ROV(水中ドローン)は「データ取得ツール」
長崎県の対馬では、牡蠣と同じく海面養殖の真珠養殖場において、ROVを活用した稚貝のへい死対策に取り組んでいる。国土交通省「令和3年度 海の次世代モビリティの利活用に関する実証事業」の採択事業である。
もともと対馬の真珠養殖事業者は、ICTブイをリリースした2017年からの付き合いで、データ活用が業務に根付いていた。というのも、真珠のアコヤ貝にも、さまざまな付着生物がついてしまう。このため、1つずつ船に揚げて洗浄作業を行うが、貝の状態が揚げて目視するまで分からないため、弱っている貝をさらに弱らせるというリスクがあったところ、ICTブイで水中にいる貝の餌となるクロロフィルの量や水温などのデータを定点観測することで、貝の状態に合わせた洗浄処理を行えるよう業務プロセスを変更し、品質が驚くほど安定したという。「ICTブイのない養殖には戻れない」というほど、実用化が進んでいる。
つまり、追加でROV活用する素地が整っていた。今回の実証では、これまで3年以上に渡りICTブイで取得してきた定点観測データと、新たにROVで取得した映像データ、水質データを組み合わせて解析し、稚貝のへい死と海中環境の相関を分析中だという。2022年3月には成果を発表する予定だ。
対馬では、ほかにもROVを活用した事例がある。アマモが自生している場所と、植え付けても繁殖しない場所とで、映像や海底に堆積した泥を比較して、アマモの人工造成に役立てようと環境調査に取り組んでいる。泥の採取では、SIX VOICEの協力を得て、BlueROV2に専用の器具を装備したという。
このようにNTTドコモでは、ROVを「データ取得ツール」として、しっかりと活用している。山本氏は、昨今の地球環境の変化による海の高水温化を例に挙げて、こう話したくれた。
「これからは、高水温化等の海洋環境の変化により、漁業者の経験と勘だけでは通用しなくなっている。つまり、データがないと傾向もわからないので、データを蓄積しておくことが非常に重要になる。養殖業においても次世代へのノウハウの継承が求められているが、たとえば牡蠣の種付けなら水温や塩分がこれくらいのときに作業するといいよ、とデータに基づいてノウハウを継承できると、海洋環境が変化してもうまく漁をできる、そう考える漁業者さんも増えてきている」(山本氏)。
「養殖DX」に向けて
最後に山本氏は、カンパチの養殖場での網の汚れ確認やへい死魚の回収などの実務においても、“水中ドローン、めちゃくちゃいい”と好評だったことにも言及した。カンパチは、水中に潜ってきたものに寄ってくる習性があるため、近接映像も撮影でき、魚の病気の発見にも役立つのでは、という話も出ているそうだ。
背景には、ダイバーの高齢化がある。現場ではよく、「潜水業務を頼めなくなった」と聞くそうだ。一方で、高水温化などの対応で業務量は増えており、「本当はもっと細かく管理したいが対応できていないのが実態」なのだという。
山本氏は、「ダイバーさんが行う業務の一部をROVが代替して、いま対応できていない業務を、簡単な操作でできるようにすることが重要だ。養殖でROVを本格導入している事業者さんは、まだほとんどないと思うが、好事例が周知されれば活用が広がるだろう。また2021年12月には、スマート農林水産業の全国展開に向けた導入支援事業について、補助金交付等要綱が公表された。機械の導入やカスタマイズ、水産業支援サービスの提供を目的とした機械の導入やカスタマイズ、複数の漁業者等による機械の共同利用も対象となっているため、ROVの活用を検討する事業者にとってはチャンスになるのではないだろうか」と話す。
いま、長引くコロナ禍において、日本の食料自給率の低さが改めて課題視されつつある。他方、世界的な人口増加によって、タンパク源の需要は拡大の一途を辿っている。植物性由来の代替肉や食用コオロギなどのフードテックが加速するなかで、養殖DXに対する期待も大きい。養殖業では効率化をともなう生産量の大幅な増加が求められている。
このようななかNTTドコモは、ベンチャー企業などともタッグを組んで、さらなる養殖DXを目指す。超音波やAIを使って生簀内の魚体長を測定するシステムや、水温の変化を1時間単位で予測する海況シミュレーションなどと、外部連携によって自社の「養殖管理クラウド」や「ウミミル」のアップグレードを進めている。ROVの映像データも、将来的には一元管理を目指すという。
山本氏は、「私がICTブイの開発を始めた頃は、ICTに投資する補助金はほとんどなかったが、ここ5年でようやくスマート水産業という言葉が出てきて、国もスマート水産業を重要政策に掲げ、データ活用を推進する補助金等も整備されてきた。さらに10年後には、いまとは全く違う世界が、この漁業の世界にもできているかもしれない」と話した。
藤川理絵の水中ドローン最前線
vol.1「水中ドローン」とは
-2021年版 水中ドローンの役割、効果、市場規模、課題と今後の展望まとめ-
vol.2 海洋ビジネスと水中ドローン
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vol.3 福島ロボットテストフィールドの活用
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vol.4 水中ドローンニュースまとめ(2021年1月~3月)
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vol.5 「陸側」での水中点検事例
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水中ドローンビジネス調査報告書2021
執筆者:藤川理絵、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:172P
発行日:2020/12/23
https://research.impress.co.jp/rov2021