「ジャパンドローン2020」では、水中水上で活躍する産業用途のドローンが存在感を放っていた。国産の産業用水中ドローンの展示をはじめ、水槽を使った水中ドローンの実演もあり、どのブースにも多数の来場者が絶え間なく訪れていた。また、今年新設された大型ドローンゾーンでも、水上で離発着できる飛行艇ドローンや、アワードニュービジネス部門で審査員特別賞を受賞した帆船型ドローンが展示され、注目を集めていた。本稿では、水中ドローン・水上ドローンに着目して、展示内容をレポートする。

産業における利活用が活発化する水中ドローン

 いま、水中ドローンと呼ばれるROV(Remotely Operated Vehicle)の産業利活用が活発化している。ROVの日本語訳は、遠隔操作型無人潜水機。コントローラー/送信機と水中ドローン本体はケーブルで接続されており、機体に装備されたカメラの映像を受信して操作画面で確認しながら、遠隔で操作する。

 国産の産業用水中ドローンとして安定的な人気を誇るのが、FullDepthが昨年秋に発売した「DiveUnit300」だ。ダム、港湾、発電所、漁礁など、さまざまな領域で点検や調査を手掛ける事業者から引き合いが増えているそうで、ブースでは性能についてしっかりとヒアリングをする来場者が多く見られた。

 DiveUnit300は、自社開発したフライトコントローラーを搭載しており、水深、水温、映像などの取得データは、インターネットと独自のクラウドサービスを利用して遠隔地でもリアルタイムに確認できる。基本装備として、フルハイビジョンの高精度カメラと、合計6,000ルーメンの高照度ライトを搭載。オプションとしては、濁度が高く映像では目標物をとらえきれない水域でも目標物との距離などを把握できるマルチナロービームソナーや、母船と水中ドローンとの間で音響信号を送受信して機体位置を把握できるUSBL音響測位装置も提供している。

 もともと産業用に特化して深海まで潜れることを目指して開発されたDiveUnit300は、サイズ410mm×375mm×639mm、重量28kg。ある程度の質量がありながらも、大人2名で運用でき、宅急便でも送れる手軽さがある。

 最大潜航深度は300m、ケーブルの長さは350mで、最大の特徴は、3.00mmというケーブルの細さだ。潮流の抵抗を低減しつつも、180kgまで加重できる強さを誇る。またこれが、光ケーブルである点も注目だ。コントローラーとケーブル、機体とケーブルの両接続部分には、自社で独自開発したという光電変換装置を配置し、通信の安定性を確保している。

 今回の展示で唯一、水槽を設置して注目を集めたのが、中国深センの水中ドローン・ROVメーカーQYSEA(QYSEA Technology Co.Ltd.)のFIFISHシリーズを紹介したジュンテクノサービス/ドローンテクニカルファクトリー川越/CFD販売のブースだ。

 実際に機体のカメラ映像を見せながら、アプリの操作画面説明や操縦体験を行っており、水中ドローンビギナーには嬉しい実演だったようだ。ちなみに、フルHDの水中映像をHDMI出力すればリアルタイムライブ配信も可能だという。

 最も初心者向きとして展示されていたのが、黄色い機体の「FIFISH V6(ファイフィッシュV6)」。サイズ383mm×331mm×143mm、重量3.9kgとコンパクトながら、4K UHDカメラを搭載。最大潜航深度は100mで、360°ヨーリング、360°ピッチ、360°ローリングの回転が可能。機動性の高さと20万円台から購入できるという手頃な価格が魅力だ。デモ実演で使われていたアームのほかにも、さまざまなオプションパーツが用意されている。

 産業用機体としておすすめされていたのが、2020年に販売開始となった「FIFISH V6 PLUS(ファイフィッシュ V6 プラス)」だ。こちらの機体も、水槽でデモが実施されていた。

 FIFISH V6がコンシューマーや、水中ドローンビギナー、産業利活用におけるお試し的な利用が多いとすれば、FIFISH V6 PLUSはまさに産業用。サイズや重量、回転の機動性などは、FIFISH V6とほぼ同じだが、最大潜航深度は150mに伸長され、4K UHDカメラと合計6000ルーメンの高輝度LEDライトを装備している。最大の特徴は、距離ロックソナーシステムである。これにより、機体と目標物の距離を一定に保持したまま撮影ができ、下水道の管内における点検現場などで、活用ニーズが高まっているそうだ。

 受注生産となる「FIFISH W6」は、最大潜航深度305m。深海に安定的に潜るためには、ある程度の質量が必要となるが、FIFISH W6はサイズ536mm×416mm×270mm、重量13kg。FIFISHシリーズの中で最もずっしりとした機体で、合計10000ルーメンの高輝度LEDライトを装備した。濁度の高い水域で目標物を可視化するのに役立つイメージングソナーや、船や構造物の塗料の層を通して鋼の厚さ、腐食部の厚さを測定するパーツなど、現場の用途に合わせたオプションの開発はいまも続々進められているという。

 現場の用途に合わせたカスタマイズや、海外製品の場合は修理やメンテナンスを国内代理店がどこまでカバーできるかなど、水中ドローンの産業利活用は実用へのさまざまな課題が浮き彫りになりつつあるが、きめ細やかなカスタム対応を訴求していたのが、日本海洋だ。

 日本海洋のブースで展示されていたのは、米Blue Robotics社製のROV「BlueROV2」に、米DarkwaterVision社製の赤外線カメラを搭載して、日本海洋が組み込みを行ったというカスタム機体だ。日本海洋では、「水中を見れるだけでは意味がない」という顧客からの要望に応え、さまざまなセンサーやマニピュレーターを各メーカーから取り寄せて、機体に組み込むというサービスを提供しているという。

 従来は本体だけで600万円、800万円という価格帯だったROVが、例えばBlueROV2なら約200万円で購入できるほど低価格になったため、各種オプションの提案から組み込みおよびメンテナンスまでの付加価値をつけて技術提案を始めたところ、徐々に顧客開拓が進んでいる状況だという。機体の低価格化によって、マリンコンストラクター、海洋測量、海洋調査、コンサルティング会社などにおいて、これまで水中ドローンを利用したことがなかった事業者が新たに水中ドローン導入を検討する動きが広がっているそうだ。