今年1月に発生した能登半島地震で、イームズロボティクスは現地での空撮やドローンメーカーとの調整、防災科学技術研究所が開発したシステムを活用した災害対応機関へのオルソ画像の共有など、多岐に渡る活躍を見せた。自らも真っ先に現地入りし、各種支援に当たった同社の代表取締役社長曽谷英司氏に、現地での活動や自身が感じた課題についてうかがった。

災害対応機関にオルソ画像を提供

――まずは御社が能登半島地震支援に参画された経緯を教えてください。

曽谷:もともと弊社は、DMAT(厚生労働省による災害医療チーム)とともに緊急時のドクターヘリとの連携や、血液輸送といった実証実験を積み重ねてきた経緯があり、地震発生直後からDMATに対しては「何か手伝えることがあれば」という話はしていました。そんな中で地震発生から1週間後の1月8日、国土交通省と経済産業省から「孤立集落への物資輸送をしてほしい」と連絡が来たのです。そこで翌9日、ともにドローン物流を主としたさまざまな実証実験を進めてきた佐川急便と現地入りし、10日に石川県庁に設置されたDMAT調整本部に入り、災害支援を始めました。

 ただ、やはり県庁のある金沢市にいるだけでは、被災地の実態やニーズが掴みきれません。そこで「やっぱり被災地に行くべきだ」と思うようになり、14日にまずは私1人で輪島市に入りました。震災発生から2週間ほどが経過していましたが、現地は道路が陥没して家は倒壊したままで、海岸は隆起している大変な状況でした。ドローンを飛ばすうえでも、モバイルネットワーク回線が入らないことに加え、地形が変わってしまっているためGPSも受信できない場所がありました。おまけに風速10mを超えることもざらで、雨や雪も頻繁に降るなど、ドローンを飛ばすに当たっては、“最悪”と言っていい環境だと痛感しました。

――現地ではどのような支援を行ったのでしょうか?

曽谷:現地では、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)とも連携しながら飛行を実施しました。具体的には、弊社が開発した中型機の「UAV-E6106FLMP」 3機と佐川急便に納品した大型機である「UAV-E6150MP」1機を用い、壊滅的な被害を受けた港や海浜辺の状況の変化を確認するために飛行し、撮影した画像をオルソ化しました。

 そのほか、私が日本産業用無人航空機工業会(JUAV)の理事を務めていることもあり、関係を深めたほかの企業との調整作業を担当することもありました。弊社に寄せられた依頼でも「他社さんの機体のほうがこの目的には適している」と思えば他社に協力を依頼。双葉電子工業やスペースエンターテインメントラボラトリー、ANA・伊藤忠など複数の企業にご協力いただきました。

 画像のオルソ化に関しては、自社だけでなく協力を依頼した他社の分も併せて実施しました。そして防災科学技術研究所(防災科研)から提供していただいた、災害対応機関のみが閲覧可能なWebサイト「ISUTサイト」に「SIP4D」を介してデータをアップ。いまの被災地の様子を、どんどん地図上に貼り付けていきました。各関係機関が被害の状況を3次元で見れるようにし、「この道は通れる」「ここは土砂崩れが起きている」といったことが一目でわかる状態にしました。

ドローンの活用には課題が山積

――ISUTの使い勝手はいかがでしたか?

曽谷:私たちとしても、もともとISUTを使うとは思っておらず、たまたま石川県庁にISUTの研究開発責任者がいたことから話をする中で利用させていただく運びとなりました。ついてはすべてのドローンメーカーがISUTを利用したわけでもなく、限定的な形での活用ではありましたが、ドローンで撮影した画像の情報をすべての災害対応機関が共有できる仕組みがより強固なものになれば、さまざまな作業がもっと早く進むだろうと感じました。

 たとえば、まずは現状把握のために発災後すみやかにドローンが飛行し、撮影した画像をSIP4DにアップしてISUTで共有する。そして防衛省や自治体がそのデータを活用して救助活動を行う。その後、インフラ会社などがそのデータを基に復旧作業を進めていくーといった流れです。復旧作業以外にも、現地では空き巣の報道などもあったので、巡回の用途などでも活用できるでしょう。

――そのほか実際に運用してみて、どのような面で課題を感じられましたか?

曽谷:課題はさまざまな面で感じました。大きくいえば、まずは人命救助に向けた状況把握の遅さです。今回の能登半島地震では、被害の全容を把握するまでに相当な時間がかかりました。そこでこのような広域災害が起こった際には、まずは広域用ドローンなどで全体を撮影し、オルソ画像化して全体の状況を早期に把握することが重要だと感じています。

 次に仕組みの面。今回はJUIDAが中心となって自治体などのニーズをヒアリングする形となりましたが、仕組みとしてできあがっているものがあるわけではありません。今回も、現場からニーズとして上がってこなかっただけで、潜在的なニーズとしてはもっとあったはずです。弊社から協力を依頼した企業のみなさんも、本当に快く引き受けてくださいましたが、どの企業も「いつでも協力するつもりでいるけれど、要請がないから動けない」との思いを抱えていたように思います。

 もちろん自治体からニーズを引き出すためには、そもそも「ドローンで何ができるのか」を自治体に理解してもらう必要があります。ただしどれだけ平素から意見交換していたとしても、いざ災害が起こったときに、ドローンに対するニーズを集約する役割を自治体に求めるのは酷でしょう。やはり、内閣府や防衛省といった第三者機関がニーズを集約する仕組みを構築するべきだと思います。

 またドローンメーカー側も、今後はたとえばJUIDAとJUAV、日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)が連携し、「JUIDAが全体を統括、JUAVがドローン関連企業と調整、JUTMが航空調整を実施する」といったフレームワークをつくることも必要だろうと感じています。

 仕組みの観点では、ドローン関連企業の活動にお金が支払われる制度も策定すべきだと思います。今回実を言えば、医薬品配送だけは国の制度に則りお金を出してもらうことも可能でした。しかし、それ以外の物資輸送や空撮に関しては一銭も出ないので、公平性の観点から一律で受け取らなかったという背景がありました。

 私も現地に行ったからこそわかりますが、現地は余震が起こり、水も十分に使用できず、非常に寒い環境でした。個人としても企業としても「何とか被災地を支援したい」という強い気持ちはあるものの、経営者としては、そのような環境に従業員を送り出すことに不安もあります。また危険を冒して作業してくれた従業員に対しては、危険手当も支払わなければなりません。決して「震災で儲けよう」とは思っていませんが、実費程度は国や自治体から出る仕組みがなければ、長期的な支援が難しいというのが実情です。

 次が通信。まずこのような大規模な災害が起きた際には、「LTEが使えない」という状況を前提として考える必要があるのだと考えるようになりました。 LTEが入らないと、どうしても目視外飛行は難しくなります。そのため、Visual SLAMで飛行したり、衛星通信で画像を送ったりといったやり方も大いに検討する余地があるでしょう。

 また通信に関連して、LTEが入らないような局面では、被災地の真っただ中にいる人たちともなかなか連絡が取れません。そこで今回は、たとえば輸送の前に衛星電話をパラシュートで落として現地の困りごとをヒアリングする作業の必要性などについての声も上がりました。医薬品輸送では、薬剤師らの指導が必要となる要指導医薬品をどうやって届けるのかも考えなければいけません。

 もちろん、機体の性能についても改善が必要です。たとえば風速10mで雨雪が強い環境でも飛べるような頑強さや編隊飛行の高度化といった性能の向上のほか、輸送に関しては置き配機能やつり下げ機能を拡充していくことも必要でしょう。編隊飛行については、いまの技術でも100機のドローンをただ飛ばすことは可能だと思いますが、本当に100機を一度に飛ばすことで撮りたいものが撮影できるのか、電波障害は起きないのかなど、さまざまな確認事項があります。

国、自治体、ドローン関連団体を巻き込んで議論を進める

――今後、どのように課題の解消に向けて進めていく予定でしょうか?

曽谷:もともと2022年時点で、福島イノベーション・コースト構想推進機構が総合研究奨励会および日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)に委託する形で、災害時におけるドローン活用のガイドラインを策定していました。今回の能登半島地震の後、改めてガイドラインを読み直しましたが、基本的な方向性は間違っていないと感じた一方で、具体的に決められていないことも多く、やはりいま挙げたような課題に沿ってブラッシュアップしていくことが必要だと感じました。

 たとえば空域調整についてはしっかりとその必要性を記載している一方、実際に誰がどうやるかまでは落とし込めていませんでした。また、策定当時はまだSIP4DやISUTといったシステムがなかったので、そういった仕組みをガイドラインに取り入れることで、より使い勝手がよくなるはずだと思っています。そのため、すでにJUTMとの意見交換なども進めようとしていますし、今後内閣府や防災科研とも積極的なやり取りを行っていくつもりです。

――今後、さらなる実証実験も行っていくご予定でしょうか?

曽谷:そうですね。どれだけ立派なガイドラインをつくったとしても、それだけで「災害時にガイドライン通りに進めることができた」というのは現実的ではありません。やはり自治体と実証訓練を繰り返し、実際に使える形にしていくことが必要です。その取り組みに当たっては、全国の自治体と防災協定を結んでいる佐川急便の力もお借りすることになるでしょう。もう少し災害時のドローンの運用の在り方を整理できたところで、私たちのほうからも国や自治体に働きかけていければと思っています。