2022年7月4日、洋上風力発電など再生可能エネルギーのインフラ構築事業を展開するINFLUX OFFSHORE WIND POWER HD(以下、インフラックス)と長崎大学は、次世代型の水中ロボット(ROV)を共同で開発する共同研究契約を締結したことを発表した。
 インフラックスが洋上風力事業のO&M(オペレーション&メンテナンス)の一環として実施する、藻場再生の海底可視化が目的となる。

 共同研究では、インフラックスと長崎大学海洋未来イノベーション機構、長崎大学大学院工学研究科が中心となり、水中カメラとロボットシステムとを組み合わせた「統合水中ロボット」を開発するとともに、実海域にてフィールド試験を実施し、操作性および安全性を検証、高度な水中ロボットの運用方法を確立するとしている。

長崎大学とインフラックスが計画するROV(イメージ)

 水中ロボット(ROV)とは、遠隔操作型の無人潜水機のことで、潜水機とコントローラーがケーブルでつながっており、電力と各種指令を無人潜水機に送り、海底の映像や情報をリアルタイムで陸上や母船に伝送する。また、ロボットアームを備え、海底での機器設置や物品の回収などさまざまな作業を行うことができる。

 現在使用されているROVの多くは運用性などが課題となっている。今回の共同研究で使用するのは、藻場再生の海底可視化を目的とした次世代型のROVであり、海洋環境に負荷をかけずに洋上風力発電事業のO&Mを滞りなく推進できるよう、海底ケーブルモニタリングなど新しい探査や作業が実現できるものだという。

 エネルギー資源の乏しい日本において、海洋を活用した洋上風力発電による再生可能エネルギーへの期待は高まってきている一方、開発に伴う海洋環境への影響を懸念する声もある。特に海底に広がる藻場は多くの水生生物の生活を支え、産卵や幼稚仔魚に成育の場を提供し、水中の有機物分解、栄養塩類や炭酸ガスの吸収、酸素の供給などを行っている。そしていったん環境が破壊されると再生までには多大な年月を要する。
 インフラックスは、全国14エリアに洋上風力発電所の開発を計画しており、こうした開発やO&Mで優先されるのは海洋環境の保全だとしている。

洋上風力発電のイメージ

インフラックス 代表取締役社長 星野 敦氏のコメント

 当社は、洋上風力発電事業による新たな産業や雇用機会の創出、地元企業、地元港湾関係者、地元金融機関、漁業との共生など地域経済波及効果の最大化を目指すとともに、自然との共生を理念としています。この度の長崎大学との共同研究契約では、インフラックスのこうした経営方針と長崎大学の海洋立国を目指す日本において「海洋エネルギー開発と海洋環境保全型の漁業創成を目指す」方針が一致していることから本締結に至りました。

 現在インフラックスでは洋上風力発電事業において、精密な海洋調査を行っております。また、日本の沿岸における「藻場」は1990年代に比べて平均20%も減少していることから、その主な原因となっている「磯焼け」を改善し、海の生態系を正常化するために「フルボ酸鉄」(※1)を溶出する人工ブロックを海中へ設置。不足している栄養分を供給し、植物プランクトンや藻の生育を促進して海藻の減少を改善する「藻場再生対策事業」を開始しており、地元関係者にも高い評価をいただいております。今後も様々な分野の産学連携を行いながら、自然と共生し持続可能な洋上風力発電産業の発展に貢献してまいります。

※1 フルボ酸鉄:海中のプランクトンや藻の成長に不可欠な窒素を吸収するための触媒の働きをする物質。森林で時間をかけて生成され海へと流れつき、海中の藻や植物プランクトンの育成に大きく貢献する。

藻場の再生に向けた「藻場再生対策事業」