20~40代が中心の利用者層を高齢者に広げ、需要喚起も課題

 ドローンは朝10時から17時までお昼の時間帯を除いて30分間隔で運航。利用者から注文が入れば、デポのスタッフが商品を箱に詰め、ドローンデポのそばにある離陸場所に待機するドローンに搭載する。それを確認して遠隔操縦者が離陸の指示をGCS上から出すと、ドローンは自動で離陸。道路を横断すると集落北側の山の斜面に沿って高度を上げながら目的地に向かって進んでいった。

2021年12月25日はキャンペーンとして、クリスマスケーキがすべての配送便で届けられた。
小菅村橋立地区にあるドローンデポを離陸するドローン。

 2021年のクリスマスにあたるこの日、午後2時に離陸する配送便の目的地は、小菅村中心集落の東側にある井狩地区。村営住宅が並ぶ敷地の一角に設けられたヘリパッドの傍には補助者が待機し、到着予想時刻の少し前にはあらかじめドローンデポから連絡を受けた利用者もやってきた。

 ほどなく山影からドローンが現れ、巡航高度からぐんぐん降下し、ヘリパッドに着陸して商品が入った箱を地面に置いて離陸。そして待機していた補助者が商品を箱から出し、利用者に手渡して配送が完了した。この日、赤い三角帽をかぶった補助者が利用者にクリスマスケーキを渡すさまは、まさにトナカイが引くソリからプレゼントを届けるサンタクロースだった。

配送地点に着陸するドローン。

 この便でクリスマスケーキを受け取ったのは、小菅村に移住してきた夫婦。人口約700人の小菅村で「SkyHub Store」に会員登録している利用者は約100人で、その中心は20~40代の移住者が多いという。「これまでに200回以上ドローン配送のフライトを行っており、小菅村でドローン配送サービスをやっていることを知らない人はいない。しかし、だからといって都市部のようにバンバン注文が入るというわけではない。だからこそ、どうすればユーザーが増えるのか模索している」(近藤氏)という。

配送地点でクリスマスケーキを受け取りにきた家族。数年前に小菅村に移住してきたという。

物流に欠かせない定常性をクルマによる配送で補完

 この日のドローン配送は7便設定されていたうち、6便がクリスマスケーキの配送予約が入っていたが、終日5〜10m/sの風が吹いており、午前中の配送便では風が強くドローンが飛ぶことができなかった。しかし、SkyHub Storeではこうしたドローンが飛べない条件の場合に、クルマで商品が届けられることになっている。

強風でドローンが飛べなかった配送便は、クルマを使って商品が届けられた。

 これは、小菅村のドローン配送サービスがエアロネクストとセイノーHDの両社で運営されているからこそできる対応だといえる。ドローンデポはSkyHub Storeの拠点であると同時に、セイノーHDが主体となって行っている買い物代行サービス「SkyHub Delivery」の拠点でもある。そのため、もしSkyHub Storeのドローンが飛べない場合は、SkyHub Deliveryの配送車が商品を届けることができるからだ。

 一般的にドローン配送の課題のひとつとして挙げられるのが、風や雨といった天候の影響により配送ができたりできなかったりすることだ。物流事業者との提携によって、クルマといった既存の輸送手段とドローンを組み合わせ、配送の定常性を守るというのは、今後ドローンによる配送サービスを社会実装する上で、ひとまずの解だといえる。その一方で、今後解決する必要がある大きな課題は電波だという。

「SkyHub Storeのドローン配送では無人地帯となる山林の上空を運航ルートとしている が、こうした“人がいないエリア”には電波が届いていないことが多い。また、いずれ着陸地点側に補助者を配置せず、遠隔監視の下で自動離着陸をさせるとなると、着陸地点側で確実に電波が入る必要があるが、今後配送エリアとして拡大したい集落は、携帯電話の電波が入りにくい部分があり、他の手段を検討している」(近藤氏)という。

 今後、ドローン配送を実用レベルに持っていくためのカギのひとつが、現地に配置する補助者などを削減し、遠隔オペレーションを拡充する事ではあるが、そのためには確実につながる通信が欠かせない。このほか、バッテリーの能力による飛行距離・時間とペイロードの制約や、バッテリーの価格と寿命による1フライトあたりのコストも課題だという。

小菅村でドローン配送の課題を吸収して全国展開へ

「小菅村は都心から1時間半とアクセスしやすい距離にあり、地域の協力体制も含めて研究開発に最適な場所。その一方で過疎化や高齢化による医療や買い物難民といった課題があり、そこにドローンを使って社会問題の解決の一助になれるのではと、この地に拠点を置いた。さらにそこにセイノーHDと連携することで、共同配送をはじめさまざまな形でドローンも含めた物流サービスを提供することができた」と伊東氏。

 11月から正式にサービスとして始まったSkyHub Storeのドローン配送サービスだが、現時点ではビジネスとして成立しているわけではないという。しかし「小菅村でこのサービスを継続的に進めているからこそ、自治体やドローン配送の課題のイメージを解像度高く吸収できる」(近藤氏)としている。事実、4月から実証実験を始めて以降、小菅村には全国から多くの自治体や地域団体の関係者が視察に訪れているという。

 エアロネクストではこの小菅村だけでなく、2021年10月には北海道の上士幌町でセイノーHDらと共同で、ドローンによる個人宅への配送実験を実施。11月には同町でSkyHub Deliveryのサービスを開始している。また、同年11月には敦賀市と新スマート物流の構築に向けた包括連携協定を締結しており、2021年度中にはこの協定に基づいたドローン配送の実証実験を行うとしている。さらに2022年度にはSkyHubサービスの対象地域を拡大していく意向だという。

「敦賀は人口が7万人弱とこれまでの展開地域に比べて人口規模が大きく課題も違う。今年度中にはあと4カ所での取り組みを予定しており、それぞれ地域によって違う課題にマッチした取り組みを行っていきたい」(近藤氏)としている。

エアロネクストの伊東奈津子執行役員CMO(左)と近藤建斗コミュニティマネージャー(右)。

関連調査報告書

ドローン物流の現状と将来展望2021

 本報告書では今後拡大していくドローン物流にフォーカスし、国内のドローン物流の現状と課題をまとめ、今後を展望しています。

<本書のポイント>
1.ドローン物流市場の現状と展望を分析
2.物流分野におけるドローンの役割や効果、プレイヤー、期待されるシーンを整理
3.民間企業、地方自治体、行政が進めるドローン物流の最新動向が網羅
4.各省庁の動向を整理
   国が進めるプロジェクトの最新動向なども掲載。
5.先行している国内企業の動向を個票で解説


執筆者:青山 祐介
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:206P
発行日:2021/08/17
https://research.impress.co.jp/report/list/drone/501080