連載「Global Drone News Vol.13」では、2025年3月に国土交通省航空局が公表した「無人航空機の多数機同時運航を安全に行うためのガイドライン(第一版)」をもとに、日本の制度上の現在地を整理した。その中で、1人が5機のドローンを運用する「1:5」を定義した。この運航比率は観念的なリスク評価ではなく、現場の運航者の経験を踏まえた定性的な判断であることを紹介し、「定量的な判断は可能なのか」という課題を提示した。なお、国土交通省は、6月2日に操縦者1人が複数のドローンを同時に使う際のガイドラインを改定しており、機体数の上限(5機)は廃止されている。
▼Global Drone News Vol.13 - 次世代のドローン運航モデル「1対多運航」──諸外国で進む多数機同時運航の制度化
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/series/column20230411-01/1188572.html
▼国土交通省 - ドローンの多数機同時運航を安全に行うためのガイドラインを改訂
https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku10_hh_000316.html
今回は「定量的な判断は可能なのか」という課題に対し、その問いを米国に向け、NASAラングレー研究センターが推進する「MPATH(Measuring Performance for Autonomy Teaming with Humans)」プロジェクトの最新研究を手がかりに、「1人のオペレーターが監視できる機体数の上限」をどのように実証的に評価しようとしているのかを紹介する。また、その評価手法から日本が学ぶべき点について考察したい。
「4機を超えると問題になる」──NASA研究が示した示唆
2026年1月23日付のAIAA機関誌「Aerospace America」に掲載されたPaul Brinkmann記者の記事「Autonomous aircraft ops may be limited by number of human operators, NASA research indicates」は、筆者にとって興味深い内容だった。
記事では、2026年1月のAIAA SciTech Forumで発表されたNASAラングレー研究センターとフロリダ工科大学による共同研究を紹介しており、その中で「4機を超えると問題になることが著者らによって明確に示された」との趣旨が紹介されている。これは、遠隔監視制御における人と機体の実用的な比率について示された、具体的な指標の一つとして取り上げられている。
▼Aerospace America - Autonomous aircraft ops may be limited by number of human operators, NASA research indicates
https://aerospaceamerica.aiaa.org/autonomous-aircraft-ops-may-be-limited-by-number-of-human-operators-nasa-research-indicates/
興味深いのは、この“4機”という値が、日本が当初公表したガイドラインで示された「1:5」という目安と近い水準にある点である。日本側の5機は現場の経験則を基にした定性的な判断である。一方、米国側の4機は、静的モックアップで最大10機までを想定した評価の中で、オペレーターから「10機を監視するとGround Control Station全体への注意が著しく低下する」との意見が示されたことを踏まえ、ユーザー中心設計(UCD)のプロセスから導かれた結果である。
導出方法は異なるものの、近い数値に収束している点は興味深い。背景には、人間のワークロードや注意資源に共通する限界が存在している可能性がある。ただし、記事の末尾ではNASAラングレー研究センターのMichael Politowicz博士が重要な留保を示している。
「私たちはこの問題に唯一の解があるとは考えていない。結局のところ、オペレーターに何をさせるかに帰着する」という記述だ。つまり、小型ドローンからエアタクシーまで運航形態が異なれば、一人が監視できる機体数も変わるという考え方である。この姿勢は、評価を単純な機数だけで判断しない設計思想として、日本でも参考になる視点といえる。
MPATHプロジェクトとSciTech 2026で発表された2本の論文
記事で紹介された研究をたどると、その背景にはNASAのMPATH(Measuring Performance for Autonomy Teaming with Humans)プロジェクトがある。
MPATHは、複数の有人・無人航空機をスケーラブルに管理することを目標に、小型UASを対象とした地上管制局(GCS)の設計・評価を進めている。将来的にはAAM(Advanced Air Mobility)への展開も視野に入れている。なお、このプロジェクトは2021年に、ROAM(Remote Operations for Autonomous Missions)などとともに、NASA航空研究ミッション局(ARMD)が主催する「2021 Associate Administrator Awards」のグループ賞を受賞している。
2026年1月のSciTech Forumでは、関連する以下の2本の論文が発表された。
- Bautista et al. (2026) "A High-Fidelity 3D Simulation Environment for Multi-Aircraft Operations"(DOI: 10.2514/6.2026-2211)
- Sun et al. (2026) "User-Centered Design of UAS Ground Control Station Interface for Multi-Vehicle Operations"(DOI: 10.2514/6.2026-0711)
前者は評価を行うためのシミュレーション環境を、後者は評価方法を示している。いずれにもPolitowicz氏とChancey氏(NASAラングレー)が共著者として参加しており、MPATHにおける「評価環境」と「評価手法」を構成する補完的な研究と考えられる。
Bautistaらの研究 多数機評価のためのシミュレーション環境
Bautistaらは、PX4 Autopilot(SITL)、Unreal Engine 5、Colosseum、QGroundControl、ROSをWindowsとWSL環境で連携させた、高忠実度のマルチドローンシミュレーション環境を提案している。
特に注目したのは次の3点である。
- TCP/UDP通信を介した疎結合アーキテクチャを採用し、モジュール交換やアルゴリズム追加が容易な高い汎用性を実現している。
- Cesium ionの3Dタイルを利用し、実際の都市や地形を再現した高忠実度シミュレーションを一般的なPCでも動作する性能で実現している。
- ROSとRVizを組み合わせることで、多数機運航時の監視や異常シナリオを含めたエンドツーエンドの評価環境を構築している。
多数機運航時のリスク評価や操縦者要件の検証を進める上で、有用な基盤となる研究といえる。
Sunらの研究 「レッドライン」をどう評価するか
Sunらは、NASAラングレーのGCSオペレーター7人を対象に、ユーザー中心設計(UCD)の手法を用いてGCSインターフェースを評価した。論文では、人間工学分野で用いられる「ワークロードのレッドライン(Red Line of Workload)」の概念を採用している。これは、安全かつ効果的に複数のタスクを処理できる限界を示す考え方であり、多数機運航ではこのレッドラインを超えないことを設計目標としている。これは、日本の「1:5」という経験則を、定量的な評価へ発展させる視点とも捉えられる。
多数機運航で課題となる人間側のボトルネック
Sunらは、多数機運航における人間側の課題として、主に次の3点を挙げている。
- 管理機数の増加によるワークロードの急激な上昇
- タスク切り替えの増加による状況認識(SA)の低下
- 情報過多による変化盲(Change Blindness)や誤った顕著性(Misplaced Salience)の発生
重要なのは、「何機管理するか」ではなく、その結果としてワークロードや状況認識、応答時間がどのように変化するかを評価する点にある。運航条件が異なれば、適切な管理機数も変化し得ることを示している。
評価手法への示唆 「想像」と「実際の運用」は一致しない
Sunらの研究では、ユーザーニーズ分析の段階で、フルタイムのGCSオペレーターと、研究目的で運航支援を行うパートタイムのオペレーターでは、最適な画面構成に対する意見が大きく分かれた。しかし、実際に動作するプロトタイプを操作した後は、双方とも同じレイアウトを支持する結果となった。
この結果は、「どのような画面が望ましいか」をヒアリングするだけでは実際の運用を十分に評価できず、実際に操作できる環境を用いた検証が不可欠であることを示している。
「レッドラインを超えない」ことをどう示すか
Vol.13で提示した「定量的な評価は可能か」という問いに立ち返ると、今回取り上げた研究は、次の3つを組み合わせた評価フレームワークを提案していると整理できる。
- 高忠実度シミュレーターによる評価環境
- 実オペレーターを対象としたユーザー中心設計(UCD)
- ワークロードや状況認識などの中間指標を用いた評価
Sunらも論文の限界として、本研究は質的データが中心であり、客観的なワークロードや状況認識データの取得は今後の課題としている。
日本のガイドラインに示された「1:5」は、現時点で実証可能な範囲における合理的な目安と考えられる。しかし、将来的に機数を増やす場合や、より高度な自動化を進める場合には、「レッドラインを超えていない」ことを客観的に説明する責任が求められる。
その際には、評価環境・評価方法・評価指標を組み合わせた体系的な評価フレームワークが重要になると考えられる。
次回予告 米国のPart 108構想を読み解く
今回はNASAラングレーによる研究開発の側面を紹介した。一方、制度面では、FAAがBVLOS飛行と多数機運航を本格的に制度化する新ルール「Part 108(旧称BVLOS Rule)」の検討を進めている。次回は、Vol.13でも触れたAmazonの18601D Exemptionなどの個別許可から、制度化への転換点となるPart 108構想について取り上げる。
Global Drone News
Vol.13 次世代のドローン運航モデル「1対多運航」──諸外国で進む多数機同時運航の制度化
Vol.12【パリ航空ショー2025】空飛ぶクルマの未来が現実に!現地レポートで見えた商業化の最前線
Vol.11 NUSTLの「Blue UAS」レポートを読む!米国の災害対応におけるドローンの可能性
Vol.10 米国・欧州で2025年に待ち受けるドローン環境整備の変化
Vol.9 次世代エアモビリティと空飛ぶクルマの実現に向けた航空交通管理の新しい視点と課題
Vol.8 次世代エアモビリティ(AAM)社会実装に向けた世界の都市の取り組み ①
Vol.7 米国、連邦航空局のSafety Continuumからドローンのリスクを考える
Vol.6 米国、連邦航空局(FAA)によるドローンの環境整備を振り返る
Vol.5 欧州の自治体ネットワーク「UIC2」が取り組むUAMの社会実装
Vol.4 ドローン・空飛ぶクルマの運航管理、欧州のSESAR 3 JUが狙うイノベーション「U-space」を解説
Vol.3 世界の航空関連情報が集まるICAOのドローンに対する取り組みを解説
Vol.2 ドローンの運用前に一読しておきたい「運航リスク評価ガイドライン」のポイントとSORAとの関係性
Vol.1 ドローンを取り巻く海外の組織構造から見る環境整備
中村裕子
一般財団法人総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長:イノベーションマネジメント、ドローンリスク管理、低高度空域運航管理(UTM)、国際標準規格化の研究に従事。イノベーションの実現に向けて各種ネットワークの運営に従事―現職の他、JUIDA参与、航空の自動化/自律化委員会主査、無操縦者航空機委員会(JRPAS)幹事、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人など。東京大学出版会「ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック」編者。
