令和6年能登半島地震の被災地支援では多くのドローンが活躍した。その一社として、石川県輪島市から支援要請を受けたエアロセンスは、2024年1月18日から24日の間に被災状況の調査を実施しており、国内製品としては数少ない固定翼機(VTOL)を使った調査が行われた。実際に現地での調査を行った同社の担当者にドローンの有用性について伺った。
住民にとって日常の生活基盤となる道路や港の被災状況調査を実施
エアロセンスは自社開発の垂直離着陸型固定翼機(VTOL)「エアロボウイング」や、マルチコプター型の「新型エアロボPPK」などを販売し、これに画像処理のためのクラウドサービスなどを組み合わせたソリューションを提供している企業だ。当初はエアロボによる写真測量を主として事業展開を開始したが、2020年のエアロボウイング発売を機に、長距離、広域の点検といった分野にも事業を拡大している。
令和6年能登半島地震の地域支援には、ドローン開発メーカーや運航会社をはじめとした企業が参加しているが、発災直後はドローンの飛行が危険を及ぼすとして規制されていた。その後、地方自治体が情報収集の手段としてドローンの活用を検討することで、業界団体である日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が現場の指揮を執り、その要請に応じて各企業が参画するに至った。
要請時の心境をエアロセンスの事業統括部 統括部長 野村氏は、「地震の一報を受けたときから、ドローンの開発メーカーとして貢献できることが多々あるのではないかと感じていました。要請を受けた時には、社長以下社員全員が被災地に赴くことに迷わず賛同しており、すぐさま派遣する担当者の選定と日程の調整が行われました」と振り返る。
そして野村氏は、同社のセールスオペレーションユニットの山形氏とともに、2024年1月18日から24日の間に輪島市や珠洲市での調査を開始した。東京から富山県魚津を経由して輪島市に向かったという。当時の被災地の様子について野村氏は「輪島市内を歩いてみると、家屋が倒壊し地面が割れるなど、非常に深刻な状態が伝わってきました」と語った。
ドローンによる同社の支援活動は、震災から約3週間が経過した1月20日から本格的に開始された。調査内容は、1つ目が生活道路の被害状況を把握し、陸路から支援するための道を確保すること。そして、2つ目が被災者の捜索だ。調査地域は、輪島市内の生活道路とされる4つの農道及び林道と、珠洲市の蛸島漁港の5カ所。農道及び林道にはエアロボウイングを使用し、蛸島漁港では新型エアロボPPKが使用された。
「沿岸部の国道や県道の被害状況の確認が優先されており、生活道路である農道や林道は後回しにされがちでした。しかし、これらは多くの住民にとって日常の生活基盤となっています。市はこれらの道路の被害状況の把握に課題を感じていました」と野村氏は言う。
エアロボウイング×画像解析クラウドによって、必要な情報を迅速に共有
同社はドローンの販売以外にも、写真測量のデータから自動的にオルソ画像を生成するクラウドサービス「エアロボクラウド」を提供している。農道及び林道の調査では、エアロボウイングで写真を撮影し、路面の陥没やひび割れなどの状況を把握するため、市に対してオルソ画像や撮影データを提供した。
今回、調査を行った農道及び林道は、山中にある紆曲のある道路だ。VTOLとマルチコプターとの使い分けについて野村氏は、「VTOLの特長は滑空しながら短時間で長距離飛行が得意なことにあります。一方、狭い範囲で小回りが求められる運用などはマルチコプターが有利です。今回調査した場所は、数kmにわたって紆曲のある道路でしたが、縦長の道でしたので、VTOLを使って少ないフライト回数で撮影を試みました」と説明した。
なお、エアロボウイングとエアロボクラウドを使った例では、5kmの距離を調査する場合、情報収集時間は離陸から着陸まで約15分で終えることが可能だ。これに加え、データのアップロードや解析時間としてオルソ画像の生成に約40分が必要とされる。今回の事例では、目視外飛行で一度に隣接する複数の調査箇所を飛行して周ったという。また、エアロボウイングは通信にモバイルネットワークを採用している。発災当初は、通信不良などの影響を受けていたが、通信キャリアが迅速に復旧作業に取り掛かったため、調査時にはすでに復旧していた。
野村氏は「不安定な天候で様子を見ながらの運航もありました。晴れた日には、午前中だけで2カ所を飛行させることができました。陸路でアクセスが困難な場所でもモバイルネットワークを使った遠隔制御が可能ですので、VTOLは災害対応にも有効だという実感を得ました」と語った。
蛸島漁港ではマルチコプターの新型エアロボPPKを使用し、同様にオルソ画像の生成を実施している。蛸島漁港の周辺調査は、エアロボウイングで調査した直線的な地形ではなく、面的な小回りを必要とする地形だったため、使い分けて調査を行ったという。