ACSLとエアロネクスト、物流領域でのこれまでの歩み

 ACSLは、2020年8月に発表した中期経営方針において、2022年までの売上目標数値を公表している。これによると、2020年度より用途特化型機体の製品化を実現し、2022年度には売上高55億円、営業利益7.5億円を見込む。サブスクリプションを含めた機体販売を大幅に増加し、年間1600台以上の出荷を目指すという。エアロネクストとの契約は大きなマイルストーンだ。

(出所:ACSL 中期経営方針「ACSL Accelerate 2020」)

 2022年度の研究開発費は、2020年度の約2倍にあたる8億円を想定。Visual SLAMや点群処理、3Dモデル化などの画像処理、AI制御、ブロックチェーン、衝突防止や対象認識などのセンシング技術、セキュリティや認証といったソフトウェア領域における制御技術への投資を加速する構えだ。これはハードウェア領域において特許ポートフォリオ群を展開するエアロネクストとの提携に踏み切った1つの背景だろう。

(出所:ACSL 中期経営方針「ACSL Accelerate 2020」)

 物流特化型機体の製品化および量産化は、経営戦略上の鍵となるテーマといえるが、ACSLがドローン物流に取り組んでから早5年が経つ。さまざまなドローン配送実証実験で機体の提供や運航支援を行い、着実に実績を積み重ねてきた歩みを振り返っておこう。

 2016年に楽天が始動したドローン配送サービス「空楽」の専用機「天空」のベース機となる「ACSL-PF1」を開発。同年11月には国家戦略特区である千葉市におけるドローン配送実証実験を、楽天・NTTドコモと成功させた。2017年1月、福島県南相馬市の海岸で完全自律制御による長距離荷物配送の実証実験を行い、海水浴場のサーファーに温かい飲み物を届けた。

楽天「天空」

 2018年11月には日本郵便と、日本初となる目視外・補助者なしのドローン配送を実施。福島県南相馬市と浪江町にある2つの郵便局間を、約9km飛行し話題になった。また、同区間において2019年3月、モバイルネットワーク経由での自律飛行に対応した機体を開発してLTE通信を活用したレベル3自律飛行を行った。

 続いて2019年5月、ANAホールディングス、NTTドコモと、福岡市西区玄界島において海上での目視外飛行に成功。同年9月~10月と2020年1月、ANAホールディングスと長崎県五島市が行った離島間ドローン物流の実証実験では、20日間に渡り黄島・赤島の住人の方から発注依頼を受けた生活物資を福江島から配送した。

長崎県五島市における物資配送の実証実験で使用した機体(左)と航路(右)

 2019年10月、台風19号で孤立した東京都奥多摩において、日本初となる被災地への救援物資ドローン輸送を行ったことは記憶に新しい。これまでの実証実験における実績やチームワークが評価され、東京都からの要請で出動したという。2020年3月には、日本郵便と奥多摩郵便局の配達区間内におけるドローン配送試行で、機体提供と運航支援を行っている。

東京都庁「ドローンを活用した空路による救援物資の提供」奥多摩孤立地域への緊急物資輸送の様子

 一方のエアロネクストは、CEATEC JAPAN 2019で、ANAホールディングスの津田佳明氏とエアロネクストの田路氏が対談したことをきっかけに、物流機体の共同開発へと発展したという。

 2020年5月の「物流ドローンの共同開発に向けた業務提携」では、エアロネクストがこれまで物流用に開発してきた機体をベースに、ANAからの要望に沿った試作機を開発する方針が発表された。

ANAとエアロネクストの業務提携発表で公開された機体「Next DELIVERY」

 例えば、ANAが長崎県五島市の実験で寿司を運ぶときに課題だと感じた「荷物が傾いたり揺れたりしない機体が欲しい」という配送品質の向上をはじめ、離着陸や長期間の運用で必要となるさまざまな機能について、ANAからの細かな要望をエアロネクストが吸い上げて試作機を開発し、複数の機体メーカーとANA仕様の物流特化型ドローンの開発を進めていくという構想だ。

 この時点では、ANAとエアロネクストが構想する座組みにどのメーカーが参画するかは未定だった。また、今回のACSLとエアロネクストの提携においても、具体的な納入先についての明言は避けられている。

 とはいえANAとエアロネクストの量産試作機開発は順調に進んでいるようだ。2020年9月、先端技術と伝統文化の融合を打ち出した羽田イノベーションシティのオープニングイベントでは、ANAとの業務提携発表時に公開した機体「Next DELIVERY」を展示していた。筆者も見学に行ったが、“大型ドローンにANAのロゴ”という存在感は強烈で、道ゆく多くの人々が立ち止まりスマホで機体を撮影していた。