KDDI、KDDIスマートドローン、日本航空、東日本旅客鉄道、ウェザーニューズ、メディセオは、2023年12月14日~20日に東京都西多摩郡檜原村で、3事例目となるレベル4飛行の実証を行った。本飛行は、医薬品をドローンのレベル4飛行で輸送する実証としては、国内初の取り組みだという(同社調べ)。本稿では、最終日となる12月20日に行われた報道公開の様子をレポートする。
ドローンによる医薬品輸送では、国内初のレベル4飛行
KDDI、KDDIスマートドローン、日本航空は、2023年12月20日に東京都西多摩郡檜原村で、レベル4飛行でのドローンによる医薬品輸送実証の報道公開を行った。本飛行は、医薬品をドローンのレベル4飛行で輸送する実証としては、国内初の取り組み。ACSL社製の「PF2-CAT3」が使用され、実際のワークフローの検証や、従来の「レベル3」からの進化が試されたという点でも画期的な取り組みとなった。
飛行ルートは、「檜原診療所」から特別養護老人ホーム「桧原サナホーム」までの往復4.8kmで、民家上空や道路横断を含む。ドローンは対地高度70mで飛行し、第3類医薬品を医薬品配送ガイドラインに則って輸送して、特養施設屋上に荷物を下ろしたあとは自動で診療所へと戻った。なお、報道公開当日以外の日程は、平日午後1時に定時輸送を行ったという。
使用機体
使用機体の「PF2-CAT3」は、第一種機体認証・第一種型式認証を取得した、実証実施当時に国内唯一だった機体で、日本郵便が実施した東京都奥多摩町での実証、ANAホールディングスが沖縄県久米島での実証で使用したものと同じ機種だ。
機体上部には万が一の墜落に備えたパラシュートが搭載されている。また、GNSSアンテナを左右に2つ搭載、カメラも前方向きと下方向きに2つ装備されている。
運航体制
本飛行の運航体制は、特養施設に隣接する「小沢コミュニティセンター」に、オペレーションルームを設置して遠隔運航を実施したほか、離陸地点の診療所に医薬品管理者1名と機体の点検担当者1名を配置した。
オペレーションルームには、安全管理責任者1名、運航統括責任者1名、運航指揮者1名、操縦者1名の合計4名のクルーメンバーが常駐し、遠隔運航を行った。
安全管理責任者は、安全の最終責任者として、問題発生時には指揮・命令を行い、対処する役割。運航統括責任者は、クルーメンバーが事前に行った点検内容の確認、承認などを担う。運航指揮者は、フライトクルー全体の指揮官として、飛行ルートの設計や操縦者への指揮を担う。操縦者は、操縦マニュアルに則ってGCSを用いて飛行し、安全対策を実施する。本実証での飛行ルートは1つだが、将来的には複数ルートの運航管理も見据えた体制だという。
レベル4飛行の「3つの効果」と利点
本実証では、レベル4飛行にどのような利点があるのか、レベル3飛行と比較して分かりやすく解説された。大きくは3つの効果と利点が浮かび上がる。
1つ目は、「飛行距離の削減」だ。レベル4飛行では4.8kmであるのに対し、レベル3では約6.9km。約30%の飛行距離の削減が実現した。
2つ目は、「飛行時間の短縮」だ。レベル4飛行では約13分であるのに対し、レベル3では約17分。約24%の飛行時間の短縮を達成できた。
3つ目は、「運航スケジュールの安定」だ。レベル4飛行では、道路横断時に一時停止しなければならないといった、運航スケジュールの不確定要素を減少でき、「定時運航」が容易になる。事業推進において、運航見通しの確度が上がる利点は大きい。
このように、最短経路を確保できるメリットが、レベル3との比較に基づいて数値により示されたことは画期的だ。より迅速な医薬品輸送が可能となることが見て取れる。またこれに付随し、バッテリー交換が不要になることも利点のひとつ。地上の補助員のみならず、着陸地点に運航チームの人員を配置する必要がなくなれば、遠隔運航管理の実現により一歩近づく。
実施体制と今後の展望
KDDI、KDDIスマートドローン、日本航空、東日本旅客鉄道、ウェザーニューズ、メディセオの6社は、これまでもドローンによる医薬品配送の実証を共同で実施しており、今回も同様の座組で取り組んだという。また、KDDIは独自につくば市でも、ドローンによる検体や医薬品の輸送、人流データを活用した地上リスク評価などに取り組んでおり、「ドローンによる医薬品配送」への積極姿勢を示している。
特に、2022年度に東京都あきる野市で「ドローンによる医療物資輸送の長期運用実証」を実施した頃からは、医療業界の文化や風土なども踏まえながら、医薬品配送の必要性について、6社での議論を加速したようだ。その中で見えてきたのは、都市部における医薬品輸送における課題だ。
具体的には、病院側にさまざまな医薬品を在庫として保持するために生じる、未利用時の廃棄コストの問題や、2024年問題をはじめとする物流課題の顕在化だ。ドローンによる医薬品配送を導入することで、配送をオンデマンド化できれば、病院側で希少で高額な医薬品を在庫として管理する必要がなくなり、廃棄コストも削減できる。また、ドローンによって省人化を図ることで、逼迫する物流課題解決の一助になるという。
今後の取り組みについて、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野氏は、2つの方向性を示した。1つは、本実証を行ったような中山間地域などの少子高齢化が進むエリアにおける、複数ルートの構築だ。「1つの拠点から複数ルートが構築されていれば、災害時に本当に道が寸断されたような状況でも、機体1つでさまざま活用できる可能性がある」(博野氏)。
もう1つは、都心部におけるドローンによる医薬品配送の社会実装だ。これについては、機体や制度との兼ね合いという部分も大きいが、2023年度内にサプライチェーン全体での検証を目的として、ドローンポートを用いた検証も実施予定だという。「将来的には、2024年度に都心部でのレベル4飛行を見据えた長期的なドローンのサービス実証を行ったうえで、2025年度以降の都市部でのサービス実装を目指したい」(博野氏)。
また、2023年11月28日にKDDI、KDDIスマートドローンと資本提携契約を締結した日本航空のエアモビリティ創造部 村越部長は、「中山間地域や離島といったさまざまな地域でドローンを飛行するにあたり、抱える課題やニーズは異なる」と言及したうえで、地域にあったオペレーションの知見を蓄積していることを明かした。KDDIスマートドローンとの今後の連携についても、「運航管理、安全管理、整備管理など、さまざまな専門家が航空会社にはいる。当社から人材を出向派遣する、専門知識を有する人材との連携を強化することで、より早く機動的にドローンサービス構築に向けた取り組みサイクルを回していきたい」(村越氏)と意欲を示した。