写真:プロポを操作する人の手元

 無人航空機操縦者技能証明(以下、技能証明)の交付件数は、2024年6月30日時点で、一等が1,584件、二等が1万2,498件となっています(国土交通省による)。

 他方、同日時点で型式認証を受けた件数は、第一種が1件、第二種が5件とまだ伸び悩んでいる状況にありますが、今後、技能証明と型式認証機体を用いたドローン運用の進展が期待されるところです。

 このような状況を踏まえ、今回は、技能証明を取得した後に留意しておきたい事項について解説します。

技能証明の取り消し・効力の停止

 技能証明を受けた者が、以下のいずれかに当たる場合には、技能証明の取り消しまたは1年以内の効力停止の事由に該当します。

① 無人航空機の飛行に支障を及ぼすおそれがある病気にかかっていることが判明したとき
② 無人航空機の安全な飛行に支障を及ぼすおそれがある身体の障害が生じていることが判明したとき
③ アルコール、麻薬、大麻、あへんまたは覚醒剤の中毒者であることが判明したとき
④ 航空法、航空法に基づく命令の規定またはこれらに基づく処分に違反したとき
⑤ 無人航空機を飛行させるに当たり、非行または重大な過失があったとき

 以上の5つが技能証明の取り消し・効力の停止事由に該当しますが、これらの具体的な内容は以下のとおりです。

① 無人航空機の飛行に支障を及ぼすおそれがある病気にかかっていることが判明したとき

 この場合に該当する病気として、以下のものが規定されています。

(1)統合失調症
(2)てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害および運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く)
(3)再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう)
(4)無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除く)
(5)そう鬱病(無人航空機の安全な操縦に必要な認知、予測、判断または操作のいずれかの能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く)
(6)重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
(7)認知症
(8)その他、無人航空機の安全な操縦に必要な認知、予測、判断または操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気

 これらに該当する場合でも、6か月以内に当該病気に該当しないこととなる見込みがある場合には、技能証明の取り消しではなく、効力停止とされます。

② 無人航空機の安全な飛行に支障を及ぼすおそれがある身体の障害が生じていることが判明したとき

 この場合に該当する身体の障害として、以下のものが規定されています。

(1)目が見えないもの
(2)四肢の全部を失ったものまたは四肢の用を全廃したもの
(3)その他、無人航空機の安全な操縦に必要な認知または操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるもの(技能証明に条件を付し、または条件を変更することにより、その能力が回復することが明らかであるものを除く)

 (3)の場合で、技能証明に条件を付し、または条件を変更することにより、6か月以内に当該障害が無人航空機の安全な操縦に支障を及ぼすおそれがなくなる見込みがある場合には、技能証明の取り消しではなく、効力停止とされます。

 なお、両手が不自由なため手でドローンの操縦ができない場合でも、両足で操縦することにより技能証明の取得が認められた事例があります。

③ アルコール、麻薬、大麻、あへんまたは覚醒剤の中毒者であることが判明したとき

 これらの場合が技能証明の取り消し・効力停止事由に該当することは、自動車の運転免許の場合と同様です。

④ 航空法、航空法に基づく命令の規定またはこれらに基づく処分に違反したとき

 航空法への違反行為を行った場合には技能証明の取り消し・効力停止事由に該当します。

⑤ 無人航空機を飛行させるに当たり、非行または重大な過失があったとき

 どのような非行や重大な過失があった場合に技能証明の取り消し・効力停止がなされるかについては、現時点では明らかにされていませんが、航空法違反には至らない行為であっても技能証明の取り消し・効力停止事由に該当し得ることに留意が必要です。

 航空法に違反する行為を行った場合や、ドローンの飛行に際して重大な過失があった場合などには、技能証明の取り消し・効力停止事由に該当することになりますので、ドローンの飛行に当たっては、これらの事由を生じさせないよう注意してください。

技能証明の更新

 技能証明の有効期間は3年となっており、更新するためには、身体検査基準を満たし、かつ、「登録更新講習機関」が実施する「無人航空機更新講習」を修了したうえで、有効期間満了日の6か月前から有効期間満了日までの間に更新の申請をする必要があります。

 無人航空機更新講習では、「無人航空機を飛行させるのに必要な事項に関する最新の知識および能力を習得させるための講習」が実施されることとなっています。

 2023年1月に初回の技能証明書の交付がなされているため、2025年の7月には更新講習が開始されることになります。既に技能証明を取得した方々にとっては、更新講習の内容や費用、実施場所などが気になるところと思われますが、更新講習制度の詳細についてはまだ発表されていないことから、今後の公表が待たれます。

 また、更新講習の開始まで1年を切った状況にあることから、登録更新講習の実施を検討している講習機関関係者にとっても、登録更新講習を含めた講習事業の事業計画を策定し、登録更新講習機関としての登録の検討を進めるうえで、早期の情報開示が望まれるところと思われます。

技能証明書の携帯義務について

 技能証明を受けた者は、特定飛行を行う場合には技能証明書を携帯しなければならないとされており、これに違反した場合には、10万円以下の罰金の対象となります。

 航空法132条の54の規定からは、形式的には、技能証明を受けた者が特定飛行を行う場合は、常に技能証明書の携帯が義務付けられていることになります。

 もっとも、特定飛行は、許可承認を受けることによっても可能なことから、許可承認を受けて特定飛行を行う場合(一等の技能証明が必須となるカテゴリーⅢ飛行は除く)にも技能証明の携帯義務があるのかについては、疑問も生じ得るところです。

 この点、技能証明を保有していない操縦者が、許可承認を受けて特定飛行を行う場合には、技能証明書の携帯義務はないにもかかわらず、技能証明を保有する者については、許可承認を受けて特定飛行をする場合であっても技能証明書を携帯していなければ違反になるというのは、バランスを欠くようにも見えます。

 しかし、許可承認の申請に際しては、技能証明を受けている場合には、技能証明書番号等を記載することとなっていることから、許可承認の申請が正しくなされていれば、技能証明の保有者については、技能証明を保有していることを前提に許可承認がなされていることになります。

 そのため、許可承認に基づいて特定飛行をする場合に技能証明書の携帯が義務付けられるとすることにも一定の理由があると考えられます。

 いずれにしても、この点について裁判所が判断を示したケースはまだないことから、技能証明を保有しているのであれば、許可承認を受けて特定飛行を行う場合であっても、技能証明書を携帯することで、携帯義務違反とされるリスクを回避するようにしましょう。

岩元昭博 弁護士
2006年東京大学法学部卒業、2007年弁護士登録、2019年University of Washington School of Law(LL.M.)修了、2020年ニューヨーク州弁護士登録。
上場企業・中小企業に関する訴訟・紛争対応、人事・労務、コンプライアンス、組織再編等の企業法務、地方自治体に関する行政法務などを中心に業務を取り扱う。
東京都(法務担当課長)及び国土交通省航空局(無人航空機安全課専門官)での業務経験があり、航空局では2022年12月改正航空法施行によるドローンのレベル4飛行実施に向けた制度整備を担当。
2023年にリーガルウイング法律事務所を開設し、現在に至る。