令和6年能登半島地震の被災地支援において、ドローンの活用が注目されている。この動きの中で、Liberaware(リベラウェア)は2024年1月6日から7日にかけて、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)と協力して輪島市の要請に応え、同社のドローン「IBIS 2(アイビス2)」を使用した支援活動を実施した。現地での活動の様子について、Liberawareスマート保安事業部の長谷川 大季 氏に聞いた。

輪島市の要請を受け、JUIDAと協力して支援活動を開始

 2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震に際し、Liberawareでは支援を考えていた。そして1月4日、輪島市がJUIDAに支援要請をしたことから、Liberawareもこれに協力することとなった。

 長谷川氏は、東京・千葉から参加するメンバーたちとともに、屋内点検用の小型ドローンであるIBIS 2(6機)のほか、ポータブルバッテリー、水や食料といった必要資材を持ち込み、1月5日の夜に金沢市に到着した。翌朝、1月6日の午前3時45分に金沢市を出発し、輪島市に向かった。通常は2時間半ほどで到着する距離であったが、土砂崩れなどの影響で交通規制もあり、到着したのは午前9時30分頃と、約6時間もの時間を要したという。この状況からも、現場は大きな混乱状態にあったことが伺える。

 現場では、Liberawareと同様にドローンによる支援を行う民間企業が複数待機しており、消防や警察、自衛隊などの要請によってドローンを飛行させるといった組織構造が築かれていた。ところが、初日には具体的な飛行要請がなかったという。長谷川氏は「大規模災害においては、ドローンの具体的な活用や実績がないため、どのようにして役立てられるのか、どういった情報を取得できるのかという認知と理解が行き届いていなかったのだと思いました」という。

ドローンの調査で被災者の安心を確保

 その後、長谷川氏らは自主的にできることを探すべく被災地や避難所を訪問した。現地の知人や被災者の話しを伺っていくと、倒壊した家屋の調査を依頼された。この家屋は、1階が大きく損壊し、2階も崩壊するほどの被害を受けており、人が立ち入ることが難しい状況であった。持ち主はすでに避難していたものの、貴重品などが残されており、不安があって調査を依頼したのだ。

「被災者の中には、金庫や権利書などの貴重品を残して避難せざるを得なかった方が大勢いました。その一方で、貴重品の盗難が横行しているという実情があったのです。ドローンの飛行は条件に応じて規制がありますが、家屋などの敷地内であればオーナーの許可によって飛行可能です」と話す。

使用した小型ドローンIBIS 2。

 使用したIBIS 2は、外形寸法194mm×198.5mm×58mm、重量243gと超小型な機体だ。屋根裏や配管の内部など、人の目で確認することが難しい狭小空間の点検を主な目的として開発されている。そのため、倒壊した家屋であっても柱などの隙間を縫うように飛行することで、内部の状況を確認することができる。貴重品がしまってあった棚などに異常がないことを確認するとともに、家屋の外観や内部の状態を動画で撮影していった。結局、長谷川氏らは2件の家屋を調査したという。

家屋に侵入するIBIS 2。

 また、長谷川氏は家屋内部の様子を確認するほかに、新たな活用が見えてきたと話し、「自然災害で家屋が被災した場合、その損傷具合を証明するために、管轄の消防局が罹災証明書を発行します。ドローンで撮影した映像がその証明に使えるという意見がありました。通常は災害調査士が実物を確認しますが、ドローンを使うことによって危険な建物内に入る必要がなくなり、調査の効率も向上します。罹災証明書は保険手続きなどに役立ち、ドローンは多くの不安解消につながると思いました」。

家屋調査、施設・設備点検、捜索活動への有効性とドローン活用の課題

 1月7日には、商業施設や電力設備の点検を行った。商業施設では損傷があるものの、幸いにも倒壊に至っていなかったという。そこで、数時間おきに余震が続く状況で、二次災害のリスクを確認するために、柱や梁などの調査を行った。また、電力設備では、損傷状況を確認し、今後の復旧に役立てるという。後日、Liberawareは電力設備をさらに詳細に点検している。

被災して損傷した商業施設。
二次災害に備えて商業施設の点検を実施。

 Liberawareは、1月8日に金沢市に戻り、ガソリンや飲料水、生活雑貨など被災者の救助につながる資材を寄付した。救援時間は短期間ではあったものの、災害時のドローン活用が非常に有効であることを実感したという。長谷川氏は「IBIS 2は狭い所へのアクセスが良く、障害物に接触しても落下しにくいので、安否不明者の捜索にも使える可能性があります」と述べた。

 ドローンの活用が有効となる一方で、課題は行政との連携にある。ドローンが被災時に各方面で役立つことが実証されたが、自治体や行政機関、さらには一般市民を含め、それらの有用性を重要視しているのは極一部に過ぎない。もちろん、国の推進による消防へのドローン導入や、自治体と民間企業による防災協定など、ドローンを有効的に活用しようという動きはみられるが、実際に大規模な災害が発生した場合、そこでドローンを導入する具体的なイメージがないのだ。

 長谷川氏は「安否不明者の生存に対するタイムリミットは、おおよそ被災後72時間と言われています。我々の小型ドローンは瓦礫を動かさなくても調査が可能です。今回の実績を踏まえて現地の安否不明者捜索本部にドローンの活用を提案してみると、とても前向きで良い反応を得られました。ただし、航空法や消防ヘリなどとの兼ね合いなど、厳守すべきルールによってすぐさま使用するというのは難しい状況にあります。また、被災直後の現場は混沌としていますので、ドローンを使用するか否かの判断まで考えが及びません。そのため、災害マニュアルに組み込むなどドローンの使用がスタンダードな状態になっていないと、活用は難しいのではないかと思います。しかし、あらかじめ被災した現場でドローンをすぐに導入できる体制が構築できていれば、調査時間の短縮や危険性の排除などで、一定の成果をあげられると肌で感じました」と語った。

 続けて、「我々1社だけでなく、業界全体が協力してルールメイキングを行い、普及活動や各機関との対話などをしていかなければならないと考えています。自然災害が発生したときに、町およびインフラの復旧を促進するためにも、ドローンがより効果的に活躍できる環境が整えられることを期待しています。私たちも今回の経験を活かし、今後の活動に反映してまいります」と話した。