ブルーイノベーションは、3Dマッピング用LiDARを搭載した屋内点検・測量ドローン「ELIOS 3」に取り付け可能な、超音波による板厚点検装置となる専用ペイロード「UT検査ペイロード」の運用サービスを2024年5月7日より提供開始することを発表した。

ELIOS 3専用「UT検査ペイロード」の開発背景

 もともとELIOSシリーズの初代機ELIOS1は、東日本大震災後の福島原発事故をきっかけに設立されたスイスのFlyability社が2016年に開発した機体だ。ELIOS1の開発を機に、ELIOSシリーズはプラントや橋梁、上下水道、インフラなどの狭小空間及び人がアクセスしにくい施設で操作性・安全性・撮影性能共に優れた点検特化ドローンとして開発が進められている。

 2022年に公開されたELIOS 3は「『みる』から『はかる』」をテーマとした、リアルタイムで点検・計測が可能なドローンとして、施設や設備をまるごとデータ化する3Dマッピング機能を搭載している。

 プラント施設やインフラ施設、工場、船舶ドックなどでの点検作業は、足場を組んだり特殊な機材を使用したりする必要があり、多大な時間とコストがかかるという課題を抱えていることが多い。加えて、高所での作業は危険を伴うため、点検を行う作業者の安全性も懸念材料になりがちだ。

 このような屋内施設の点検業務における課題を解決するために、Flyability社は超音波厚さ計の大手メーカーであるCygnus Instruments社と連携し、「測る」ELIOS 3が超音波点検により「診る」ことができるようになるUT検査ペイロードを開発した。

UT検査ペイロードの特徴

 UT検査とは「超音波探傷試験(Ultrasonic Testing)」の略称であり、点検対象を破壊せずに超音波で破損状況や形状などを推定する検査のことを言う。

 ELIOS 3にUT検査ペイロードを搭載することで、目視検査、3D測量、UT検査の3役をすべて1台で対応可能である点を押さえておきたい。UT検査ペイロードを導入すると、各点検の計測状況をリアルタイムで確認可能な、効率及び安全性が共に優れた点検業務を現実化できる。

UT検査ペイロードの搭載機能

 ブルーイノベーション代表取締役の熊田氏によると、ペイロードは、モジュール式のプローブヘッドを使用して触診が可能であり、ジェルを使用して超音波検査を行うためのカプラントディスペンサーが搭載されているとのことだ。

 また熊田氏は、点検対象を清掃するモジュールの搭載も可能で、汚れた表面やサビのある箇所にも対処できると説明した。主に搭載されているパーツやモジュールは、以下のようなものが発表されている。

モジュール式のプローブヘッド(交換可)
プローブアーム
カプラントディスペンサー
清掃用モジュール

 プローブヘッドは2MHz、5MHz、7.5MHzから選択可能で、周波数が高くなるにつれてより薄い材質の点検を実現し、強力な磁石により点検時の安定性向上に寄与している。プローブヘッドとELIOS 3のガード部分を接続するプローブアームは、狭いマンホールの通過時や複雑な空間内での飛行の妨げにならないよう、引っかかりがなく折りたたみ可能な設計だ。

 カプラントディスペンサーは、超音波の伝達を容易にするジェル状のカプラント(接触媒質)をプローブと点検対象の間に供給し、点検に最適な状態を保つ。

 清掃用のモジュールは汚れた表面やサビのある箇所を点検する際に活用される機能であり、サビや汚れがあっても点検が可能になり、点検の正確性を担保できる。

 また、UT検査ペイロードはA-Scan機能による時間と超音波信号の振幅をリアルタイムで確認することも可能だ。

パイロット目線でのUT検査ペイロードにおける搭載機能

 パイロット目線での機能としては、位置確認用のレーザー光による照準機能が搭載されており、接続を確認しながら点検できる。プローブアームは上方向や前面、下方向への取り付けが可能だ。

 そして、パイロットのモニターには対象物の映像やレーザーポインタの照準、ジェルの残量、照射している超音波の波形や計測された厚さなどの計測情報がリアルタイムで表示される。

 点検後には収集したデータやELIOS 3自体で収集できる3D点群データを組み合わせることで、より実際の状況を把握しやすくするための空間情報を取得できるようになる。

UT検査ペイロードの展開模様、使用シーン、導入について

 UT検査ペイロードは、発電所、化学プラント、オイル・ガス施設、インフラ、海事産業など、アクセスが困難または危険な場所での使用が想定されており、すでに国内では300以上の現場での導入実績がある。

 特に日本市場では、鉄鋼関連施設からのニーズが高いとのことだ。

 各業界へのドローン導入により人手不足の解消や安全性の向上が期待される一方で、価格や新しい技術への抵抗感が導入の障壁となりがちである。しかし、行政から定められた周期的な検査ニーズに応えるためにも、UT検査ペイロードの導入が進みやすくなるだろう。

 ブルーイノベーションは、ドローンとロボット技術を駆使して社会課題に取り組むロボット・システムのプラットフォーマーとして、UT検査ペイロードにおける運用サービスを5月7日から展開するとのことだ。ペイロード自体の販売開始は7月を予定している。

 なお、4月10日~12日に東京ビッグサイトで開催されたSea Japanでは、ELIOS 3 UT検査ペイロードの実機展示およびデモンストレーションが行われた。

 UT検査ペイロードの普及により、高精度な点群データの取得と分析機能の導入が実現し、今後ますます点検作業の効率化が図られるだろう。