能登半島地震では、多くのドローン関連企業が被災地に赴き、支援に当たった。そんな中で今回の活動における司令塔となったのが、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)だ。今回改めて、支援活動を実施するうえで見えてきたドローンの成果と課題について、JUIDA参与の嶋本学氏にうかがった。

ドローンへのニーズは自ら探す

――まずは改めて、能登半島地震での支援活動に至るまでの流れを教えてください。

嶋本:JUIDAとしては、まず1月1日の地震発生直後に対策本部を設置し、情報収集を開始しました。JUIDAは関東を所掌する陸上自衛隊東部方面隊とは災害時協力協定を締結していたものの、能登半島は同隊の所掌範囲外。そこで一旦出動を見合わせましたが、1月4日に直接輪島市にニーズを確認したところ、「ぜひ来てほしい」との返答を得られたため、JUIDAの会員企業にも支援のお声がけをしたうえで、5日に現地入りしました。

 そして翌6日、市役所内にドローン災害支援本部を設置し、早速活動を開始しました。1月10日には能登半島全域で活動する陸上自衛隊第10師団と災害連携協定を結んだことで、輪島市以外でも航空法上の特例の適用を受けることができるように。14日には珠洲市からも支援要請を受け、同市での活動も始めました。

陸上自衛隊と連携してドローン支援の指揮を執る嶋本参与。

――現地では具体的にどのような活動を行っていたのでしょうか。

嶋本:JUIDAとしての仕事は、①ニーズの収集、②リソース調整、③各関係機関との調整、④各関係機関への報告、⑤広報対応、この5つを一元的に対応するというものでした。JUIDAが直接的にドローンを飛ばしていたわけではありません。

 市役所に着いた当初は積極的に庁内を歩き回り、「ドローンで何ができるのか」「ドローンを飛ばしたいと思ったときに相談できる場所」の周知の徹底を図りました。そのうえで、自分の足でニーズを確認して回り、「それならあの企業が適任だな」と企業に案件を割り振ったのです。最終的に、ボランティアで活動に参加してくれた企業は数十社に及び、調整した各関係機関も市の災害対策本部や消防本部、自衛隊など30機関近くに及びました。

市役所職員や住民から「ありがとう」の声も

――現地でのドローンの活用は想定通りに進みましたか?

嶋本:これほど大規模な災害でドローンを活用した例はこれまでにないので、私たちも「こうしよう」という想定があったわけではなく、手探りで進めていったというのが実際のところです。もともとは、倒壊家屋の多さが報じられていたことから、被災者の救出につながる倒壊家屋の点検ニーズが高いと思っていたのですが、実際にはそのニーズは思ったよりも低かったですね。

 それは到着までに日数が経ってしまっていたことも原因の一つですが、そもそもドローンに対する理解が広まっていなかったことも大きな要因でした。率直に言って、最初はそこまでドローンに対して期待されているわけではないと感じていましたね。せっかく相談が寄せられても、関係機関に相談したところ「それってどれくらい必要性があるのでしょう?」といった議論に終始してしまい、時間が経ったことでそのニーズがなくなったこともありました。

 ただ最後まで理解が深まらない組織もある一方で、一度でも活用してくれたところからは、どんどん相談が寄せられるようになりました。結果として、土砂崩れが起こるおそれがある地域や仮設住宅の建設予定地およびその経路、港や橋梁の確認のほか、孤立地域への医薬品の配送など、さまざまな場面でドローンを活用してもらうことができました。

SkyDriveは、カーゴドローンによる荷物の運搬を行った。

ブルーイノベーションは、ドローンポートを使用して土砂崩れによる二次被害調査を実施した。

――どのような点で活動の成果を感じられたのでしょうか。

嶋本:やはり、被災地域でドローンを活用することがいかに効率的なのかを実証できた点です。まずはドローンで現地の状況を確認し、その後に自衛隊なり消防なり実働部隊が入っていく。その流れで活動すると、自衛隊や消防も限られた人的資源を有効に使えます。

 ほかにはこれまでドローンにまったく関心のなかった人でも、「ドローンが役に立つ」とわかると活用してくれるようになることも経験できました。理解の輪は、市役所職員だけでなく、市民にも広がりました。支援に当たった企業からは「点検をしているとき、近所の住民から『ありがとうございます』と言われた」という話も聞いています。

 活動を進めるうえでは、「ぜひ、わが社も支援したい」と連絡をくださるドローン関連企業も多く、日本の企業・団体の持つ熱量の高さを改めて感じました。また、JUIDAが一元的にニーズ収集・リソース調整を行ったので、被災側・支援側双方の負担を減らすことができたとも感じています。

 また、今回の支援ではたくさんの課題が浮き彫りになりましたが、それは「これが課題だということがわかった」「議論のきっかけをつくることができた」という面では大きな成果です。「できてよかった」ことだけを取り上げても、次にはつながりません。今回わかった課題を解消できてこそ、本当の意味で次につながっていくのだと思います。

災害に対応できるフロー・体制づくりを

――「たくさんの課題が浮き彫りになった」とありますが、どのような課題があったのでしょうか?

嶋本:まずドローンそのものでいえば、航続距離の増加・ペイロードの大型化ですね。今回の支援では、道路の損傷や土砂崩れにより孤立地域が発生し、緊急支援物資や薬の配送を行う場面がありました。実際の配送では1kg程度の薬品を片道10km以内、80ℓ以上の軽油を600m超で運搬しましたが、現場ではそれ以上の航続距離・重さのニーズがあることは明らかです。

 一方で、さらなる小型化へのニーズもありました。「総延長距離100kmにも及ぶ水道管の内部調査をしてほしい」との声もあったのですが、今回持ち込まれた最小の機体は直径20cm。もっと小さな機体があれば、倒壊した家屋の隙間を飛行するうえでも、さらなる効果が期待できるでしょう。

 そのほか今回は、「電波が弱くてドローンを飛ばせない」といった事態も発生しました。大きな災害が起こると、LTEなどの通信網が脆弱になりやすい。そのため、ドローンを飛ばすための電波があるかどうかを事前に確認しにいくという工程も必要でした。災害時のドローン飛行を行うためにも、通信事業者とも平素から緊密に連携し、通信網が復旧しない中でもドローンが飛行できる状態を構築しておかなければならないと感じました。

――人材や組織の観点から見た課題はいかがでしょうか?

嶋本:ドローンによる支援は、単に「ドローンを持っていって飛ばせばいい」という話ではありません。法律を頭に入れたうえで各関係機関と調整することが必要ですし、見るべき場所によって必要となる知識も異なります。支援に当たる人材には、「災害が起きたらこういう事態が発生する可能性がある」「橋梁であればここを、土砂ダムであればここを見る。こうなっていたら危険」などといったところまで、本来は把握することが求められます。

 また、被災地にはご飯を食べられる場所もなければ、泊まれるホテルもありません。そのような過酷な環境にも耐えられる体力も必要です。必要な資質すべてを網羅する必要まではないかもしれませんが、災害時のオペレーションに対応できる人材は意識的に教育していくことが必要なのだろうと思います。

 組織の観点からいえば、これほどまでの大きな災害では、やはり個別企業ではなくドローン関連企業が連携することが重要です。ただ今回は連携のための枠組みが何も決まっていない中で場当たり的に調整を行っていたので、非効率な部分もありました。たとえばDMATのように、災害が起こってすぐに活動できるような組織体をつくっていくことも重要でしょう。

 そしてそのうえで、各関係機関とも連携した有事の際のフローの構築や、自治体などとの共同防災訓練を実施していく必要もあると思います。たとえば今回は「この場所で飛ばしたい」と思ってもその場所の管理者がわからないために聞いて回ったり、本来報告しなくていい機関にまで飛行する旨を報告したりといったこともありました。そういったこと一つひとつを事前に定めておけば、“飛ぶ” 作業に集中でき、効率はより良くなるはずです。

 有事の際のフローを定めておけば、全国どこでも、たとえ災害の規模は変わったとしても、同じ枠組みの中で効果的な支援が可能です。長期的な活動を行うためには、ボランティアベースではなく防災計画への組み入れおよび予算措置も必要ですし、細かい話をいえば今回は市役所のご厚意で活動用の部屋をご提供いただけましたが、必ずご提供いただけるとも限りません。

 そしてそのようにドローン活用を進めていくためには、まず関係機関の全員が「ドローンによる支援は効果的である」という共通認識を持つことが求められます。このように、課題は山積しているのです。

――今後防災支援に対し、どのようにかかわっていくおつもりでしょうか。

嶋本:能登半島地震では、2月に入ってから現地は離れましたが、その後も変わらず寄せられた相談に対してはできる限りの支援を行っています。防災全体の面では、今回浮き彫りとなった課題を解消していくために動いていくつもりです。決して簡単な道のりではないと思いますが、前進すればその分だけ、救われる人が増えるかもしれない。そう思うと、“やらない” という選択肢はないのです。