イームズロボティクス株式会社 代表取締役社長 曽谷英司氏

 ドローン関連企業の代表に最新の取り組みや業界に対する想い、経営の考え方などについてインタビューを行う当連載。第2弾は、イームズロボティクス(EAMS ROBOTICS)代表取締役社長の曽谷英司氏に、型式認証申請の現状とその先の未来について伺った。

 企業名であるイームズ(EAMS)とは、「Engineering for Autonomous Mobility and Systems」の頭文字を取ったもので、同社はオープンソースソフトウェア「ArduPilot」を使ってカスタマイズ性の高いUAV、UGV、USVを開発する日本発の機体開発メーカーだ。2023年内に第一種と第二種の型式認証申請を行い、2024年春以降の販売提供を予定している。

事業の大方針は「メーカーサービサー」

――まず、はじめに事業内容について教えてください。

曽谷氏:イームズロボティクスは、2016年3月にエンルートから分離独立して、機体開発メーカーとして創業しました。当社のドローンは、ベース機は何も搭載されていない製品になっており、顧客の要望やリクエストに応じて、既製品から研究機材までさまざまなペイロードを搭載し、制御することが可能です。

 私が社長に就任してからの事業の大方針は、「メーカーサービサー」というものです。機体をベースにしてサービスを作って提供したいと考えています。このため、リモートIDやLTE通信モジュールなど、機体だけではなくドローンに関連する製品や、リモートIDのリアルタイムまたは履歴のデータを地図上に表示できるクラウドサービスなども、自社開発して提供しています。

 また、例えば風力発電の羽根の先にある避雷針にドローンを接触させて通電確認と抵抗値計測を行うといったドローンもお客様と開発中ですが、そういった顧客のご要望に応じて特注品を作るというのは、当社の得意分野だと思います。

――事業の売上構成比はどのようになっているのでしょうか?

曽谷氏:現状では、ハードウェアが1/3、サービスが1/3、研究機関との共同開発が1/3になっています。

 ハードウェア以外のサービスとしては、他社の機体チューニングや、コンサルティング、運航支援などを提供しています。研究開発は、東京大学や産業技術総合研究所などと共同で、AI活用や1対多運航の実現に向けて、最先端の技術開発を行っています。

 ただし、将来的には、研究開発は減少していくと思うので、ハードウェア4割、サービス6割を目指したいと考えています。

――機体開発において大事にしていることは何でしょうか?

曽谷氏:最も大事にしているのは、「型式認証を取得できる、安全性の高い機体を作っていく」ということです。そして、主なターゲット領域である「物流」「点検」「警備・災害」において、きちんと製品化を進めていきたいと考えています。

型式認証申請の現状と課題

――2023年に物流ドローン「イームズ式E600-100型」の第一種型式認証、同じく物流用途を目的とした機体「イームズ式E6150TC型」の第二種型式認証を申請して、さまざまな展示会でも紹介していました。現在の進捗についてお聞かせください。

第二種型式認証申請中の「イームズ式E6150TC型」。(出典:イームズロボティクス株式会社)

曽谷氏:まずレベル3飛行に適した第二種の機体は、物流分野で協働している佐川急便の実証でかなり実績を積み上げました。現在販売中の大型6枚羽タイプのドローン「E6150MP」をベースにして、型式認証に最低限必要な機能を追加しています。予約販売数は、現時点でまだ十数台ですが、もうすぐ申請が受理されます。レベル3.5での実証も近々予定しています。

Japan Droneや国際ドローン展等の展示会で展示されてきた第一種型式認証申請機体。

 一方、レベル4飛行に適した第一種の機体は、一から新設計しており、展示会に出展した形状とは全く異なる容姿になる模様です。2024年度上半期には予約販売の受け付けを開始する予定です。そして2024年度中には、引き続き東京都青梅市でレベル4飛行の実証を約1カ月の間、毎日飛行させる予定です。佐川急便とは2025年度の社会実装を目標にしています。

――型式認証の取得で、時間がかかることや難しい部分はどういうところなのでしょうか?

曽谷氏:機体の開発と申請書類の整合性を合わせるところに、最初は時間がかかりました。サーキュラーを読み解くのも苦戦しましたし、航空機分野で使われている用語にも戸惑いました。また国土交通省もまだ手探り的なところがあったようですが、申請数が増えるに連れて期間を短縮できると期待しています。

――型式認証において、フライトコントローラーにオープンソースの「ArduPilot」を使用することで、難しい点はありましたか?

イームズロボティクスのドローンに搭載されているオープンソースのフライトコントローラー。(出典:イームズロボティクス株式会社)

曽谷氏:オープンソースのデメリットとしては、セキュリティ面と信頼性がよく指摘されます。しかし、バージョンをアップグレードせずに、固定してメーカーが保証し、サイバーセキュリティについてもサーキュラーに則って対応することで、型式認証を取得できるようになっています。これはアメリカの連邦航空局(FAA)と同じ仕組みであり、ArduPilotだから型式認証のハードルが上がるということはありません。

――ドローンのカスタマイズ性が1つの強みだとされていますが、型式認証を取得したドローンでも柔軟に対応できるのでしょうか?

曽谷氏:現状の型式認証制度では、特に第一種の機体は申請時に定めた用途でしか使えない仕組みになっています。第一種の機体に柔軟にカスタマイズを施すのは、非常に難易度が高いです。少し変更しただけでも型式変更になってしまうため、この点はこれから国土交通省と対話していく必要があるでしょう。

 一方、第二種の機体はそれほど厳格ではなく、例えば1台で物流と点検と農薬散布といった3役、4役での型式認証は可能であると、指定試験機関(日本海事協会)に確認しました。多用途向けのカスタマイズは第二種の機体を中心にしていきたいと考えています。

――型式認証機体の運用について、メーカーとして懸念していることはありますか?

曽谷氏:型式認証機体を運用する上での注意事項が、あまり認知されていないことはまさに懸念しているところです。例えば、メーカーは「これは物流の機体で往復運用できる」「高度60mに上昇してから横に移動する」などの型式認証飛行規定を細かく定義しています。そして、運航者は機体認証飛行規定を自ら作成し、その規定を遵守して運用する必要があります。ただし、このときにメーカーが発行している型式認証飛行規定のエンベロープ内で飛行規定を作成しなければならないということは、あまり知られていません。

 また、定期的な整備点検を行うことや、飛行日誌を作成して整備記録も記載することも義務付けられており、ルールを守らないと航空法違反になってしまいます。このような型式認証機体の運用ルールについては、まだまだ認知度は低いようです。

 メーカーとしては機体販売と併せて講習の実施のほか、機体管理や運航管理を仕組み化したソフトウェアの提供などを通じて、サポートしていきたいと考えています。

――確かに、注意事項があまり認知されていないことは課題ですね。例えば、第一種の型式認証ならどこでもレベル4飛行ができると思われがちですが、人口密集度によって飛行可能なエリアが限られていたりします。

曽谷氏:その通りです。実際に、「第一種の機体だから都会でも飛ばせますよね」という問い合わせはとても多いです。しかし、各社が申請している第一種型式認証の括りでは、人口密度が1キロメートル四方あたり250人以下の田舎と区分される場所でのみ、レベル4飛行が許可されています。第一種型式認証の中にも人口密集度に対する区分が6個あり、現在は一番人口密集度が低い区分で飛行できるドローンしか登場していません。国土交通省と共に周知していく必要があるのではないでしょうか。

(出典:国土交通省ガイドライン)

 また、田舎でのレベル4飛行に区分される第一種の機体は、150時間の耐久テストをクリアすることが求められていますが、耐久テストの時間を増やすことで人口密度がより多い区分での飛行を認めてもらえるのか、そのようなガイドラインも明確にしていく必要があると考えています。

――新設のレベル3.5についてはいかがでしょうか?

曽谷氏:レベル3.5は、第二種の機体と二等の技能証明があれば、人がほぼいないエリアで飛行させやすくなるのは間違いありません。ただし、例えば飛行中のドローンカメラに地上を歩く人が映った場合はどこまで対応すべきなのかなど、正確な見解が不明な部分もあります。やはり機体とソフトウェアをセットで提供することで運用側をサポートしていきたいです。

物流×型式認証 ~SBIRにおける取り組み~

――イームズロボティクスで販売していく型式認証機体は物流用途を目的としていますが、物流の実証に携わる中で感じている課題や展望について教えてください。

曽谷氏:ドローン物流は、5年ほど佐川急便と取り組んできました。現状ではコストが見合わないので、1対多運航でコストを大幅に下げる必要があると感じています。

 これについては国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の採択事業の「ReAMoプロジェクト」で、既存機体に装備可能なリモートIDを使い、飛行中の複数のドローンをクラウドで一元管理するシステムを開発しています。技術的には可能なので、「最低限1対10運航」「1フライト500円」を目標としています。

(出典:ReAMo)

――何が足枷になっているのでしょうか?

曽谷氏:まず、1対多運航がレベル4飛行では認められていないという、制度の課題があります。また、第一種認証機の価格が高すぎるため1機400万円程度までコストダウンを図るのが理想ですが、そこまで下げられないのが実情で、コストの課題が大きいです。さらに、運航管理なども含め、システム化が追いついていないという課題もあります。

――利用者側の社会受容性も課題になっているのでしょうか?

曽谷氏:そうですね。実証では買い物難民の方から「あると嬉しい」という意見を多くいただきましたが、やはり「うちの上空は飛ばさないでほしい」という方も一定数います。ドローンは事故リスクやプライバシーの侵害など、受け入れられていない部分もあり、実績を重ねて信頼を得ていくしかありません。

 しかし、今後ドローンの飛行機体数はおそらく有人航空機の10倍、100倍になると考えられます。航空機と同じ事故率であっても、機体数が多ければ事故件数は増えてしまいます。有人航空機と同じように受け入れられるためには、墜落事故はゼロにはできないけれどもパラシュートを搭載することで大きな事故は防ぐなど、安全性を向上するしかありません。そのためにも物流においては、型式認証が必須になるのではないでしょうか。