火災が起きている屋外を飛行するドローン

 今回のコラムでは、米国におけるドローンの公共利用、特に防災や災害対応に関する最新の情報を紹介します。米国土安全保障省科学技術局(S&T)の国家都市安全保障技術研究所(NUSTL)が取り組む「Blue UAS」に関する一連の検討レポートを中心に、各自治体でドローンの導入を検討している方や災害時に活用できる技術の開発を考えている方の参考になる内容をまとめました。

 Blue UASとは、商業用に発展するドローン技術を迅速かつ適切に米国国防省(DoD)で利用するためのフレームワークであり、一定の基準を満たしたドローンのリストが公開されています。DoDやそのほかの政府機関が購入するドローンは必ずしもBlue UASに登録されている必要はありませんが、基準を満たすことで調達の承認を得やすくなります。

 一方、NUSTLは2004年から消防士や救急救命士、警察官、レスキュー隊員など、急病や事故の発生時に最初に措置対応を行うファーストレスポンダーの調達決定を支援する「SAVERプログラム」を実施し、評価基準の設定や技術的考察、市場調査を行っています。本コラムでは、このプログラムから発行されたレポートを基に、“ファーストレスポンダーのためのドローン活用”に関する最新の動向を紹介します。

 米国のファーストレスポンダーにとって、ドローンは業務の効率性、安全性、信頼性を向上させるツールとして期待されています。2020年時点で、米国の消防機関や法執行機関の約1,600団体がすでにドローンを導入・運用しており、特にライブストリーミング機能、障害物回避技術、ミッションプランニング機能、物体追跡機能、交換可能なペイロードの搭載が注目されています。

【ファーストレスポンダー向けのドローンに求められる機能】

  • リアルタイムのライブストリーミング機能:指令センターとの即時情報共有が可能。
  • 障害物回避機能:各種センサーによって建物や樹木が多い環境でも安全な飛行が可能。
  • ミッションプランニング:事前計画に沿った自動飛行。飛行中の運用負担を最小限に抑えてファーストレスポンダーとしての用務に集中できる。
  • 物体追跡機能:逃走中の人物や行方不明者の発見をサポート。
  • 交換可能なペイロード:スピーカー、サーマルカメラ、ガスセンサーなど、ミッションに応じたカスタマイズが可能。


 2023年8月に発行されたNUSTLのTech Noteでは、これら上記の機能に加え、サイバーセキュリティ対策の重要性が指摘されており、Blue UASフレームワークで採用されているサイバーセキュリティ監査技術の活用が示唆されています。

▼NUSTL-TechNote
https://www.dhs.gov/sites/default/files/2023-08/23_0825_st_blueuasforfirstresponderstn.pdf

 また、全米防火協会(NFPA)による2019年の会報「NFPA 2400」では、ファーストレスポンダーのドローン活用のユースケースが特定されています。NUSTLが2025年2月に発行した市場調査レポートでは、消火活動、捜索救難、危険物対応、緊急医療サービス、法執行機関の各分野での具体的な使用例がまとめられています。例えば、捜索救難では、ドローンをビジュアルビーコンとして活用し、行方不明者を救助隊に誘導するほか、アクセスルートの確認や捜索エリアの3D画像作成、構造の健全性評価、物資配送、被害者の位置特定・監視といった用途が挙げられています。

ファーストレスポンダーのドローン活用における具体的な使用例
(出典:NUSTL)
ビジュアルビーコン行方不明者を救助隊や救助隊員に誘導して被害者の居場所を特定するための高架標識として
アクセスルートの確認地上の捜索救助チームのための、被害者への潜在的なアクセスルートの偵察
捜索エリアの3D画像LiDARや写真測量機能を備えたドローンによる、捜索エリアや事件現場の詳細なモデルの作成、計画やリソースの割り当て
構造の健全性の評価視覚カメラ、LiDAR、写真測量機能を備えたドローンによる、損傷した構造物や倒壊した建物の検査、その安定性の評価
供給品の配送救急キットや通信機器などの重要な物資の被災者や救助隊への輸送
被害者の位置地上の救助隊がアクセスしにくい地域での被害者の位置を特定、確認
行方不明者捜索カメラを搭載したドローンでの行方不明者の捜索
被害者の状態の監視被害者の状態に関するリアルタイムのフィードバックを提供し、救助隊員が被害者に自力救助を指示

 さらに、2023年7月から2024年7月にかけて、Blue UASリストに掲載された市販の17製品について技術仕様がまとめられています。なお、このデータベースはメーカーやベンダーのウェブサイトをはじめとるするネット情報を集約したものであり、独自の検証を紹介するものではありません。

▼NUSTL-Blue Unmanned Aircraft Systems for First Responders/2025年2月
https://www.dhs.gov/sites/default/files/2025-02/25_0210_st_nustl_saver_blue_uas_market_survey.pdf

製品ごとに情報をまとめた一覧
製品ごとに情報をまとめた例。(出典:NUSTL)

 2023年11月には、NUSTLが消防関係者や法執行機関関係者を集め、ファーストレスポンダーにとって重要な評価項目を特定するワークショップが実施されました。各参加者はUAS操縦の経験が2年以上ある専門家であり、最終的に18の評価基準が特定されました。その中でも、カメラ性能、飛行時間、C2リンクの信頼性、レイテンシー、自動飛行モードなどが最も重要な評価項目とされ、これらの基準を基にドローンの評価が進められています。

【特定された評価基準の項目】 ※太字は最重要基準

能力展開性使い勝手整備性
カメラの性能再展開までの時間(バッテリーを変えてまた使用するまでの時間)簡単整備性(自前でも特別なツールなしに整備ができるか)
飛行時間展開性(ケースから出して使用までの容易性)GCSインターフェース
C2リンクの信頼性ポータビリティGSCの読みやすさ
レイテンシーカスタマイズされた安全機能
自動のマッピング暗闇の中での使いやすさ
自動飛行モード飛んでる最中の音や光の少なさ

▼NUSTL-Blue Unmanned Aircraft Systems for First Responders/2024年2月
https://www.dhs.gov/sites/default/files/2024-03/24_03_1_st_blueuasfocusgroupreport.pdf

 さらに、NUSTLは2024年6月に農村部、2024年11月には都市部で、それぞれBlue UAS機体の評価実験を実施しました。都市部では、マイアミ市消防局および警察の協力を得て5機のドローンが評価され、高層建築物や人口密度が高いうえに無線周波数ノイズがあるといった厳しい環境下での運用テストが行われました。テストは昼夜問わず、さまざまなシナリオや環境下で数多くのフライトを実施しています。その結果、異なる照明条件下でのカメラ性能やC2リンクの信頼性など、製品によって顕著な違いがあることが明らかになりました。

【一部機種による評価結果の例】

一部機種による評価結果例の一覧
(出典:NUSTL)

▼NUSTL-Blue UAS for First Responders in Urban Environments/2025年2月
https://www.dhs.gov/sites/default/files/2025-03/25_0304_st_blueuasurbanql.pdf

 一連のレポートを踏まえ、特にファーストレスポンダーを中心とした公共のドローン活用における課題として、バッテリー性能の制限、都市環境での電波干渉、障害物回避の必要性、サイバーセキュリティ対策の維持、オペレーターのトレーニング、コストと予算の制約、規制とプライバシー問題が挙げられます。

  • バッテリー性能の制限:長時間のミッションや悪天候下では、運用時間が制限されてしまうこと。
  • 電波干渉:特に都市環境では、高レベルの無線周波ノイズにより、ドローンと地上管制局(GCS)間の信号に干渉が生じる可能性がある。
  • 障害物回避の必要性:特に都市環境では、建物や送電線、その他の構造物などの障害物が多数存在。高度な障害物回避システムと、信頼性と有効性を確保することは、安全な運用にとって極めて重要。
  • サイバーセキュリティ:UASのサイバーセキュリティを確保することは、不正アクセスやデータ漏洩を防止するために極めて重要。Blue UASプログラムではサイバーセキュリティを重視しているが、これらのセキュリティ対策の維持と更新は、現在も継続中の課題。
  • トレーニングと習熟:オペレーターが技術に習熟し、さまざまなシナリオに対応できることは、ドローンの導入を成功させる上で不可欠で、専門トレーニングが必要と考えられる。
  • コストと予算の制約:ドローンの取得、維持、運用には多額の費用がかかり、公共安全機関の予算の制約により、ドローン技術の普及と統合が制限される可能性がある。
  • 規制とプライバシーに関する懸念:航空法をはじめとする、公共の場におけるUASの使用に関する最新の法令を把握し、プライバシーに関する懸念に対処する。


 これらの課題を克服するためには、最新の技術動向を理解し、適切な研究開発投資を継続することが求められます。

 例えば、2024年1月の能登半島地震、3月の大分県で発生した大雨による地すべり、9月の米国テネシー州東部でのハリケーン・ヘレネでは、ドローンが被害状況の把握、救急物資の輸送、捜索・救助に活用されました。このような事例を踏まえ、災害現場でのドローンの活用を広げるためには、NUSTLのような評価機関が基準を定め、技術レベルを明確にすることが重要です。

中村裕子

一般財団法人総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。