2021年1月15日、豊橋技術科学大学は、電気・電子情報工学系 田村昌也准教授、村井宏輔氏などの研究チームが、4枚の超薄型平板電極を用いた送受電器で海水中でのワイヤレス給電と情報通信に成功したことを発表した。
 ワイヤレス給電の世界では、海水は非常に損失の大きな誘電体としてふるまうため、電界結合方式では実現が難しく、磁界結合方式でしかワイヤレス給電は実現できないとされてきた。今回、海水の高周波特性に注目して第3の方式となる導電性結合方式を考案し、高効率給電を実現する送受電器を開発した。

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 日本の漁業従事者は年々減少しており、高齢化が進んでいる。その要因の一つとして、人の手に頼らざるを得ない高負荷作業が挙げられる。これを改善するため、養殖網の清掃ロボットなど自動化が進められている。今後は、水質や環境管理、魚の生育チェックなどすべてをロボットで管理できるよう、海中に常駐するロボット、いわゆる水中ドローンの開発が期待される。
 しかし、ドローンはバッテリー駆動のため、充電のために何度も海中から引き上げ、充電して潜航させるという作業を繰り返す必要がある。また、水中で収集したデータも同時に回収する必要がある。そこで、給電ステーションを介した海中でのワイヤレス給電と情報通信(図1)の技術開発が鍵となる。特に、こうしたドローンは、重量の増加や体積の増加が浮力制御や姿勢制御を困難にさせるため、軽量かつ省スペースで実現できる技術が必須となる。そこで、田村昌也准教授らの研究チームは、海中でも高効率ワイヤレス給電を実現する新方式の送受電器を開発した。

図1:海中でのワイヤレス給電システムの一例
水中ドローンが給電ステーションに着底し、バッテリーの充電と収集した情報の通信を行う。

 ワイヤレス給電の効率は送受電器間の結合係数「k」と周辺環境の影響も含めた送受電器の損失を表す「Q値」の積である「kQ積」に依存する。kは1に近いほど、Q値は高いほど効率が向上する。しかし、海水のような高い導電性をもつ誘電体では高周波電流が流れてしまい、kとQ値に切り分けて議論することは困難である。ただ、kQ積が高いほど効率が向上するという原理は不変であることから、kQ積という視点で海水の導電性に注目した等価回路から効率を向上させるための鍵となるパラメータを明らかにした。そこからkQ積が最大値を示す設計理論を確立し、送受電器の設計を行った。
 これにより図2に示すように、広帯域にわたって送電距離2cmで94.5%、15cmで85%以上の給電効率を実現した。1kWの電力を送電距離2cmで送電しても効率は90%以上を維持できる。さらに、広帯域で高効率を維持できるため高速通信も可能である。開発した送受電器を用いてキャパシタ(コンデンサ)を充電し、その充電電力で駆動したカメラモジュールから動画を同じ送受電器を介してリアルタイムで通信することにも成功した。今回の通信速度は約90Mbpsだが、さらなる高速化も可能だという。また、給電ステーションに着底することを想定して行った小型水中ドローンへの給電・通信実験にも成功(図3)。このときのドローンに搭載する受電器と電力系回路を合わせた重量は約270gと非常に軽量である。

図2:海水中での給電効率
(a)送電距離2cmにおける周波数特性、(b)送電周波数6.78MHzにおける送電距離特性
図3:給電ステーションに着底した水中ドローンへの給電実験(受電器構造が分かるようにドローンの外へ配置)

今後の展望

 研究チームは、本研究成果により水中ドローンの設計を大幅に変更することなく海水中での通信・充電が可能となり、運用効率の飛躍的向上に貢献できると考えているという。開発した送受電器は非常にシンプル、かつ軽量であるため、水中ドローンの重量増加を最小限に抑えることができる。最終的には、陸上ですべてを管理できる水中ドローンシステムの開発に貢献していきたいと、としている。