NTTドコモ(以下、ドコモ)は、東京大学大学院 情報学環 中尾研究室(以下、東京大学)と共に、第5世代移動通信方式(以下、5G)による大容量・低遅延通信と水中ドローンを活用した漁場遠隔監視の実証実験を行い、2019年11月22日(金)に成功したことを、2019年11月27日発表した。

 水産業界では、情報通信技術(以下、ICT)を活用して海中の状態把握を実現し、労働者の負担を削減することが期待されている。例えば、遠隔から漁場の状況が常時観測可能になれば、魚の養殖現場で餌やりの作業を行う効率的なタイミングを把握することが可能となる。他にも、カキの養殖現場で海中の状態が把握できれば、いかだ上でカキを確認する方法に比べ、成育状況の把握が効率化されるだけでなく、産卵の把握や幼生の浮遊状況も確認できるため、カキの養殖技術の底上げが期待される。

 これらを実現するためには、映像を介して海中を視覚的に把握する手段が有効である。これまでもドコモは、海中の状態把握に向けてさまざまなセンサーで収集したデータを活用するIoT(モノのインターネット)の取り組みを実施してきたが(※1)、この取り組みに加えて海中の高画質な映像を生産者の元へリアルタイムに届けるソリューションが新たに必要になる。

 そこで、映像による海中の状態把握に向けて、ドコモの5G技術と東京大学の水中ドローンによる遠隔監視システムを活用した実証実験を行った。5Gは海上通信にて利用する。5Gの大容量通信により、水中ドローンが撮影する高画質な映像をユーザーのアプリケーションへ伝送する。また、5Gの低遅延通信により、映像伝送に並行してタイムラグのない水中ドローンの操作を実現し、海中の状態把握を行う。さらに、波の影響を受ける海上での安定した5G通信に向けては、2018年5月21日報道発表の「海上で5G技術を使った4K映像伝送」の取り組みで実装したビーム追従機能(※2)を活用している。

 今回、広島県江田島市のカキ養殖場にて、実験用の5G基地局・移動局(※3)を用いて、水中ドローンを遅延なく操縦しながら高画質な映像を伝送する実証実験に成功した。水中ドローンで撮影する映像伝達に5Gを活用する取り組みは水産業界初であり、水産業の生産性向上への貢献が期待される。同実験では、上りリンク(※4)最大約300Mbpsの伝送速度で海中の映像を伝送しつつ、タイムラグのない水中ドローンの操作を達成した。

 ドコモは、今後も5Gの活用による地方創生への取り組みとして、さらなる水産業の業務効率化をめざし、水上の通信インフラ開拓に取り組んでいく、としている。

※1 岩手大学とドコモがICTを活用した地域創生の推進に関する連携協定を締結(2018年7月25日)https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2018/07/25_02.html

※2 移動端末の動きに合わせて電波の方向を変えることにより、安定した通信を実現する機能。参考:海上で5G技術を使った4K映像伝送に成功(2018年5月21日:PDF 514KB)https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_180521_02.pdf

※3 エリクソン製の5G実験用基地局とインテル製の5G実験用移動局を使用

※4 移動局から基地局への通信

実証実験の概要

1. 実証実験内容

 映像による海中の状態把握に向けて、5Gと水中ドローンを活用した漁場遠隔監視の実証実験を行った。具体的には、海上に停泊させた小型船舶に5G移動局を設置し、5G移動局装置に有線で接続した水中ドローンをカキ養殖場の海中へ入れた。水中ドローンのカメラで撮影した海中のHD映像を陸上の5G基地局に向けて無線伝送しつつ、並行してタイムラグのない水中ドローンの操縦信号を、5G基地局から5G移動局に向けて無線伝送した。船舶は、カキ養殖場の筏設置場所に合わせて基地局から100m〜150mの範囲に停泊させた。

2. 実験期間
2019年11月18日(月)〜2019年11月22日(金)

3. 実験場所
広島県江田島市 やながわ水産

4. 使用周波数帯
28GHz帯(帯域幅:366MHz)

5. 実験イメージ

実験構成
やながわ水産の陸地に設置した5G基地局と、船舶に搭載した5G移動局
船舶のデッキ上の5G移動局
水中ドローンを操作している様子(東京大学 中尾彰宏教授)
水中ドローンで撮影したカキの映像(アプリケーション画面)
同実験に関する東京大学の研究開発

6. 実験装置仕様

実証実験装置・機器の主な仕様
5G基地局装置・2×2MIMO
・Massive MIMO(各偏波64素子)
・垂直・水平偏波に対応したアンテナビームを送信
・ビームフォーミング機能
・ビーム追従機能
5G移動局装置・垂直・水平偏波に対応したアンテナビームを送信
・ビームフォーミング機能
・ビーム追従機能

7. 各者の役割

企業名役割
ドコモ・5G無線伝送装置の提供
・5G無線通信環境の構築/オペレーション
東京大学・5G大容量・超低遅延通信の品質計測
・遠隔監視システム(通信システム、水上ブイ、水中ドローンまたは水中カメラ、水中ドローン、その他漁網や魚などを含む)の開発
・Wi‐Fi制御機器(スマートフォンからWi‐Fi制御する水中ドローンなど)の制御範囲を5G通信により透過的に拡張する通信制御方式の研究開発