4D GRAVITY を搭載する意義

 本提携を進めるなかで、保理江氏は田路氏に、「ドローンはいずれ航空機になる」と語ったという。

 「航空機の場合はウェイト・アンド・バランスといって、重量重心は安全な飛行オペレーションにとって必須のもの。我々には習慣として染み付いていますが、ドローンはもともと基本的にはカメラを搭載するところからスタートしているがゆえに、重心はあまり気にされていませんでした。今後、ドローンが離島山間部だけではなく、都市部など人の頭の上を飛び交う未来を考えると、ドローンの性能は航空機に近づいてくると思います。」(保理江氏)

 まさに、重心を加味してドローンの機体構造を設計することで、機体の基本性能を向上させるというエアロネクストの考え方が、 航空業界の “常識” にフィットしたといえるが、田路氏は物流専用ドローンに4D GRAVITYを搭載する意義をこう語る。

 「今回、ANAさんに評価いただいたのは、4D GRAVITYの技術としての伸び代だと思っています。4D GRAVITYは、荷物の水平性を保てるのでドローン配送の品質向上に寄与しますが、最大のメリットは、重心の最適化によってモーターの回転負荷を均一化できることです。理論上は、搭載物は水平のまま機体をいくらでも傾けられるので、強い逆風でも飛行できるなど飛行性能の向上、燃費効率の改善、ひいてはANAさんが最も気にされているであろう稼働率のアップにも有効なのです。」(田路氏)

 共同開発では、半径10km以内を問題なく飛行できる性能を有する、飛行時25kg未満の機体を3~4タイプ製造予定。ペイロードは3~5kg程度を想定する。物流ドローンは1方向に飛行するため、最も合理的な機体フレームとして、進行方向に向かって前後に2本、左右に1本のアームと、その先端に6つのローターを装備する。現在はver.3を検討中で、エアロネクストではver.7まで構想が進んでいるという。

機体と搭載部を切り離した分離結合方式で、理論上はいくらでも機体を傾けて飛行できるという(画像はプレスリリースより引用)
進行方向に向かってアームが前後に2本、左右に1本、モーターとプロペラはそれぞれ6つを備えたヘキサコプター
ボディは前方が高く後方はなだらかに低くなり、空気抵抗を最小化する

物流ドローンを「地域の社会インフラ」に

 今後の展開として両社は、2020年度内に共同開発した機体を用いた実証実験を目指す。ここで用いる機体製造を手がけるパートナーメーカーや、実証実験の候補地はまだ非公表だが、保理江氏は「2022年度には離島山間部におけるサービス化を目指したい」としており、ANAHDがこれまで実証実験を行ってきた福岡市や長崎県五島市はその有力候補地ではないだろうか。

保理江氏は、日本各地の離島を年間20回以上訪問するなど、地域の住民の方々とコミュニケーションを図ってきたという

 保理江氏は、「物流方法が船一択で、買いだめ生活をしているエリアに、ドローン配送が加わることで、一部の需要を早く安く運べるようになる」と話す。人口が減少して税収が少なく、橋などのハードのインフラ構築が難しく、定期船の便数も減っている地域では、ドローンというソフトウェアのインフラ整備がフィットするし、「地域の社会インフラになる」と未来を見据える。

 「離着陸ポートから5~10km圏内が、サービス範囲だと思う」と、保理江氏の社会実装イメージは具体的だ。日本の有人島数は416島(※)であり、いずれも人口減少、高齢化によって、物流のみならず医療などでも “モノを動かす” 需要が高まっている。ANAHDとエアロネクスト、そしてそこに国内ドローンメーカーが加わって、物流ドローンの産業をいかに立ち上げていくのか、今後も注目したい。

(※)国土交通省の資料(平成30年6月13日開催 国土審議会 第16回 離島振興対策分科会 配布資料「日本の島嶼の構成」)