2025年6月16日から22日にかけて、パリ郊外ル・ブルジェで開催された「国際パリ航空ショー」に参加しました。同イベントの画像や動画を配信しているサイトであるParisAirShow.TVを通じて、新製品の発表が公開されており、多くの記事も既に出ています。本コラムでは、特に現地で感じた“垂直離着陸型の電動航空機(eVTOL)の進展”を紹介したいと思います。
世界が注目する航空技術の祭典!出展者・来場者数と規模感
このイベントは、SIAE(フランス航空宇宙工業会GIFASの子会社)が主催しており、隔年で開催されています。会場となったル・ブルジェ空港は、1919年に開港したパリで最初の空港です。航空ファンを魅了する「ル・ブルジェ航空宇宙博物館」も併設されており、イベント期間外に訪れたことがある方も多いのではないでしょうか。
国際パリ航空ショーは、回を重ねるごとに暑さが増している印象があり、前回の参加経験から、日傘とネッククーラーはスーツケースに最初に入れた必需品でした。空港や最寄りのル・ブルジェ駅からは空調の効かないシャトルバスに乗り、混雑する道路にやきもきする場面もありましたが、ようやく会場に到着すると、その規模と迫力ある展示物に元気を取り戻し、ワクワクが止まりませんでした。
今回のショーには、48カ国から2,400の出展者と136のスタートアップ企業が集結していました。その規模は展示ホール5つのほか、個別企業が設けたシャレー(万博のパビリオンのような施設)や、屋外に展示された155機の航空機など、非常に大きな構成でした。特に滑走路を利用した173回にわたる飛行デモンストレーションも見応えがありました。
このような中、eVTOLを含む電動航空機が非常に大きな存在感を示しており、いよいよ商業化の現実が近づいていると実感しました。
飛行デモで感じた“空の革命“が間近に、eVTOLの存在感と迫力
見応えのあるデモフライトでは、BETA TechnologiesやVoltAero、Pipistrel(テキストロン・システムズ傘下)のほか、Blue Spirit Aero、eHang、Eve Air Mobility(エンブラエル子会社)、Archer Aviation、Joby Aviation、Wisk Aeroといった業界のパイオニア企業が多数出展していました。各社は、型式証明や運用準備に向けた進捗状況を発信しており、業界の議論が実用段階に入ってきていることを示していました。以下では、各メーカーが展示した機体の詳細を紹介します。
電動航空機・eVTOL最新動向――各社の展示と開発状況を詳解
BETA Technologies(米国)
BETAの「CX300 ALIA」は、全電動バッテリー駆動(H500A)の単発機で、ショー期間中は毎日デモフライトを行っていました。ウィングスパンは15.2m、最大6名搭乗可能(パイロット含む)となっており、計器飛行も可能です。
現在、米国連邦航空局(FAA)による認証プロセスのステージ3に進んでおり、2025年後半からニュージーランド航空およびノルウェーのヘリコプターオペレーターであるブリストウグループの下で広範な運用試験を予定しています。同社は、2026年にCX300のFAA型式証明の取得を目指し、その後はBETAが開発するeVTOL型の「Alia 250」の型式証明を2027年に取得することを目指しています。また、デモフライトの様子から非常に静かなのが分かります。
▼ParisAirShow.TV―Flying Display-Day2-June 17, 2025
https://www.parisairshow.tv/video/j6p2phfi19em6rlp?c=inmu1wadfyo74hgw
VoltAero(フランス)
「Cassio 330」は、独自のシリーズハイブリッド推進システムを搭載した航空機で、欧州航空安全機関(EASA)のCS-23認証過程を経る中で新たな外観と構造を初披露しました。ウィングスパンは13.2m、最大6名搭乗可能(パイロット含む)で計器飛行が可能です。
Safran社のENGINeUSスマート電気モーターを搭載したテストベッド機「Cassio S」もデモフライトに登場しました。
▼Safran―Cassio S, the sound of silence
https://www.safran-group.com/videos/31demovolsiaecassiova1691rmbpmp4
さらに、VoltAeroは、ヨーロッパの超軽量飛行機カテゴリー(VLA)や自家製飛行機の市場に向け、「HPU 210」というハイブリッドパワーユニットを提供していくことを発表しました。このユニットは、最大出力150kWのH2SXサーマルエンジンと60kWの電気モーターを組み合わせたもので、カワサキモータースジャパンの製品ラインナップであるスポーツバイク「Ninja H2 SX」の技術をベースにしています。
Pipistrel(スロベニア)
電動航空機として高い認知度を誇るPipistrelの「Velis Electro」も、会期中は毎日デモフライトが行われました。ウィングスパンは10.71mで、2人乗り(パイロット含む)の機体です。2020年にEASAから型式証明を取得しています。
Pipistrelの展示で最も注目を集めたのは、1月に初の飛行試験を行った貨物輸送用の大型ハイブリッドeVTOL無人航空機「Nuuva V300」の展示でした。この機体は、垂直離着陸用に8基のバッテリー駆動Pipistrel E-811電気エンジン(Velis Electroと同様)を使用し、水平飛行には内燃機関によるプッシャープロペラを採用しています。前方から貨物を積載する設計で、ペイロードは272〜408kgとなっています。
Blue Spirit Aero(フランス)
「分散推進」の好例として注目を集めたのが、Blue Spirit Aeroの「Dragonfly」です。Dragonflyには、4人乗りの4Sと6人乗りの6Sの2つのモデルがあり、4Sには10基、6Sには12基の電気モーターが搭載され、それぞれがBallard社製の水素燃料電池で駆動します。パリ航空ショーに先立ち、ル・マン空港にてタキシングと水素給油のデモンストレーションを行っていました。
eHang(中国)
日本国内では、AirXが販売を手掛ける中国eHangの「EH216-S」も展示されていました。この機体は、3月に岡山県倉敷市の「くらしき空飛ぶクルマ展示場」でも展示されており、エアモビリティの実装が実現しつつあることを実感させられました。
同機は、中国国内の証明である中国民用航空局(CAAC)の型式証明、生産証明、標準耐空証明を取得しています。また、eHangは会期中、UTM業界で著名なANRA Technologiesとの間で覚書(MoU)を締結しました。
「パリ航空ショー2025」での主なeVTOL企業の発表内容
| 企業名 | 主なニュース |
|---|---|
| Eve Air Mobility(ブラジル) | RevoとのeVTOL50機契約(約2億5,000万ドル)、Vector ATMソリューション発表 |
| Archer Aviation(米国) | インドネシアのIKNと最大50機のMidnight機体に関する契約(2億5,000万ドル) |
| Wisk Aero(米国) | 日本の石川県加賀市およびJALエンジニアリングとの三者間覚書(MoU)締結 |
| Ascendance(フランス) | Léman AviationとハイブリッドeVTOL「ATEA」の販売代理店契約を締結 |
また、電動航空機を支えるバッテリーやモーターなどのコンポーネント展示も活発に行われており、産業としての成熟を裏付けるものでした。
エアモビリティ市場は2045年にどうなるのか?
例年、パリ航空ショーではBoeingやAirbusといった航空機メーカーが、この先20年の市場予測を発表しますが、今年はエアモビリティの開発メーカーであるEve Air Mobilityも「Global Market Outlook 2025」を発表。
▼Eve Air Mobility―Global Market Outlook 2025
https://www.eveairmobility.com/storage/2025/06/Eve_MarketOutlook_2025.pdf
同レポートは、国連の「World Urbanization Prospects」に記載された1,800都市、1,000空港、27,000機超の民間ヘリの運用データに基づいて市場予測を算出しています。
同レポートによると、先進航空モビリティ(AAM)産業が2045年までに2,800億ドル規模の収益を生み出し、3万機の電動エアタクシーが都市内移動や空港シャトルで運用されると予測されており、アジア太平洋地域での成長が特に期待されています。
一方で、次のような課題も指摘されています。
- 高い安全性:大規模運用には欠かせない要件
- 包括的な規制整備:安全なエコシステムの構築に不可欠
- 航空交通管理(ATM):空域統合と無人機運用への対応
- エコシステム構築:既存インフラの活用による短期運用対応
- バッテリー技術:広範なアプリケーションに対応するエネルギー密度の向上
パリ航空ショー2025が示した次世代航空の現在地と未来
2025年6月17日には、米国FAA、英国CAA、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国の航空当局によるeVTOL認証合意が発表されました。この合意は4月に締結されたもので、先進航空モビリティ航空機の型式証明における国際協力を約束するものです。
合意では以下6つの原則が示されています。
- 安全性と革新の両立
- 型式証明の調和
- 関係機関の連携強化
- 協調的な検証プロセス
- 段階的アプローチ
- AAMに対応した二国間協定の推進
この締結とともに、先進航空モビリティ航空機の型式証明に関する協力を約束するロードマップが発表されました。このロードマップでは、AAM認証要件の約60%が既に明確化されており、残りの40%に対して新たな認証基準が設けられると予測されています。
▼ROADMAP FOR ADVANCED AIR MOBILITY AIRCRAFT TYPE CERTIFICATION
https://www.faa.gov/air-taxis/NAA-Network-Roadmap-Advanced-AirMobility-Aircraft-Type-Certification-Edition-April2025.pdf
今回のパリ航空ショーでは、eVTOLを含む電動航空機の実用化が着実に進んでいることを強く実感しました。連日行われた飛行展示に加え、各企業による受注・連携・技術進展、そして国際的な規制調和の動きが、それを裏付けています。
次回の航空ショーでは、いよいよ本格的なeVTOLの飛行展示が複数見られることを期待しています。
Global Drone News
Vol.11 NUSTLの「Blue UAS」レポートを読む!米国の災害対応におけるドローンの可能性
Vol.10 米国・欧州で2025年に待ち受けるドローン環境整備の変化
Vol.9 次世代エアモビリティと空飛ぶクルマの実現に向けた航空交通管理の新しい視点と課題
Vol.8 次世代エアモビリティ(AAM)社会実装に向けた世界の都市の取り組み ①
Vol.7 米国、連邦航空局のSafety Continuumからドローンのリスクを考える
Vol.6 米国、連邦航空局(FAA)によるドローンの環境整備を振り返る
Vol.5 欧州の自治体ネットワーク「UIC2」が取り組むUAMの社会実装
Vol.4 ドローン・空飛ぶクルマの運航管理、欧州のSESAR 3 JUが狙うイノベーション「U-space」を解説
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Vol.2 ドローンの運用前に一読しておきたい「運航リスク評価ガイドライン」のポイントとSORAとの関係性
Vol.1 ドローンを取り巻く海外の組織構造から見る環境整備
中村裕子
一般財団法人総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。
