写真:「「地域防災コンビニ」実証第1弾 AIドローンで警察業務を高度化」の看板を持ち、ローソンの店舗前に立つ4人

 KDDIと石川県、石川県警察、ローソンは、2024年12月23日に石川県七尾市において、捜索や事故時の初動対応などの警察活動の高度化に向け、ドローンを使った「地域防災コンビニ」の実証を行った。本実証ではSkydioのSkydio X10を使い、石川県警察七尾警察署に隣接するコンビニエンスストア・ローソンの屋上からドローンを離陸させ、上空から行方不明者を捜索したり、交通事故の現場にいち早く駆け付け、現状を把握するという内容であった。

平時と災害時の両方で活用、“フェーズフリー”なドローン運用

 2024年1月1日に発生した能登半島地震によって、能登半島各地では甚大な被害が発生した。さらに、同年9月21日から23日にかけて発生した線状降水帯による豪雨も、奥能登各地に大きな被害をもたらした。こうした能登半島が見舞われた災害では、発災直後からドローンを使った要救助者の捜索や被害状況の調査、支援物資の輸送をはじめとした活動が実施され、災害時におけるドローンの有効性が再認識されることとなった。しかしその一方で、災害への備えのためだけにこうしたドローンを導入することは、自治体や防災関係機関にとってもハードルが高いとされる。

 そこで近年キーワードとして挙がっているのが“フェーズフリー”という考え方だ。ドローンの場合、災害時や救助、捜索、調査、救援物資の輸送・運搬といった用途に使うのと同時に、平時はインフラの点検や巡視、土地家屋調査、離島・中山間地といった遠隔地に対する医薬品の荷物の配送、運搬といった用途で同じドローンを利用するというもの。平時に運用しているドローンを、発災時には災害対応に利用することで、ドローンを導入・維持するコストを平準化できるというだけでなく、運用面でも平時において日常的にドローンを利用しておくことで、発災時にもその運用を応用できるというメリットがある。

 KDDIは2024年10月に、能登半島地震と奥能登豪雨の教訓から、石川県内の地域活性化と同県の創造的復興の推進を目的にした包括連携協定を締結している。この協定の具体的な取り組みのひとつとして、同社が2月に出資し、9月には“未来のコンビニ”への変革を掲げたローソンの店舗を地域防災拠点としてドローンを配備。災害発生時にはドローンが店舗から現場に飛行し、被災状況の確認や、要救助者の捜索することを目指している。

 さらにこの協定では日常と災害発生などの緊急時を区別しないフェーズフリーの考え方を掲げている。今回の実証はそのひとつとして、日常に発生しうる事件や事故に対して警察の初動対応にドローンを活用することを想定したものだ。

写真:ローソンと、その後ろに見える警察署。上空を飛行するドローン
ドローン離陸の拠点となったローソン七尾小島町店(手前)と、石川県警察七尾警察署(奥)。

警察の初動対応にドローンを活用、隣接するローソン屋上に離着陸台を設置

 今回の実証は警察活動におけるドローンの活用というテーマに沿って、石川県警が「行方不明者の捜索」と「交通事故の初動対応」という、県警の警察活動の中で日常的に起こりうるユースケースを設定。それぞれ七尾警察署に隣接するローソン七尾小島町店の屋上に設けられた離着陸台から離陸したドローンが、あらかじめ設定したルートに沿って飛行し現場に向かう。

 実証に使用されたのは今秋から日本でもデリバリーが始まった、米国SkydioのSkydio X10で、七尾警察署内の操縦者の元にあるEnterprise Controller(コントローラー)と機体間は、KDDIのモバイル通信で接続。操縦者は必要に応じて自動飛行と手動飛行を切り替え、コントローラーやPCのGCS(Ground Control System)ソフトの画面に表示される機体の位置や高度、速度といったテレメトリー情報と、機体のカメラが撮影した映像を見ながら操縦する。

 今回の飛行にあたっては国土交通省からレベル3.5飛行(無人地帯上空における補助者なし目視外飛行)の承認を受けている。レベル3.5飛行は2023年12月に新設された航空法上のドローンの飛行形態であり、一定の条件の下で道路や鉄道、航路の横断を伴う飛行を容易にしたものだ。Skydio X10によるこのレベル3.5飛行は国内初(KDDI、KDDIスマートドローン調べ。2024年12月23日時点)。

 また、こうした「急を要する事態においては航空法に救助捜索の特例措置がある。交通事故を含む事故や災害において、自治体等からの要請がある場合に、通常時の飛行申請が不要となり、即時の飛行を行うことが可能。今回のような行方不明者の捜索や事故時の初動対応が対象となることについては、国土交通省に確認済み」(KDDIスマートドローン博野雅文代表取締役社長)だという。

写真:スライド「本日のドローン実証について」(行方不明者の捜索、交通事故時初動対応)
この日の実証は「行方不明者の捜索」と「交通事故時の初動対応」という2つのテーマで実施された。

上空で止まることなく道路や鉄道を横断し、速やかに目的地へ

 1回目の飛行のテーマは「行方不明者の捜索」。石川県警の通信指令室を模した部屋から、七尾警察署の警察官に対して「石川本部から七尾。行方不明者の通報入電」からはじまる指令に基づいて、警察官が席を並べるKDDIスマートドローンの操縦者に対して、ドローンの飛行を要請。操縦者はSkydioのコントローラーを手にしてドローンを離陸させ、ローソン七尾小島町店から約1km離れた小丸山城址公園まで飛行し、公園上空で通報された行方不明者を探す。

 公園までの約1kmのルートは、レベル3.5飛行の要件に従い、第三者が立ち入る可能性が低い場所として山林や川の上空を飛行。公園は航空法上の人口集中地区にあたるため、今回の実証では補助者を配置してレベル2(有人地帯における補助者あり目視内飛行)として飛行している。

 ドローンが公園上空に到達すると、通報の情報をもとに公園内を捜索。カメラをサーマルカメラに切り替えて熱画像から人間と思われるものを見つけ出し、再び可視光のカメラに切り替えてズームして、通報の人着と一致する人物を特定した。その後、対象者の位置情報を操縦者が警察官に伝え、位置情報をもとに警察官が駆けつけるというものであった。

写真:モニター画面に映る、捜索を指示する警察官
行方不明者の通報を受け、県警本部通信指令室から捜索を指示するイメージ。
写真:机に横並びに座る七尾署員とドローンオペレーター、ドローンからの映像が映るモニター
本部からの指示を受けた七尾署員が、ドローンオペレーターに捜索のための飛行を要請。
写真:モニターに映るドローンからの映像とGCSの地図
ローソン七尾小島町店を離陸したドローンは、GCSの地図とカメラの映像を頼りに、高度約50m、速度約50km/hで、操縦者がコントローラーを操作しながら飛行する。
写真:モニターに映るドローンからの映像とGCSの地図
経路上の国道249号線には車両や歩行者が往来するが、レベル3.5飛行の承認を受けているため、ドローンは止まることなく飛行を続ける。
ドローンが公園上空で可視光カメラ、サーマルカメラを使って行方不明者を発見する様子。

 2回目の飛行のテーマは交通事故を想定した「事故時の初動対応」。七尾湾に浮かぶ能登島と能登半島を結ぶ能登島大橋の能登島側で、車両2台が衝突する交通事故が発生し、その事故のために能登島大橋が渋滞することで、パトカーの到着に時間がかかるというケースを想定。通信指令室からの指示により、やはりローソン七尾小島町店を離陸したドローンが七尾湾の海上を飛行して現場に急行するというものだ。

 1回目と同じように通信指令室からの指令を受けた七尾署の警察官がドローンの操縦者に能登島までの飛行を要請。離陸したドローンはあらかじめ設定したルートに沿って、石川県道1号線、JR七尾線などを横切りながら七尾湾上空を自動飛行し、約5分で能登島大橋が見える位置に到達。橋上の渋滞状況を確認しながら、能登島側のたもとの事故現場上空で乗用車2台を発見。高度を人の目の高さまで下げながら運転席や助手席、後部座席の様子を確認するほか、事故車両の破損状況などを撮影した。事故の状況確認では、Skydioが自動で対象物の周囲を飛行して3Dモデルを生成する「3D Scan」機能を利用している。

交通事故の状況確認の指令を受け、ドローンが離陸する。
能登島大橋の渋滞状況を確認する。
交通事故現場に到着し、状況確認を始める。
ドローンの高度を下げて事故車両内の人の様子を確認する。

警察活動へのドローン導入に寄せる期待、フェーズフリーで全国へ

 この日の実証では、石川県警察本部長の大嶌正洋氏と石川県庁デジタル推進監の成瀬英之氏が、ドローンから送られてくる映像を映し出したモニターの正面に座り、実証の様子を視察。冒頭の出席者の挨拶で大嶌氏は「石川県警では能登半島地震や奥能登豪雨の対応で、現場状況の確認にドローンを使っている。今回の実証は石川県警としても高い関心を持っており、将来的に警察活動でありうる場面を想定している。警察活動におけるドローンの活用は、警察力の効率的な、高度な活用にもつながるため大きな期待を寄せている」と述べた。また成瀬氏は「能登半島地震、奥能登豪雨では被害状況の調査、物資の運搬でドローンが重要な役割を果たした。その一方で、災害でドローンを使うためには日常から使う、フェーズフリーの取り組みが重要だと実感している」と説明。

 一連の実証を視察した大嶌氏は「今後、こうした日常の警察活動ですぐにドローンを使うというわけではない。今回の実証実験を踏まえて課題を洗い出し、整理するなどこれから検討していかなければならない」と見解を示した。また、KDDI取締役執行役員の松田浩路氏は「災害への対応だけに自治体の予算でこうしたドローンを整備するというのはサステナブルではない。一方で、平時での利用については地域におけるマネタイズを模索しないと全国展開が難しい。そのためにも平時と災害時の利用を組み合わせるフェーズフリーの使い方を全国に展開していきたい」と話した。

写真:話をする大嶌氏
大嶌正洋石川県警察本部長。
写真:話をする成瀬氏
成瀬英之石川県庁デジタル推進監。
写真:話をする松田氏
松田浩路KDDI取締執行役員常務 CDO先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長。

制度面や通信環境など、残る今後の課題

 なお、今回の実証は航空法上のレベル3.5飛行に基づく形でのフライトであったが、実際にこうした緊急性の高い事案では、事前のリスクアセスメントを前提にしたルートを設定して飛行することは難しい。また、航空法132条の92に定められた捜索、救助等のための特例に基づく飛行であっても、第三者上空飛行に対する安全性の確保をはじめ、制度面でのさまざまな課題が山積する。

 さらに、この日の2回目の飛行では電波もしくは通信の状況が悪く、デモンストレーションの開始から約10分にわたってドローンが離陸できず、記者からは「こうした事件・事故の初動対応として、ドローンが離陸するのに時間がかかっているのでは初動対応として実装が難しいのではないか」という指摘が挙がった。これに対してKDDIスマートドローン代表取締役社長の博野氏は「時間がかかったのは電波に関する問題があったと考えている。モバイル通信はトラフィックによって電波が刻一刻と変わり、それが遠隔運航の操作に影響を及ぼしたと考えている。このような状態をいかに早急に解決して即時対応を行っていくかが重要な課題だと考えている」と説明した。

写真:話をする博野氏
博野雅文KDDIスマートドローン代表取締役社長。