ANAホールディングス株式会社(以下:ANAHD)とエアロネクストは、「物流ドローンの共同開発に向けた業務提携」を5月20日に発表した。今回、ANAHDデジタル・デザイン・ラボ ドローン事業化プロジェクトリーダー 保理江裕己氏とエアロネクスト 代表取締役 CEO 田路圭輔氏が質疑に応えた。また、両社の共同機体開発のたたき台となる、エアロネクスト社製Next DELIVERY ver.2をお披露目した。

ANAHD デジタル・デザイン・ラボ ドローン事業化プロジェクトリーダー 保理江裕己氏(左)とエアロネクスト 代表取締役 CEO 田路圭輔氏(右)、エアロネクスト社製「Next DELIVERY ver.2」(中央)

ANAHDとエアロネクスト、提携の背景

 ANAHDデジタル・デザイン・ラボでは、ドローンおよびエアモビリティの事業化を目指す社内横断プロジェクトを推進しており、2018年以降は物流ドローンの実証実験を繰り返し行ってきた。2019年8月にはLINE Fukuokaと組み、福岡県玄界島で海産物を輸送する実証、2019年10月と2020年1月に行った長崎県五島市での実証では、現地から1000km以上離れた羽田空港での遠隔運航管理にも成功した。

 そうした取り組みの中で浮かび上がったさまざまな課題に対処し、物流ドローンのサービス化を実現するため、今回 “抜擢” されたのがエアロネクストの機体構造設計技術「4D GRAVITY」だ。エアロネクストは、機体の重心制御こそ産業ドローン社会実装の要であるとして、創業当初より4D GRAVITYを搭載した多種多様な試作機を披露してきた。本提携で両社は、エアロネクストの物流ドローン試作機Next DELIVERY ver.2をたたき台として、物流専用ドローンを共同開発する予定だ。

エアロネクストの物流ドローン試作機Next DELIVERY ver.2

 ANAHDが実施した物流ドローンの実証実験では、たくさんの改善点が明らかになったという。例えば、安全に飛ばすということは大前提だが、機体の傾きや揺れによって搭載物の水平性を維持できず、寿司やケーキの形が崩れてしまう「配送品質」の課題が浮上した。ほかにも、風の影響による稼働率低下、電池交換や機体メンテナンスではいかに人為的ミスを減らすかといった、運用に即して機体を再設計する必要性も明確になった。離陸、飛行、着陸まで、いずれの飛行環境下においても機体の姿勢および搭載物を水平に保つことができる4D GRAVITYを搭載することで、配送品質および機体の基本性能向上を図るという。

ANAHDデジタル・デザイン・ラボ ドローン事業化プロジェクトリーダー 保理江裕己氏

 ANAHD保理江氏は、「ANAは機体の設計・開発・製造を手がけておらず、あくまで機体メーカーさんから購入する立場だが、今後はさまざまな地域でいろいろな機体を飛ばすことを目指しているので、我々が現場で得た知見を共有させていただいて、複数の機体メーカーさんとよりよい機体開発を進めて行ければ」と言及した。

 このような中、さまざまな機体メーカーに技術を提供するというエアロネクストのポジショニングも、両社にとって相性が良かった。共同開発においては、まずはANAHDからの飛行性能、離着陸性能、運用面などさまざまなリクアイアメントに沿ってエアロネクストが試作機を開発し、その後は複数のメーカーとパートナーシップを結び、ANAHD向け物流ドローンを複数タイプ開発予定だ。

エアロネクスト 代表取締役 CEO 田路圭輔氏

 エアロネクスト田路氏は、「4D GRAVITY搭載の産業ドローンは、物流のみならず測量、点検、空撮など多種多様な用途の機体を、エアモビリティも含めて国内外で発表してきて、大きな反響をいただいている。しかし、プロトタイプではなく、実際に製品・サービスとして用いられる段階の “技術が実体化した機体” で評価したいという声があった」と明かす。そして、物流ドローンは機体だけでは市場が立ち上がらないことや、4D GRAVITYの有効性を最も必要としているのが物流であることなどを指摘し、「ANAさんや国内の有力な機体メーカーの方々とともに、物流ドローンの産業を作っていきたい」と意欲を見せた。