2022年12月5日に航空法上のドローンに関する新しいルールが施行されてから半年。機体認証や技能証明といった新しい制度が設けられ、飛行日誌の記載義務付けや事故報告といった運航ルールが設けられるなど、2015年12月10日に航空法の中で無人航空機としてドローンが位置付けられて以来の大改正となった。

 ドローン利用者の中でもとりわけ関心が高いのが無人航空機操縦者技能証明制度だ。広くドローンの“操縦ライセンス”と呼ばれるこの技能証明は、無人航空機の飛行に必要な操縦者の技能について国が証明するもので、対応する飛行レベルに応じて「一等無人航空機操縦士」と「二等無人航空機操縦士」の区分が設けられている。

 人口集中地区(DID)の飛行や目視外、夜間といった特定飛行の一部に関しては、この二等資格に加えて、二種認証を受けた機体、定められた運航ルールを守ることで、国による許可・承認を受けることなく飛行が可能となる。一方、新ルールで新たに認められることとなった有人地帯(第三者上空)の飛行については、操縦者の一等資格が義務付けられている。ここでは、無人航空機操縦者技能証明制度とその試験について、指定試験機関である日本海事協会に聞いた。

提供:日本海事協会

 こうした無人航空機操縦者の資格を取得するには、大きく分けて二つの方法がある。ひとつは国が指定する「指定試験機関」が実施する試験を受ける方法。もうひとつが、「登録講習機関」の講習を受けるという方法だ。この二つの方法はおおむね自動車の運転免許証の制度を参考にしたとされており、一般的に自動車運転免許を取得するのに通う指定自動車教習所が登録講習機関、運転免許取得の場合に“一発試験”と呼ばれる試験を受ける場である運転免許試験場が指定試験機関と考えるとイメージしやすい。

無人航空機自動車
試験・交付操縦ライセンス
①試験:指定試験機関

②交付:国(航空局)
自動車運転免許
①試験:都道府県公安委員会
    (運転免許試験場)
②交付:都道府県公安委員会
講習登録講習機関
※講習修了者は実地試験免除
指定自動車教習所
※教習修了者は実地試験免除

※日本海事協会の資料から作成

 指定試験機関は国の試験事務を担う法人であり、公正・中立性の確保の観点から、全国でひとつの法人が選ばれることとなっていて、昨年12月の新ルール施行にあわせて日本海事協会が指定を受けた。同協会は船を検査してその安全性や環境性能を証明する“船級協会”として、世界中の船舶の検査業務を実施している。

 同協会はこうした第三者認証機関としての役割を生かし、船級検査以外にも品質、環境、労働安全衛生など様々なマネジメントシステム認証などを行っている。日本海事協会が指定試験機関となったのは、公正・中立性の確保の観点から、あえてドローンに関連する法人を避けた結果だといえる。

 日本海事協会では「無人航空機操縦士試験」という、試験の概要や手続き、手数料、試験日程などがわかるポータルサイトを開設。また、試験の申し込みや試験合格証明書の受領といった手続きができるサイト「無人航空機操縦士試験申込システム」サイトも開設しており、同ポータルサイトから入れるようになっている。

無人航空機操縦者の資格を取得するまでの流れ

 無人航空機操縦者技能証明の資格を取得するためには、学科と実地の各試験に加えて、身体検査を受けなければならない。受験の手続きは、まず、ドローン情報基盤システム2.0(DIPS2.0)で技能証明申請者番号を取得することから始まる。その上で「無人航空機操縦士試験申込システム」サイトのアカウントを作成してログイン。同サイトの中で学科試験、実地試験、身体検査、試験合格証明書発行といった手続きを“試験”として行うことになる。指定試験機関で実地試験を受ける場合は、すべてがこの手続きの中で完結する。

 一方、登録講習機関で講習を受けるという方法の場合は、登録講習機関の修了審査に合格すれば指定試験機関の実地試験は免除される。ただし、学科試験と身体検査は、あくまでも指定試験機関の手続きの中で受ける。登録講習機関の修了審査合格証を無人航空機操縦士試験申込システムに登録することで、実地試験の合格と同等の扱いとなる。

 自動車の運転免許でも、指定自動車教習所で学科と実技の教習を受け、修了試験に合格すると、運転免許試験場で学科試験を受けて、視力などの検査を受けて合格すれば、運転免許証が発行される。無人航空機操縦者技能証明でもおおむねこの流れと同じだといえる。

提供:日本海事協会

二等は1問あたり平均30秒で解答することが求められる学科試験

 技能証明の取得で全員が受験することになるのが学科試験だ。出題範囲は国土交通省航空局が示している「無人航空機の飛行の安全に関する教則」に準拠しており、選択肢3つの中から正答を選ぶ。内容はマルチコプター、ヘリコプター、飛行機(固定翼)共通となっていて、一等は二等の内容に加えて、「無人航空機の飛行性能」「飛行性能の基本的な計算」と「カテゴリーⅢにおけるリスク評価」に関する内容がある。

 試験はPCの画面に表示された問題に対して、マウスなどで操作して正答を選んでいくComputer Based Testing(CBT)方式。日本海事協会ではこのCBT運営会社にIT系資格やTOEFLといった語学系資格など、さまざまな資格試験を行っているプロメトリック社の試験を採用している。プロメトリックでは全都道府県にある約160の会場で受験ができるため、「受験者は時間や場所にとらわれず受験することができる」というメリットがあるという。

一等学科試験二等学科試験
試験時間75分30分
問題数70問50問
出題形式三肢択一式三肢択一式
出題範囲国土交通省航空局が発行する
「無人航空機の飛行の安全に関する教則」
に準拠
国土交通省航空局が発行する
「無人航空機の飛行の安全に関する教則」
に準拠
合格基準試験開始当初の合格に最低限必要な
正答率は90%程度(注)
試験開始当初の合格に最低限必要な
正答率は80%程度(注)

(注)試験開始当初の学科試験の合格基準は、試験問題1問ごとの難易度についての専門家による検討に基づいて設定。問題改定後については、この合格基準と等しくなるような値を統計的に推定して設定するため、正答率は同程度になると予想されるものの多少変動する可能性あり。

 試験は一等が75分で70問、二等が30分で50問を解答することとなっており、問題1問を解答するのにかけられる時間は一等で約1分4秒、二等で36秒と、二等は1問を約30秒で解答する必要がある。ただし、一等には計算問題が4~5問程度含まれており、飛行機の揚力・回転翼機の推力や飛行機の旋回半径、フレネルゾーンといった解答を計算で導き出す必要があり、ここに時間がかかることを踏まえると、それ以外の設問の解答時間は短くなることが予想される。

「学科試験の一等と二等の差は、おもに計算問題の有無。さらに一等と二等が対象としているカテゴリーⅢとカテゴリーⅡの違いは運航管理であり、試験としてもここに重点を置いている。第三者上空を飛行するとなると、安全確保措置や電波状況、機体が落下する際の場所など、事前に確認し、それに対して根拠を持って飛行計画を立てなければならない。そのための最低限の知識を確認する」というのが、一等試験に含まれる「カテゴリーⅢにおけるリスク評価」だという。

 学科試験の合格基準は一等が90%程度、二等が80%程度。合格基準が“程度”となっていて、例えば二等が50問の80%だとして40問が正答であれば必ずしも合格するとは限らない。これは、「問題の組み合わせで難易度が変化するため、各設問の難易度を専門家が統計学的に分析して、合格基準を調整している」からだという。

学科試験(一等)の計算問題のサンプル(国土交通省の資料から引用)。

机上・口述試験の配点が大きく、実地試験の合否を左右する

 指定試験機関が実施する実地試験は、学科試験に合格してはじめて受験することができる。2023年5月現在、一等および二等のマルチローターに関する試験が実施されており、日本海事協会が取り扱う実地試験は、全国13会場で、基本、目視外、夜間の試験が実施されている。なお、夜間(昼間飛行の限定変更)、目視外(目視内飛行の限定変更)の各試験は、基本の試験受験前に受験することができない。また、限定変更の試験を基本の試験と同一日に受験することはできるが、もし基本の試験が不合格となった場合は、その後受験した限定変更の試験についても不合格となる。

 実地試験では「机上試験」「口述試験(飛行前点検)」「実技試験」「口述試験(飛行後の点検と記録)」「口述試験(事故・重大インシデントの報告)」を行う。よく実地試験を、飛行技能を求める実技だけのように捉える向きもあるが、前述のとおり飛行技能以外にも、飛行計画や飛行前後の点検と飛行記録の作成、さらには事故報告といった、2022年12月施行の新ルールで改めて定められた「運航ルール」に関する知識と技能を問う試験もある。

 指定試験機関の実地試験を受験する場合、事実上、新ルールに関する知識と技能は独学で身につけることになる。操縦技能に関しては、ドローンの飛行の良否そのものに関わるため、技能向上といったことに利用者の関心が高い一方で、法令といったルールに対するそれは決して高いとは言えない。さらに、ドローンに関する法令は2022年12月5日に大きく変わっており、独学の場合、それを身につける機会は少ない。また、減点方式の実地試験は100点を満点として、一等で80点以上、二等で70点以上が合格基準となっているが、机上試験や口述試験の配点比率が意外と大きい。そのため、操縦技能は合格基準に達していても、机上・口述試験で大きく減点されてしまい、結果として実地試験が不合格となるケースは少なくない。事実、実地試験の合格率は5割以下だといわれている。

 特に、飛行計画の作成にかかる机上試験では、一等で5点×5問=25点、二等で5点×4問=20点と、減点を重ねると実地試験全体に占める比率が大きい。また、口述試験(飛行前点検)では、点検項目が1つ欠けても10点が減点されるほか、口述試験(飛行後の点検と記録)では、飛行記録の記載でも10点が減点されるなど、実際の飛行において欠かせない法令順守や安全確保といった観点に重きが置かれているといえる。「航空法を理解して厳格に運用できないと、技能証明を持っていても法令違反してしまうことになる。それだけに、机上試験や口述試験は厳しくなっている」という。

最低限、立入管理区画から出ないための能力を求めている二等実技試験

 多くの人が実地試験の本丸と捉える実技試験は、一等、二等の基本、夜間、目視外のいずれの試験でも、大きく分けて「スクエア飛行」「8の字飛行」と異常事態に対する対応を求められる3つの課題がある。そして二等は異常事態の対応を除いて“GNSS、ビジョンセンサー等の水平方向の位置安定機能ONの状態”で飛行するのに対して、一等はそのほとんどを“OFFの状態”で飛行する。また、試験は屋外で実施するとされているが、二等については屋内での実施が認められていて、天候の影響を受けにくいことから、屋内で実施されることがほとんどだ。

 実技試験の飛行経路(コース)は「一等・二等無人航空機操縦士実地試験実施細則 回転翼航空機(マルチローター)」として公開されている。例えばスクエア飛行であれば、離陸地点から離陸し、幅3mの定められた経路を1周して着陸するというものだ。減点はこの幅3mの経路から逸脱する「飛行経路逸脱」や、「不円滑」「ふらつき」「機首方向不良」といった項目が定められており、それぞれの項目に対して1点もしくは5点減点される。さらに、経路外側の減点区画からさらに外側1mには「不合格区画」が設けられており、ここに進入したり、危険な飛行と認められたり、制御不能になったりするとその場で試験が中止され不合格となる。

提供:日本海事協会
二等基本の実技試験科目「スクエア飛行」の飛行経路。

 実技試験の中で最も減点されやすいのが、「飛行経路逸脱」と「不円滑」「ふらつき」だ。飛行経路逸脱については、とくにコース奥側の奥行き方向の距離感のズレから起こることが多い。また、不円滑やふらつきといった減点をされないように、スムーズで丁寧な操縦が求められる。

「二等の技能証明が対象とする飛行は、飛行経路の下は立入管理区画であり、人がいない安全地帯。その立入管理区画から逸脱せず、その範囲内で飛行を完結させられる能力を求めるのが二等の考え方。だからこそ不合格区画に出る=立入管理区画を出るということは一発で不合格になる。ただし、時には機体が故障することもあり、そうした異常事態に安全に着陸できる能力を求めるというのが二等試験の考え方」だという。また、「着陸時にみなさん離着陸地点の中央に機体を持ってこようとするが、むしろそれによって機体を転倒させてしまったりする例もある。あくまでも離着陸地点に機体が半分以上はみ出ることなく着陸できればいい。試験で腕利きはまったく求めていない」という。

 一方、一等試験については「カテゴリーⅢが想定している物流などの飛行では、その多くが自動飛行となる。とはいえ、現段階では信頼性が高い完全自動の機体は未だ存在しておらず、トラブルがあった時には操縦者が手動で操縦する必要がある。それも機体の下には人がいたり障害物があるかもしれない。そこでトラブルがあっても、高度な精度を持ちながら、屋外の気象条件下でも複雑な飛行ができる能力を求めている」という。

 また、離陸前に周囲の安全確認を行ったり、飛行中、試験官の指示に対してはっきりと声を出して受け答えするといったことも、試験の対象として見られている。さらに、飛行中にコントローラーから片手を放したり、コントローラーのモニターを見続けるといった、操縦者のクセも減点の対象となることがあるため注意が必要だ。

「登録講習機関であれば、修了審査を受けるまで講習を受けた場所や機材の慣れがあったり、周囲にそれまで接してきた講師や受講者がいたりする一方で、指定試験機関の実地試験ではすべてが初めての環境となり、圧倒的な緊張感に包まれるといったことも試験の結果に影響する可能性があるとの声も聞かれる」という。

翌月の試験枠が予約開始からすぐに埋まってしまう現状

 学科試験は指定試験機関の実地試験を受ける場合も、登録講習機関の講習を受ける場合も、必ず受けなければならないが、指定試験機関の実地試験は登録講習機関の修了審査に合格した場合は免除される。ただし、いわゆるドローンスクールである登録講習機関の講習を受講する場合、指定試験機関の実技試験を受けるのに比べて費用がかかる。そのため、新ルール施行以降、指定試験機関の実地試験を受験するという人は少なくない。

 ただし、実地試験の基本、夜間、目視外のいずれも、実技試験にはそれぞれ2つから3つの課題があり、さらに机上、口述試験があるため、1人あたり40分程度の時間がかかる。そのため、ひとつの会場で1日に実施できる人数は10人余りに限られる。日本海事協会によると、例えば3月には合計14日間の試験が実施されており、単順に試験人数をかけると1か月に延べ150人分程度の試験が実施されている。しかし、実地試験の受験を希望する人はこの数より多く、「無人航空機操縦士試験申込システム」で予約が開始されると、数時間でその枠が埋まってしまうという。

 これについて日本海事協会では「まだまだ無人航空機操縦士試験は始まったばかりであり、あくまでも効率性よりも確実性を最優先に実施している。今後は新しい会場も含め受験できる機会を増やしていきたい」としている。

日本海事協会が開設している「無人航空機操縦士試験」の「試験日程」ページ。