能登半島地震の支援のため、真っ先に被災地入りした企業の一つがブルーイノベーションだ。1月上旬に支援を開始して以降、同社は計3回にわたり石川県輪島市を訪れ、多様な支援を実施。現地での活動や直面した課題について、ソリューション営業3部部長の柴﨑誠氏と、ソリューション営業2部の島袋克也氏にうかがった。

地震発生5日後に活動開始

――最初に、御社が被災地支援に参画された経緯を教えてください。

島袋:最初は1月4日に日本UAS産業振興協議会(JUIDA)から支援要請があり、その申し出を受諾した形です。このとき、弊社のほうからも親交の深いドローン関連企業に支援のお声がけをしています。行くことが決まったときにはまだ現地でどのような作業ができるかもわかっていなかったので、弊社が取り扱っているFlyabilityの「ELIOS 3」やDJIの「DJI Matrice 30」など4つの機体をトラックに積み込み、出発しました。

 5日には現地に入りましたが、道中はあちこちで陥没がみられたり土砂が道に流れ込んでいたりと、到着するのも一苦労でした。そうして早速、翌6日から作業を開始したという流れです。

――支援に行くと決めたとき、どういう気持ちだったのでしょうか?

柴﨑:災害時には、孤立地域が発生したり震災後にも土砂災害が起こる可能性があったりと、さまざまな被害が想定されます。私たちには「これまでも災害に向けたソリューションを提供してきた」という自負もあり、震災が起こってすぐの時点から「支援させていただきたい」との気持ちでいました。

島袋:それでも、ここまで大きな被害を受けた場所でドローンを利活用するのははじめての経験。普段の業務とは勝手が違うので、いくばくかの緊張感を抱えて現地に向かったことをよく覚えています。

――能登での支援活動について教えてください。

島袋:ブルーイノベーションとして2月末時点で計3回、支援に入りました。現地入りした初回は1月6日、2回目は1月30日、3回目は2月20日です。初回はJUIDAからの連絡を受け、輪島市内にある土砂崩れにより寸断した道路、孤立した村の情報取集を実施しました。これは自衛隊からの要請で、具体的には「道路が寸断されてしまった先に車が5台あり、そこに取り残されている人はいないか確認してほしい」とのことでした。

 そこで持っていった機体のうち、DJI Matrice 30を使い、人が残っていないかを確認。幸い、取り残された人はいませんでした。続いて、その寸断された道路を実際に足で渡り、その地点からさらに先にある孤立地域の撮影を行いました。目視内と目視外飛行を組み合わせ、1時間ほどの飛行となりました。ちなみにそこには自衛隊のヘリも支援に来ていて、私たちも被災した高齢者をヘリに乗せる手伝いをするといった、ドローンに関係のない支援もしています。

 翌7日には、同市内の2か所において、仮設住宅設置予定地域の被災状況を確認。土地が使用可能な状態にあるかどうかに加え、周辺の道路が寸断されていないかどうかも確かめました。

屋内点検用の「ELIOS 3」で橋梁点検

――2回目、3回目の支援ではどのような活動を行われたのでしょうか?

島袋:2、3回目はELIOS 3を使い、橋梁点検を実施しました。橋の下はGPSを捕捉するのが難しいのですが、ELIOS 3は桁下や橋桁などの非GPS環境下でも安定した飛行が可能であり、球体ガードによる衝突耐性があるので狭隘部に入り込んでの撮影ができました。1月31日には、輪島市の大小5つの橋を点検。通行止めになっている橋もあれば、その上を車が走行している橋もありました。

 飛行はすべて、目視外飛行で実施しています。橋のように入り組んだ構造物の中を飛行するには、目視だと距離感覚をつかむことが逆に難しいのです。コンクリートのクラックやパイプの損傷などを中心に確認し、小さな橋では、3Dモデルの生成用にマッピング飛行も実施しました。

 実施してみて、当初想像していたより損傷がみられなかったことには安心しました。なお、撮影した動画や気になる箇所の静止画は、輪島市役所の土木課に収めています。同課としても、「ドローンでの撮影は有効かつ改修の促進に資するもの」と受け止めていただけました。

――困難さを感じられた点はありましたか?

島袋:ELIOS 3は屋内などのGPSの効かない環境での点検用の機体です。同機は特徴的なガードが付いていることでタフな現場にも対応できる一方で、空気抵抗は受けやすい。風が抜ける橋の下の飛行はなかなか難しかったですね。

土砂ダムの決壊を防ぐドローンポートの活用

――1月30日には、ドローンとドローンポート(BEPポート)を活用した支援も行われています。これはどのようなものでしょうか?

柴﨑:大きな震災などが起こると、その時点では大丈夫であったとしても、その後に雨や雪の影響で土砂ダムの崩壊といった事態が引き起こされる可能性がありますよね。しかし、ただでさえ人手が足りない中、「起こるかもしれない」場所を毎日人が点検するのは効率が悪いですし、もし本当に土砂崩れなどが起こってしまった場合、二次災害に巻き込まれるおそれもあります。

 さらに今回「危険がある」とされた場所は、距離だけでいえば輪島市役所からもそれなりに近いものの、道路が寸断されてしまったために自動車で行くとなると1時間半から2時間はかかります。毎日往復4時間をかけて土砂ダム崩壊の兆候を確認しに行くとなると、その負担はかなり大きなものとなります。

 そこでBEPポートを現地に置いておき、ポートからドローンを飛び立たせて確認することで、効率的かつ安全に監視できると判断しました。なお、このポートとドローンの組み合わせは、すでに仙台市で運用されているものです。仙台市では、Jアラート(全国瞬時警報システム)が流れると自動的にドローンがポートから飛び立ち、スピーカーから避難を呼びかける仕組みになっています。

 今回の支援では、土砂ダム崩壊につながりかねない水たまりが6か所あることを事前に確認しており、その6か所を重点的に撮影しました。飛行ルート、飛行地点は事前に設定しておき、静止画を連続撮影することで約3km四方の範囲で1枚のオルソ画像を作成。前回撮った画像と比較する形で、異変の兆候を確認していました。

――ここではどのような成果や課題を感じられたのでしょうか?

柴﨑:1月31日から巡回飛行を開始したものの、雨が降るなどした中でも土砂ダム崩壊の兆候は見られませんでした。そこで2月6日、飛行を終了しました。今回の地震では、Jアラートの発出から5分後には津波が到達した場所もありましたが、このポートを自治体庁舎の屋上などに設置することで、よりよい防災や災害支援の活動につなげられるということには改めて思いを強くしました。

 ただ一定の成果は得られましたが、震災の影響も相まって現地の電波が弱い点には大きな課題感を覚えました。私たちはもともと、通信キャリアの電波を使用する想定で現地に向かっていましたが、現地で修正する必要に迫られたのです。最終的にはスターリンクを使って遠隔制御することにしましたが、スターリンクはWi-Fiのようなもので、距離が遠くなると電波が届きません。

 飛ばすことはできたとはいえ、当初は定刻になると自動でドローンが飛び立つ想定だったので、それが実現できなかったことについては少し悔しさも覚えます。また電波の話でいえば、飛行申請の関係でも、ドローンを飛行させる前と飛行させた後に必要な電話連絡ができません。電波の問題については、今後さらなる検討を加えていく必要があると思います。

ドローン関連企業が手を取り合って支援に当たる

――今回、複数の企業が連携して支援に当たることになりましたが、いかがでしたか?

柴﨑:災害時のドローン活用で複数社が連携するというのは、実は初めてのことではありません。2021年に静岡県熱海市で起きた伊豆山の土石流災害でも複数社が連携し、数日間支援を行ったという実績がありました。その経験があったこと、また弊社がJUIDAの事務局を務めていることから、市役所などからのニーズを振り分ける際には弊社の社員がプロジェクトマネージャー的な役割を担うこともありました。

 必要な支援は、災害の規模によって変わってきます。極めて局地的な被害であれば1社だけでも大丈夫でしょうし、今回のように被害が広範囲に及ぶものついては、複数社が連携する必要があるでしょう。また、今回はJUIDAが市役所側・企業側双方の窓口となってくれましたが、それも非常によかったと思います。

――今後はどのようなことが求められていると感じているのでしょうか?

柴﨑:私たちとしても何かが起これば協力は惜しみませんが、今後はこのような災害が起こったときにどのようにドローン関連企業が協力し、その活動に対して国や市町村がどの程度保障してくれるのかといったところまで含めた一連の流れをつくっていく必要があると思います。そうなると、ドローン関連企業としてもぐっと動きやすくなるはずです。

 防災ソリューションとしては、改めて大きな災害が起きたときのドローンの有用性を実感しました。これまでの測量といえば、基準点をベースに人が測量するのが一般的でしたが、ドローンであればいち早く現場に行って必要なデータを取ってくることができます。社会の安全・安心のため、今後も防災ソリューションを進化させていきたいですね。