2024年3月、日本郵便とACSLが開発した新型物流ドローン、通称「JP2」がフライトデビューした。兵庫県豊岡市で「レベル3.5」飛行による片道約12kmのドローン配送を成功させ、今後は第一種型式認証取得と、郵便業務内での定常運航の早期実現を目指すという。

▼ドローンジャーナル – ACSLと日本郵便が開発した新型ドローン、レベル3.5飛行で配送試行

 今回は、日本郵便とACSLにインタビューを行い、新型物流ドローンJP2によるレベル3.5飛行の意義や将来展望について、それぞれの立場から意見を聞いた。

 日本郵便は、郵便・物流事業統括部 P-DX推進室 担当部長の上田氏、二等無人航空機操縦士の資格を取得し「レベル3.5」飛行の運航を担った、同室課長の福井氏と主任の柴田氏が、ACSLは、代表取締役CEOの鷲谷氏が取材に応じた。

日本郵便株式会社、左からP-DX推進室 主任 柴田康太郎氏、同室 担当部長 上田貴之氏、同室 課長 福井誠也氏。
株式会社ACSL 代表取締役CEO 鷲谷聡之氏。

ACSL「新型物流ドローン」誕生までの歩み

 最初に、日本郵便とACSLの協業を振り返り、両社の関係性および新型物流ドローン開発までの歩みを、時系列でざっと整理しておこう。

 両社は2017年、国土交通省物流政策課の「ドローンポートとドローンの連結活用」実証実験で初めて協業したのち、2018年9月、日本初の「レベル3」飛行による拠点間輸送を実施、2019年3月にはドローンによるラストワンマイル配送にも成功した。

「ドローン物流の安全運航」と「中山間地域における物流課題の解決」に、黎明期からともに挑んできた草分け的存在の両社だが、その関係性が加速したのは、2021年6月、日本郵便、日本郵政キャピタル、ACSLによる資本・業務提携契約の締結だろう。

 その後は同年12月、日本初となるドローンと配達ロボットとの連携にも成功。2022年12月、3社は合同で物流専用ドローンの新型機(コンセプトモデル)を発表。「2023年度中の第一種型式認証の取得とレベル4飛行の実証を目指す」との方針を打ち出した。

▼ドローンジャーナル – 日本郵便、日本初のドローンと配送ロボットが連携した荷物配送実験

 これは、長年のやり取りの中で業務活用に資する機体の要件が固まったこと、その技術をメーカーとして提供しうること、ひいてはドローン物流市場の本格的な立ち上がりをも意味するという点で、非常に画期的な発表だったが、改正航空法との整合性を図るハードルもあり、新機体開発の進捗はビハインド気味だ。

 しかし、ACSLは製品ローンチから2年経過し汎用機として成熟したPF2をベースに、「PF2-CAT3」の開発を同時に進めた。2023年3月、第一種型式認証を取得して、両社は同月に日本初の「レベル4」飛行による荷物配達で成功を収めており、レベル4飛行の実証や業務活用の検討については予定通りに進捗させている。

▼ドローンジャーナル – 日本初となるレベル4飛行による日本郵便のドローン配送

荷物を載せて民家の前を飛行するドローンの画像
日本初のレベル4飛行を実施し、「PF2-CAT3」で民家に荷物を配送した。

 他方、日本郵便は、日本郵政グループが2021年に打ち出した「JP ビジョン2025+」(2024年5月に見直し)の方針に沿って、2021年9月より佐川急便と、小型宅配荷物の輸送や幹線輸送の共同化などの協業を行っている。また2023年6月、ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸との協業を開始。2024年5月には、セイノーグループとも幹線輸送の共同運行に向けた業務提携に基本合意し、物流の2024年問題への対応を着々と進めている。

▼日本郵政グループ – JP ビジョン2025+
▼佐川急便 – 佐川急便株式会社と日本郵便株式会社との協業に関する基本合意書の締結
▼ヤマトホールディングス – 日本郵政グループとヤマトグループ 持続可能な物流サービスの推進に向けた基本合意について
▼日本郵便 – 日本郵便グループとセイノーグループとの幹線輸送の共同運行に向けた業務提携に関する基本合意について

新旧機体で「レベル3.5」飛行による荷物配送を実施

JP2の機体画像
レベル3.5飛行の実証実験に試用した「JP2」。

 そんななか2024年3月、両社の資本提携の枠組みの中でゼロベースから議論し共同開発した、待望の新型物流ドローン「JP2」がフライトデビューした。兵庫県豊岡市で、「レベル3.5」飛行による荷物輸送に成功したのだ。

▼ACSL – ACSL、日本郵便と共同開発の新型ドローンで兵庫県豊岡市において荷物の配送を実施

飛行するドローンの画像
レベル3.5飛行の実証実験の様子。

 飛行経路は出石郵便局から唐川公民館までの片道約12kmの道のり。機体に搭載可能な最大ペイロードは約4.5kg(100サイズ)となる。また上空のLTE通信は十分確保可能だった一方で、地上側のコントロールステーションとなった配送先の公民館側には通信遅延をカバーするためのStarlinkも設置し確実な通信環境の確保にも備えたという。

 見逃せないのは、2023年12月にも兵庫県豊岡市の同じエリアで、レベル3.5飛行による配送試行を行っている点だ。使用機体は「PF-2 Delivery」で、飛行経路は出石郵便局から奥矢根高齢者生活支援センターきずなまでの片道約8km、機体に搭載可能な最大ペイロードは約1.7kg(80サイズ)だった。

 こうして新旧機体を比較すると、「運べる荷物の量と飛行航続距離が大幅に増加した」ことが浮き彫りになる。ペイロード5kg程度では、物流拠点間輸送への適用は過疎地域の小規模局間など限定的になるというが、中山間地域物流の課題解決に向けて、さまざまな形で活躍が期待される。第一種型式認証取得に向け、耐水性や耐風性、今回の「レベル3.5」を通じて得た機体の取扱面での追加要望などの改善点を残すものの、基本性能としてはほぼ完成形に近い状態だという。

安全かつ業務に適した物流ドローン「JP2」スペックと特徴

 では、どんな機体なのか。資本業務提携以降すぐに要件を伝えたという日本郵便の上田氏は、「ペイロード5kg、最大離陸重量25kg未満、航続距離30kmで、郵便局で使っている軽四輪に入る機体にしてほしいと要望した」と振り返る。スペック表を見ると、要望はほぼクリアしている。また、一般的によく言われる「宅配便事業者が配送する荷物の8~9割は5kg未満で、100サイズ以内に収まる」という条件も満たす。

JP2機体の上部を開き、内部の荷物設置スペースが見えている画像
荷物は上部から搭載することができ、使い勝手にも工夫が見られる。

 加えて重要視していたのが「親しみやすさ」だ。真っ赤な丸いフォルムに、下から見上げると白字の郵便マークが目に飛び込んでくる。日本郵便の上田氏は、「住民の方の受けはすごく良かった」という。またACSLの鷲谷氏も、「兵庫県知事がとても喜んでおられた様子も印象的だ。こうした圧倒的なブランド力も、社会受容には大切だと改めて感じた」と話す。「親しみ」は狙い通りだ。

JP2の外観画像
自動車のフロントマスクを連想させ、親しみやすいデザインを取り入れた。

 ちなみに本配送実施エリアは、すでに肥料等散布ドローンが普及しているそうだ。このため住民たちは、「荷物はどれくらい運べるのか」「JP2はPF2よりだいぶ大型化したが、プロペラ音が気にならない」と、興味津々だったという。また兵庫県はドローンの社会実装を目指すさまざまな実証実験を実施してきた、国内有数の実績豊富な自治体だ。すでに一定の社会受容性があったからこそ、親しみやすいデザインがより功を奏したとも考えられる。

リアルな社会実装の世界が見えた「接近検知通知システム」

 ACSLの鷲谷氏は、「フレームなどはCFRPで製造しているので部品点数が減った。荷物を機体上部から収納し、下部から切り離せるので、置き配も可能になった」と新型機の利点を紹介しつつ、「接近検知通知システムを公民館側に設置して、注意喚起を促した」と周辺機器まで工夫を凝らしたことを明かす。

 実は、これはかなり議論したそうだ。もともとは、「多忙な郵便局員が、モニターの前でずっと待機するのは無理がある。ドローンの到着を知らせる装置が運用上必要なのでは」と検討してきたが、今回の配送先は公民館で、さまざまな利用者が訪れる。そこで、従来のアイデアを「立入管理措置」の一助として転用することにしたのだ。

 仕組みは、ドローンの地上局と連動してテレメトリーを受信し、距離100mまで近づくと緑色の照明が点灯し、スピーカーから「ドローンが接近しています」と音声が出る。さらに近づくと、照明が黄色になり、着陸寸前で赤色になる。人間が視認しやすく、音声も聞き取りやすい高さのポールに取り付けた、シンプルかつ小型で安価なシステムだ。将来的にドローン物流では、機体とこうした警報装置が、セット提供されていくのではないだろうか。

「ドローン物流を社会実装しようとした時に、ドローンが急に飛んできて、勝手に荷物を置いていくって、実はすごく危ないという、本質的な問題を誰も解いていない。ユースケースによっては、しっかりとしたドローンポートを設置することが必要となる場合もあるが、公民館のようなパブリックスペースでは、実証のようにカラーコーンを置いて立ち入りを禁ずるわけにもいかない。今回のようなコミュニティ配送モデルには、この接近検知通知システムが最適解だと思う」(鷲谷氏)