日本郵便はドローン(UAV)と配送ロボット(UGV)を連携させて郵便物などを配送する試みを、2021年12月1日から東京都奥多摩町で行っている。同町でも山間の最深部にある集落に対してドローンで郵便物を空輸し、さらにその荷物を自動配送ロボットに直接受け渡し、戸宅前まで自動配送ロボットが届けるというものだ。ドローン、配送ロボットそれぞれを使った自動配送の取り組みは、これまでにもさまざまな形で行われてきたが、ドローンと配送ロボットを連携させた形での取り組みは日本で初めてのことだという。同社は2021年12月20日、報道関係者に対してその様子を公開した。

UAVとUGVが配送の役割を分担

 日本郵便は2017年に郵便物の配送にドローン(UAV)を活用する取り組みを始めた。2018年11月には福島県南相馬市と浪江町において、日本初となる無人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル3)による郵便物配送を実施。また、2020年3月には東京都奥多摩町で個人宅に向けた郵便物の配送試行を実施するなど、いち早くドローン物流の取り組みを始め、毎年その方法や技術を発展させる形で実績を積み重ねている。

奥多摩フィールドを離陸する配送用ドローン。

 また、地上を走行するドローンである配送ロボット(UGV)に関する取り組みも並行して行っている。2020年3月には同社オフィス内で配送ロボットによる社内便配送試行を行い、同年10月には公道を使った自動配送ロボットの走行実験を実施。また、2021年3月にはマンション内での配送ロボットの運用実証実験を行っている。今回の奥多摩町での取り組みは、これまで日本郵便が実施してきたUAVとUGVによる配送の技術とノウハウを組み合わせたものだ。

公道を走行して戸宅に荷物を届ける配送ロボット。

 今回の試行は奥多摩町の奥多摩湖畔に位置する奥多摩フィールド(旧小河内小学校)から、直線距離で約2kmにある峰集落の戸宅に郵便物や荷物を配送するというもの。奥多摩フィールドから峰集落の中心にある、峰生活改善センターまではドローンが荷物を空輸。同センターには配送ロボットが待機していて、配送ロボット上空でドローンが荷物を切り離して投下する形で荷物を受け渡す。そして直ちに配送ロボットが発進し、集落内の道を走行して配送先の戸宅前で荷物を地面に降ろす形で届ける。長距離かつ高度差のある輸送をUAVが、戸宅前までの輸送をUGVがそれぞれ分担して担う形だ。

UAVとUGVで荷物を受け渡す要となるのが「連携機構」

 空輸を担うUAVはACSLの「ACSL-PF2」で、携帯電話ネットワークを介して遠隔で運航指示・監視が行われる。また、配送ロボットはZMPの「DeliRo(デリロ)」を使用。いずれも日本郵便がこれまでUAVと配送ロボットによる荷物配送の取り組みの中で使ってきた機材ではあるが、今回はドローンと配送ロボットの間で荷物を受け渡すために、それぞれ改良が加えられている。

機体は日本郵便がこれまでの試行にも採用してきたACSL-PF2がベース。
右側のスキッドには携帯電話ネットワークに接続するためのスマートフォンを搭載。
機体頂部の黒い箱状の装置はパラシュート。

 荷物は機体の下部に専用の箱として吊下げ、遠隔指示でフックを開放することで荷物を投下できる機構を追加。一方デリロは車体後部の荷物を搭載するキャビンを無蓋の荷台とし、後端のアオリを開くことで、傾いた荷台から荷物を滑り下ろす仕組みとなっている。

ZMPの配送ロボット「デリロ」。カメラやレーザーセンサーにより周囲の環境を認識しながら、最大時速6kmで走行する。
戸宅のガレージに荷物を降ろす配送ロボット。荷台の床は後方に向けて傾いていて、後あおりを開けることで、荷物が滑り落ちるようになっている。

 さらに今回の試行ではUAVと配送ロボットの間で荷物を受け渡す「連携機構」を使用。これはデリロを覆うガレージのようなスタイルで、UAVが投下した荷物を受け止めて、確実にデリロの荷台に荷物を降ろすために、すり鉢状の装置が設けられている。UAVはRTKによる位置情報を頼りに、正確に連携機構の上空でホバリングして荷物を投下するが、多少のずれや風の影響は否めない。しかし、この“すり鉢”の中に荷物が落ちさえすれば、真ん中の穴の直下にあるデリロの荷台に荷物を降ろすことができる。

UAVと配送ロボットの間でスムーズに荷物を受け渡す「連携機構」。あくまでも今回の試行に合わせて作られたもので、「今後、この形式がいいのかどうかは検討していく」(日本郵便)としている。
連携機構の上部はすり鉢状になっていて、ドローンが投下した荷物を周囲の“すり鉢”が受け止め、中央の穴からデリロの荷台に落とす仕組み。荷物の衝撃緩和効果がある一方で地面効果の影響など、さまざまな課題が検討されたという。

 この日の試行では峰集落内の2件の戸宅に配送が行われた。奥多摩フィールドでは奥多摩町の中心部にある奥多摩郵便局から、配達車両で輸送してきた郵便物の入った箱を、待機する機体に郵便局員が搭載。直ちにドローンが離陸して谷に面した山肌に沿うように上昇しながら飛行し、峰集落の上空に到達。高度を下げながら峰生活改善センターの敷地上空でホバリングし、ゆっくりと連携機構の上空まで移動すると、荷物を切り離して投下した。

奥多摩フィールドを離陸するドローン。
連携機構(デリロを覆う白い箱)を介してUAVから配送ロボットに荷物が受け渡される。

 荷物を受け取った配送ロボットは直ちに連携機構を出発し、集落内の坂道を下りながら約130m離れた戸宅入り口に到着。荷物を降ろすと「ご利用、ありがとうございました」という音声案内とともに、峰生活改善センターに戻っていった。今回輸送したのは「スマートレター」という、A5ファイルサイズの郵便受けに届けるスタイルの郵便物で、配送ロボットが戸宅入り口に荷物を降ろす、“置き配”という形となっている。

配送ロボットは荷物を戸宅の敷地入り口に置く形で届ける。
集落内の戸宅に荷物を配送するデリロ。「いってきます!」「こんにちは!」「ロボットが走行しています」「ロボットが待ってます」といった声が愛らしい。

“ポツンと一軒家”まで郵便物を届けるためのひとつの答え

 今回の試行の舞台となった奥多摩町の峰集落は、奥多摩町の中心部にある奥多摩郵便局まで約15km、車で約30分かかる。また、標高約550mの奥多摩フィールドに対して、峰生活改善センターの標高は約790mと、約240mの標高差がある。奥多摩郵便局では峰集落をはじめ管内にこうした山間地の集落を抱えており、郵便物の配達にはこうした集落を回って戻って来るのに半日がかりだという。さらに冬季になると路面の凍結や降雪があると、車やバイクによる配送が難しくなり、ときには配達員が坂道を歩いて上って郵便物を届けることにもなるという。

東京都とはいえ標高1000mを超える尾根の山々を望む峰集落。
約2km離れた奥多摩フィールドから写真の峰生活改善センターまで飛行するUAVが通信する携帯電話基地局は、同敷地に立つこの1本だけだという。

 こうした課題に対して日本郵便では早くからUAVやUGVを使った配送に取り組み、今後の人手不足や配送の効率化を目指している。2020年3月には同じ奥多摩町で、奥多摩郵便局から戸宅にUAVが直接郵便物を届ける試行を行っている。ただし、UAVが直接戸宅に荷物を届けるには、着陸場所や安全性といった面で課題も多い。そこで今回はUGVと組み合わせることで、戸宅まで直接届けることに取り組んだ形となった。

 日本郵便の小池信也常務執行役員は「日本で初めてドローンと配送ロボットを組み合わせ実際に配達に取り組んだが、安定した稼働ができた。今後もこうした実験を繰り返しながら、実用化に向けて取り組んでいきたい」と今回の試行を評した。

 またUAVを提供しているACSLの鷲谷聡之社長は、「配送ネットワークの高度化に関する取り組みを継続してきた中で、そのマイルストーンとして、山間地域においてドローンを使って高度方向の利活用をしていただけることが示せた。今後は2022年のレベル4実現に向けて技術開発を進め、2023年以降の社会実装に向けて取り組んでいきたい」と述べた。

 さらにZMPの谷口恒社長は「これまでの都市部での配送ロボットの走行は、車や人の交通量は多いものの、歩道と車道が整備されている。しかし今回の試行ではその区別がない道路を走る。路側帯を歩道とみなした環境を走行するという新しい技術的なチャレンジができた。また、坂道でも問題なく稼働することを確認でき、配送ロボットの技術的な課題はすべてクリアできた」と説明した。

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ドローン物流の現状と将来展望2021

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執筆者:青山 祐介
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:206P
発行日:2021/08/17
https://research.impress.co.jp/report/list/drone/501080