3月24日、日本郵便は東京都奥多摩町において、第三者上空(有人地帯)を含む飛行経路での補助者なし目視外飛行(レベル4)による荷物配送の試行を実施した。本試行は2022年12月5日の、航空法上のドローンに関する新しいルールの施行に伴い、有人地帯(第三者上空)での目視外飛行が解禁されたことを受けた取り組みである。これは、2017年に小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会が示した「空の産業革命に向けたロードマップ」において、「有人地帯での目視外飛行(第三者上空)」の実現を、“2020年頃~”と示して以来、官民挙げて取り組んできた制度整備、技術開発の成果のひとつだといえる。

2017年から続く日本郵便のドローン配送の取り組み

 この日の試行は前日の3月23日に予定されていたが、終日雨模様となり、翌日に延期されたものだ。飛行は奥多摩町中心部の国道411号線沿いにある日本郵便奥多摩郵便局の屋上を離陸し、山の斜面に沿って北北西に約2kmあまりのルートを飛行して、標高約480mの集落に着陸。荷物の入ったカーゴボックスを切り離し、再度離陸して同じ経路を戻ってくる、飛行距離約4.5km、総飛行時間約9分のルートであった。

 奥多摩郵便局は標高約340mにあり、今回の配送先である集落とは標高差が約150mある。途中の都道は日原川に沿って蛇行しており、車がすれ違えないほど狭い箇所もあるほか、都道から集落に上る脇道は、標高差約80mを450mの道のりで上る平均勾配17%の急な坂道で、冬季には路面が凍結したり積雪したりすることで、郵便配達のバイクが登れず、徒歩で配達をするといったこともあるという。

 この奥多摩町に限らず、こうした全国の中山間地の隅々まで郵便物を届けるユニバーサルサービスが義務付けられている日本郵便では、少子高齢化に伴う労働力不足といった社会環境の中で、顧客サービスの向上とともに配送オペレーションの効率化を目指して、2017年頃からドローンや自動配送ロボットを使った“配送高度化”の取り組みを行っている。

 2017年2月には福島県の福島ロボットテストフィールド予定地で、また同年11月には長野県伊那市でそれぞれドローンを使った配送実証を行っている。2018年11月には航空法上、無人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル3)によるドローンの飛行が認められたことを受けて、日本初となるレベル3による郵便局間の配送試行を福島県南相馬市と浪江町間で実施。さらに2020年3月にはレベル3による個宅配送試行、同年11月から翌21年2月にかけてはレベル3による複数戸に対する配送試行と、それぞれ日本初となる取り組みを実施している。

 また、日本郵便ではドローンと並行して自動配送ロボットによる配送にも取り組んでいる。2017年から私有地内での配送実証を始め、2020年には公道での実証を開始。同時に屋内での配送試行にも取り組んでいる。そして2022年1月にはこの自動配送ロボットとドローンを組み合わせた日本初の個宅への配送実証を実施するなど、常に制度や技術を先取りした取り組みを行ってきた。

日本郵便では2017年からドローンと自動配送ロボットを使った、配送高度化に取り組んでいる。

離陸のたびに規定に基づいた厳格な点検を実施するレベル4

 昨年12月5日に施行された、航空法上のドローンに関する新しいルールによって、レベル4は航空法関連法規の中でカテゴリーⅢの飛行として位置づけられ、第一種機体認証を受けたドローンと一等無人航空機操縦士の技能証明を取得した操縦者、そして航空法上の許可・承認が必要となる。そのため、今回の配送試行ではACSLが新たに開発したカテゴリーⅢ飛行に対応する「PF2-CAT3」を使用している。

 同機はACSLのPF2-AEをベースにGNSSアンテナを2個搭載して冗長化したほか、万が一、墜落するような事態になった場合に備えてパラシュートを装備している。パラシュートは日本化薬が開発したドローン緊急用パラシュート「PARASAFE」を採用しており、飛行前に機体下部のピンを抜くことで作動し、機体が異常な姿勢となったことを検知して開傘する。

 GCS(Ground Control Station)は、SOTEN(蒼天)と同時に開発され、PF2-AEでも採用されている「TAKEOFF」を使用。また、PF2シリーズでは双葉電子工業製のプロポ(コントローラー)を使用しているが、PF2-CAT3ではPCに接続したプロポ型のコントローラーと、SOTEN(蒼天)のプロポを使用。飛行前点検の際にはSOTEN(蒼天)のコントローラーで操作を行うといい、配送飛行のオペレーションではGCSを操作する操縦者がプロポ型コントローラーを手にしていた。

日本郵便のコーポレートカラーに仕立てられたACSLのPF2-CAT3。
機体上部には日本化薬の産業ドローン向け緊急パラシュートシステムPARASAFEを装備。
機体下部前面にはパラシュートのシステムを作動させるピンを示す緑色のタグが見える。
左右のローターの上部に取り付けられたGNSSアンテナ。RTKによって精密な位置制御を行うことができるという。

レベル4飛行によって飛行距離や時間を短縮することが可能に

 この日、奥多摩郵便局の屋上には運航拠点としてテントが設置され、複数のPCがテーブルの上に並べられていた。離陸前にはACSLのユニフォームを着た2名のオペレーターが、飛行のたびにチェックリストの項目に沿って、機体の各部を入念に点検。プロペラや機体上部のパネルのネジは、トルクレンチを使って確認する念の入れようだ。

 こうした飛行前、及び飛行後の点検の結果は、12月5日の航空法上のドローンに関する新しいルールが施行されて以降、飛行日誌への記載が義務付けられている。カテゴリーⅢに分類される今回の飛行では、PF2-CAT3の一種型式・機体認証においてより細かな点検項目が定められており、飛行の前後にその項目に従って、メーカーであるACSLの研修を受けた整備担当者が作業を行うことになっているという。

飛行前に入念な点検を行うことがカテゴリーⅢ飛行のルール上定められていて、チェックリストに従ってひとつひとつ点検を行う。

 点検が完了すると日本郵便の職員が荷物を搭載したカーゴボックスを機体の下に装着。こうした準備がすべて完了すると、操縦者がPCのGCSを操作することで、ドローンは自動で離陸。およそ高度20mまで上昇すると、真っ直ぐ奥多摩町市街地上空を横切って、山の斜面に向かって飛行を開始した。

 奥多摩郵便局は国道411号線に面しており、離陸したドローンはすぐにこの国道を超えることになる。従来のレベル3の飛行では、飛行中のドローンが第三者上空飛行とならないように、歩行者や車がいないタイミングで通過する必要がある。そのため補助者が常に道路上の交通を監視し、歩行者や車が飛行ルートの直下となる場合には、ドローンを一時停止させる必要がある。

 また国道を超えて山林の上空に達するまでの約300mの飛行経路下には、生活道路に沿って住宅が立ち並ぶ。このエリアでも道路上の歩行者や車のほか、住宅の庭などに人がいないかどうかを補助者が監視して、こうした第三者がドローンの直下にいるような場合には、ドローンを一時的に停止させなければならなかった。

日本郵便の職員がカーゴボックスを機体に取り付ける。
奥多摩郵便局の屋上を離陸したドローン。
地上の第三者の有無の影響を受けることなく、ドローンは奥多摩町の市街地上空を飛行した。

 この日のレベル4飛行では、こうした補助者を配置せず、また、飛行経路下に第三者の立入管理措置を行うことなくドローンを飛行させることができる。第三者が存在することでドローンを一時停止させるといった必要がないため、バッテリーの消費抑制によって飛行可能時間を伸ばすことと配送先までの飛行時間を短縮できる。

 日本郵便では2020年3月にも同じ奥多摩郵便局屋上と個人宅を往復するドローン配送の試行を実施している。この時にはレベル3飛行であったため、奥多摩郵便局周辺の住宅が並ぶ市街地上空を迂回する形でルートを設定。そのため総飛行距離は5.87km、総飛行時間は15分であった。今回、レベル4による飛行としたことで、前回迂回していた市街地上空の飛行が可能となり、奥多摩郵便局と配送先をほぼ一直線で結ぶルートは、前回に比べて飛行距離で22%、飛行時間で40%それぞれ短縮することが可能となった。

2019年度には総飛行距離5.87km、総飛行時間15分の実証実験を実施。レベル3飛行のため、市街地上空を迂回するルートとした。
今回の実証実験では、スタート地点と配達先は2019年度から変わりないが、総飛行距離約4.5km、飛行時間約9分のルートとなった。

 飛行中のドローンはモバイルネットワークを介してPCのGCSと接続されており、機体の位置や速度、バッテリーの電圧といったテレメトリーの情報のほか、機体前部と脚部に取り付けられたカメラの映像を、操縦者が常に監視しながら飛行する。奥多摩町中心部の北西にある山の斜面に沿って飛行したドローンは、5分足らずで配送先の住宅上空に到達。約7m四方のスペースに着陸し、カーゴボックスを切り離し、再び離陸して、もと来たルートを飛行して奥多摩郵便局に着陸した。

奥多摩町の山の斜面に沿って飛行するドローン。
ドローンは5分ほどで配送先の住宅の庭先に着陸した。
「今後は郵便やゆうパックを配送するだけでなく、ドローンが持って行ってくれるようなサービスがあるといい」と期待を語る配送先の利用者。