度への実装方法など、今後のドローン運航に直結する議論が進んでいる。東京で開催されたWG-SRM会合は、日本にとってもこうした国際的な制度形成を身近に捉える機会となった。今後もWG-SRMでの議論を踏まえながら、SORA 3.0の策定状況と、それが日本のドローン制度や事業者にどのような影響を及ぼすのかを追っていきたい。
▼UNMANNED AIRSPACE - EASA publishes SORA 2.5 implementation guidance
https://www.unmannedairspace.info/latest-news-and-information/easa-publishes-sora-2-5-implementation-guidance/
Global Drone News
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中村裕子
一般財団法人総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。
