KDDIとKDDIスマードローンは2023年11月20日~12月4日、茨城県つくば市においてドローンによる検体輸送の実証実験を実施し、最終日にその一部の飛行を報道公開した。当日は、国産の物流専用ドローン「AirTruck」(ACSL製)と、KDDIスマートドローンが提供する遠隔運航管理システムを用いて、つくば市内にあるクリニックで採取した本物の検体を、検査機関「つくばi-Laboratory」へ、「レベル2」飛行で輸送した。

2023年度の取り組みの概要

 つくば市は、「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に指定されている地方自治体で、自ら掲げる「つくばスーパーサイエンスシティ構想」の実現に向け、「新しいモビリティを活用した移動・物流サービスの提供」や、「先駆的な3Dデジタル基盤の構築と関連サービスの提供」など、さまざまな事業を推進している。

 本実証は、その茨城県つくば市の協力のもと、KDDIが内閣府から受託した「先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」の一環として実施された。2022年度からの継続的な取り組みだという。

 2022年度は、「ドローンによる検体輸送」「自動配送ロボットとドローンを組み合わせたフードデリバリー」「(左記)複数機体の同時運航」「XRによる空の道の可視化」という複数のテーマで、実証実験を実施。2023年度は、前年度に有効性を検証できた「検体輸送」に焦点を当てて、社会実装を目指す前提でさまざまな項目について実証を行った。

 実証項目のなかで特徴的なのは、大きくは2つだ。1つは、市内にあるクリニックが参加することで、ワークフローの検証を行ったこと。もう1つは、KDDIが保有するスマートフォン位置情報を解析した「人流データ」を用いて、地上リスク評価を行ったうえで飛行ルートを選択したことだ。

 将来的に、つくば市街地という人口密集エリアでドローン輸送をサービス化するには、レベル4飛行への対応が必要となる。KDDIスマートドローンは、本取り組みを通じ「運用面からのレベル4飛行推進」を目指したという。

「ドローンによる検体輸送」の社会実装を目指して

 当日は、検査機関「つくばi-Laboratory」からドローンが出発し、採取した検体がある「東西医学統合医療センター」まで自動飛行して着陸し、検体を回収して再び離陸して、検体を検査機関まで自動飛行で輸送するという、一連のワークフローが報道公開された。

 また、実証期間中には、同飛行ルート上にある「つくば消化器・内視鏡クリニック」にも立ち寄り、複数のクリニックを経由して一度に検体を輸送するというワークフローの検証も行ったという。

プレスリリースより引用

 つくば市街地には多数のクリニックがあるが、「検体輸送および検査結果取得の即時性向上」は共通の課題だ。街中のクリニックでは、基本的に検体回収は1日1回。検査結果はデータで送信されてくるが、検体回収の便が施設内をぐるぐる周る大学病院のような即時性には欠ける。また、定刻通りのルート回収であるため、回収の直後に採取した検体は、翌日までクリニックで預かっているという。加えて、検体がない日も回収担当者が歩いて取りにくることに、現場では非効率や申し訳なさも感じているという。かといって、各クリニックが単体で各種検査機器を取り揃えるのは、コスト的にもスペース的にも難しい。

「市街地上空をドローンが複数機関を経由しながら検体を回収して、できればオンデマンドサービスとして検査機関へ届けることができれば、街中のクリニックの検査品質を大学病院並みに引き上げることができる」。このような着眼のもと、本飛行の実証実験が行われた。

ドローンが検査機関「つくばi-Laboratory」へ戻ってきたところ

 使用した機体は、物流専用ドローン「AirTruck」(ACSL製)。前年とは異なる機体を使用した。前年同様、事前に振動テストを実施して、ドローンの振動が検体の品質に与える影響について問題ないことや、前年よりも振動が軽減されていることを確認したという。

使用した機体は物流専用ドローン「AirTruck」(ACSL製)

 また、万が一の際、検体が外部に飛散するなどのリスクに備えて、検体はバリアボックスに収納した。内部は吸収剤や密閉袋を用いた三重梱包で、さらに地上の補助員が消毒液を常備しておくなど、医療関係者にも「振動による品質劣化や飛散のリスクが十分考えられている」と好評価だったようだ。

 実証期間中は、実際にクリニックで採血してもらうところから開始するなどワークフローの具体的な検証や、温度管理ができてドローン専用箱にも積み込める収納ケースの検討など、早期の社会実装を目指し医療機関と連携して取り組んだという。

バリアボックスの説明
検体を吸収剤から出したところ

人流データの活用による「地上リスク評価」

 飛行距離は片道約1.1kmで、前年の実証時の約5倍。なおかつ、人口密集エリアにおける道路の横断も含む、地上リスクの高い飛行となった。

 大学病院の敷地内にある森の上空を主な飛行ルートとしたが、第三者の立ち入りを確実に防ぎ、道路の横断時にも無人地帯を確保する必要があるため、地上には約10名の補助者を配置して、随時リモートパイロットが操作介入してドローンを一時停止させながら、「レベル2」で飛行した。

離陸の様子。右手のリモートパイロットが全ての飛行指示や操作介入を行った
リモートパイロットが操作介入しながら、ドローンを帰還させるところ

 ドローンが市街地で往復する一連のフローでは、飛行ルート周辺の往来の多さや、人や車の立ち入りが懸念されるたびにドローンが上空で一時停止するため、地上リスクが余計に高まることや、運航の非効率性が際立って見えた。「どういう状況なら機体をどちら向きにして一時停止するのが最も安全なのか」など、運用面のより細かなルールの徹底が必要なのではないだろうか。

 しかしだからこそ、本実証で取り組まれたような「人流データの活用による地上リスク評価」は非常に示唆に富む。今回は、KDDIが保有するauスマートフォンのGPSの位置情報やユーザー属性をもとに開発・提供されている「KDDI Location Analyzer」という地図情報システム(GIS)を用いて、飛行ルート該当エリアの人口密度や時間別傾向を、定量データとして可視化したうえで、最も地上リスクの少ないルートを選択し、「レベル2」飛行を実施したという。

 KDDI Location Analyzerを用いることで、現行制度よりも細かい「メッシュ分解能125m四方」で人口密度を可視化できた。高人口密度エリアについては詳細分析を行い、飛行ルート該当エリアにどれだけ人がいるのか推計できた。また、ほぼリアルタイムで数値を捉えることも可能になった。今後、レベル4の飛行ルート設定において、現地調査を行う前に遠隔地からでもルートを検討できるなど、さまざまなメリットが考えられるという。

KDDI Location Analyzerを活用した本実証でのルート設計方法

「運用面からレベル4の拡大を目指す」

 今回の取り組みについて、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏は、このように話す。

「昨年12月にレベル4が制度化され、最近レベル3.5も発表されたが、レベル4については限られた機体で非常に限られたエリアでしか飛ばせないという状況になっている。これについては、ドローンメーカー様の品質向上の取り組みを含めて進めていくことではあるが、運用面からレベル4適用エリアの拡大を進めていく取り組みもあっていいのではないか。人流データを活用した地上リスクの評価は、まさにその取り組みの一環として考えてきた。機体と運用、両面からドローンの社会実装を進めていくためにも、まずは今回の取り組みをサービス化し、国土交通省の方々とも話し合いながら、制度化に向けて取り組みを進めていきたい」(博野氏)

 記者発表会には、オンラインで筑波大学システム情報系・教授の鈴木健嗣氏と、リアルで筑波大学附属病院感染症科 診療科長・教授の鈴木広道氏が出席した。

 鈴木健嗣氏は、先端的サービスを実現するためのデータ連携基盤の必要性について説明した。スーパーシティの枠組みにあるデータ連携基盤と、ドローンも含めた様々なモビリティが連携することで、よりシームレスな活用が可能になると指摘した。

 鈴木広道氏は、本実証に取り組む意義について説明した。「ターンアラウンドタイムの迅速化」「輸送に要する人的リソース課題の解消」「空路輸送活用による効率性・緊急性対応」という3つのポイントを挙げて、続けて「ドローン輸送の課題」についてもこのように整理し、本取り組みの意義を示した。

「現状のレベル4は山間地域の低人口エリアに限られている。つくば市の都市部でレベル4を実現するためには、地上のリスク低減を図って、市民が安心できる環境でドローン運航をしなければいけない。また、医療機関のワークフローに沿った仕組みを構築していく必要もあるだろう」(鈴木氏)

 協力したクリニックからは、「回収の間隔が、例えば15分に1回くらいに短縮されて、待ち時間が現状の4分の1くらいになることを期待している。もし異常値が出た場合でも、素早く対応できるようになる」と激励の声も上がった。

 今後も、KDDIスマートドローンは、自治体がプロジェクトオーナーとして取り組む案件に運航管理事業者として協力するケースや、自らサービスオーナーになるケースなどさまざまなパターンに対応しながら、「ドローンによる医療品や医薬品の配送」の社会実装を目指す。